きさらぎチケット・トゥ・ライド 6
4つの数字で10を作る、所謂「テンパズル」は、通常そこまで難しくはなくて、4つの数字が全て異なる場合必ず10を作ることができるとされている。しかし、これは4つの数字の並び替えが許されている場合だ。今回のように、並び変えることができない場合、難易度は急に高くなる。だから、どれだけ算数が得意でも、10を作れなくて進まなければならない場面が多い。
五十嵐と二条のゲームは、五十嵐が3歩、二条が6歩進んだところだった。算数は苦手と行っていた五十嵐が意外な粘りを見せ、逆にゲームを仕掛けた側の二条は着実に歩数を延ばして死へと近づきつつあった。
「これならぜんぜん大丈夫そうですね」
「ああ、だが順調すぎるのが気になる。あの女子高生、まだ余裕そうだしな」
「……さっき私が切符を引かせたときも、笑ったままでした。怖かった」
「まあ、心配するな。俺にはアテがある」
切符を引かせるとき、私は五十嵐と軽く言葉を交わした。心配するなと言われても、甲田が引きずり込まれるところを間近で見て、どうしても怖くなってしまう。自分が死ぬのはまだいいが、目の前で知ってる人が死ぬのはとても怖かった。
(アテってなんだろう)
そう思っていると、ベルがなって計算時間が始まる。
五十嵐は「5391」、二条は「2272」。 結果は、五十嵐が「5-3+9-1=10」でぴったり、移動なし。二条が「2+2+7-2=9」で1歩移動。私はほっと胸をなでおろす。
移動が終わると、五十嵐がちらりと私を見た。私は、二条から見えないように、指で数を表す。人差し指・人差し指・親指、人差し指、中指・人差し指。これなら両手を使わなくて済むから、怪しまれないだろう。これは『ルール』でも全く禁止されていない。(そもそも切符を配る人についての言及がほとんどない)まあ、相手の数字を知ったところであまり『ゲーム』に影響がないからだろう。
私の動きを見て、五十嵐は驚いたようだった。それを見て私も気が付く。
あれ?「2272」なら、「2÷2+7+2」で10が作れない?
さっきの10秒では気が付かなかったが、2ふたつを1に変換するだけで10ができる。このゲームに慣れていない私ならともかく、何度もやっているらしい二条なら、気づいてもおかしくない。
そんなことを考えている間に、秋山が次の切符を配っていた。五十嵐は、持ってきた箱に手を突っ込んで、不敵に笑った。
「なるほどな、こんな仕組みがあるから、適当に計算しててもいいってわけだ」
「なっ何よ」
秋山は歯切れが悪そうに返す。
「この箱……天井に切符が貼ってあるな?ここに10が作りやすい数の切符を貼っておけば、好きな時に引けるんだな」
「えっ!そ、そんなこと」
あからさまに目を泳がせる秋山。
「あら、気づかれたわね」
二条はまだ余裕を崩さない。
「安っぽいトリックだが、これが『ルール』に反しないっていうなら、俺が使っても問題ないよなあ?」
にやりと口の端を釣り上げた五十嵐が、箱から手を引き抜いた。その手に握られていた切符の数字は。
0000。
「何ッ……!」
五十嵐は目を見開く。
「ふふふふ……こうも誘導が簡単だと拍子抜けだわ。そっちのお姉さんが、私の切符の数字をあなたに伝えていたんでしょ?」
えっ、バレてたの?!
「それで私が10ぴったりを作らない理由を……あるいは、つくらなくていい理由を探した。私が何かイカサマをしているから余裕ぶっているんだと。ちょうど次のターンは、秋山が切符の箱を持ってくる番。そこでイカサマの仕組みを発見したら、勝ち誇って自分が使いたくなっちゃうわよねえ?」
笑みが消えた五十嵐にかわるように、二条はにたにたと妖怪みたいに笑った。
「その0000の切符はまさに『地獄への片道切符』。どうあがいても次であなたは終点に到達するわ」
計算開始を告げる発車ベルが響いた。
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