閑話 設定収集・三

【引用している和歌の現代語訳】

〇序 黒蝶の夜へと手を招く

早瀬川 水脈みをさかのぼる 鵜飼舟うかいぶね まづこの世にも いかが苦しき(千載205)

…急流の川の水脈をさかのぼる鵜飼船――殺生戒による来世の報いばかりでなく、それに先立ってまず現世でもどれほど難渋することだろう。


〇四 逢魔が時に魔が差す

うたたねは おぎふく風に おどろけど 永き夢路ぞ さむる時なき(新古1804)

…転た寝は荻を吹く風によって醒めたけれども、煩悩の迷いの永い夢が醒める時はないのだ。


〇十一 逢瀬は遥か藍の色なれど

瀬を早み 岩にせかるる 滝川たきがわの われても末に はむとぞ思ふ(詞花229)

…瀬の流れが速いので、岩に塞がれている急流がその岩に当たって割れるように、たとえあなたと別れても、水の流れが下流で再び行き合うように、将来はきっと逢おうと思っているのだ。


〇十二 月の友を訪ねよ

狩衣かりごろも 袖の涙に やどる夜は 月も旅寝の ここちこそすれ(千載509)

…狩衣の袖を涙に濡らして旅宿する夜は、月も私と一緒に旅寝している心地がするのだ。


〇十四 刹那、淋しき黒蝶を見たり

花は根に 鳥は古巣に かへるなり 春のとまりを 知る人ぞなき(千載122)

…春が暮れゆけば、桜の花は根に帰り、鶯は古巣に帰るという。桜も鶯も帰るべき場所はあるが、では春はどこに帰るのだろう、その帰り着く果てを知る人はいないのだ。


〇二十二 白き鳥、月夜を飛びける事

見る人に 物のあはれを しらすれば 月やこの世の 鏡なるらむ(風雅608)

…眺める人に物の哀れとはどういうものかを知らせるので、月はこの世の鏡なのだろうか。


〇二十三 ひとり黒蝶を捕りて明星を見ゆ

闇のうちに 和幣にきてをかけし 神あそび 明星あかほしよりや 明けそめにけむ(久安百首)

…闇夜のうちに和幣にきてを掛けて奏し始めた神楽――明けの明星と共に、「明星」の歌によって夜が明け始めたのだろうか。


〇二十八 手招き草の衣映ゆる秋の終りに

もみぢ葉の ちりゆくかたを 尋ぬれば 秋もあらしの 声のみぞする(千載381)

…紅葉した葉の散ってゆく方向を尋ねて行くと、秋ももう終りだと告げるような嵐の声ばかりがする。


〇三十

ひまもなく 散るもみぢ葉に うづもれて 庭のけしきも 冬ごもりけり(千載390)

…隙間もなく散り敷いた紅葉に埋もれて、庭のありさまも冬ごもってしまったのだな。


参照元…https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/sutoku.html


【各話の題のふりがな(三十まで)】

二十一 あいおりはんとぞおも

二十二 白き鳥、月夜つきを飛びける事 

二十三 ひとり黒蝶こくちょうを捕りて明星みょうじょうを見ゆ

二十四 夾竹桃きょうちくとうえだゆる朝よ

二十五 紅葉つる頃、蛍見ほたるみへ行けり

二十六 斑紅葉むらもみじにぞ人の五色ごしきを見ゆる

二十七 すみかおる部屋にて赤紅葉あかもみじの美を知る

二十八 手招きぐさころもゆる秋のおわりに

二十九 いたみに似たる秋の夕暮れ

三十  ためしにて日々を懐かしむ

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