第162話 新しい車をどうするか

「帰ったか」


 忌々しさを隠そうともせずに英花が言った。

 遠藤大尉の映画出演推しにはウンザリさせられたので気持ちはわかる。


「あれは何処まで踏み込めるか探っていたな」


「つまらん真似をしてくれる」


「あの調子だと何か大きな案件で依頼をしてくるかもしれないぞ」


「大きな案件?」


「東京の大規模なダンジョンの攻略とか」


「それは最初の遠征のプランに入っていたやつだな」


「あと大きな案件となると何だろうな」


 実際にはいくらでもあるはずなんだけどパッと思いつくものがない。


「一番の有名どころだと北海道だねー」


 遠藤大尉たちがいた時と異なり真利も会話に参加してくる。


「北海道……ということは氷帝竜か。さすがに無茶だぞ、真利」


「そうなんだ。ザラタンと同等かと思ったんだけど、もっと格上なんだね」


 そんな風に言いながらもピンときていないのか真利は考え込んでいる。


「当然だろう。氷帝竜なんてラスボス級だ」


 さすがに魔王ほどじゃないとは思いたいところだが、ニュースの映像で見た限りでは竜の中でも上位に位置するように感じた。

 知能が高い魔物はダンジョンに縛られないことが多いため外に出てきたりすることもあり得るんだけど、その気配が見られないのは実にありがたい。

 あんなのが散歩感覚でダンジョン外に出てきたら、どうなることやら。


「じゃあザラタンは幹部クラスってことかな」


 雑魚ではないからね。


「これが魔王を倒すRPGなら、奴は我ら魔王軍四天王の中では最弱とか言われそうだけど」


「ええっ!?」


 俺の言葉に真利が過剰に驚いている。


「ザラタンって普通に戦ってたら勝てなかったよね。そんなのが幹部の中でも弱い方なのぉ?」


 目を丸くさせる始末だ。


「俺が異世界で戦っていた終盤頃にはザラタンクラスだと中ボスでも下の方だったぞ」


 攻撃力や防御力が一級品でも本能で動く脳筋だからなぁ。

 下手に強いせいで戦い方を学習する機会もないし。

 それ故に罠にかけるのも誘導するのも難しくないから、あの時の俺たちでも戦って勝つことができた訳だ。

 能力的に正面から戦えるようになれば格下認定されてしまうのは、むしろ当然と言える。


「そうなんだー」


 真利は感心するような口ぶりではあったが引き気味である。

 氷帝竜の強さが想像できないのだろう。


「まあ、今はそんな先のことを気にするより新しい車をどうするかだろ」


「その通りだな。キャンピングカーで買い物に行くのは恥ずかしいものがあるぞ」


「だよねー。じゃあ、ネットで調べて比較検討してみよっか」


「待て待て。その前にどういう車にするかを決めておいた方がいい。軽自動車は除外ということでいいんだよな」


「もちろんだ。窮屈に感じるのは避けたい」


 英花や真利は背が高いからな。


「それは車高の高いタイプにすれば解決するんじゃない?」


 軽トールワゴンとか呼ばれている車のことを言っているようだ。


「横幅のことを忘れているぞ」


「あっ、そっか」


「それに軽自動車の軽さで車高が高いと横風を受けると不安定だろう」


「高速道路に乗ったときに痛感したよねー」


「じゃあ、次はファミリーカーでいいか?」


「私はSUVを推すがな」


「どういうこと? 英花ちゃん」


「キャンピングカーで乗り込めないような場所に遠征したいとなったら、どうする?」


 不整地を走ることを考えていたのか。

 そうしょっちゅうあっても困るが一理あるとは思わせられた。


「SUVだって言うほど悪路走破性は高くないぞ」


「そこは魔道具化してしまえばいいさ」


「おいおい、無茶言うなよ。そんなことしたら車検とかでバレてしまう恐れがあるだろう」


「なに、やりようはあるさ」


 慌て気味の俺に対して英花は余裕があるのか自信満々の笑顔を見せている。


「どういうことだよ?」


「まず普通に車を買うだろう」


 車を用意できないことには魔道具化もできないからね。


「次にそれを複製する」


「は?」


 思わず声が出てしまったよ。

 そりゃ、俺が錬成スキルを使えば可能だけどさ。


「そっか! 改造はコピーの方でするんだね、英花ちゃん」


「そういうことだ。普段使いの時はオリジナルで走って、いざという時は入れ替える」


 使わない方は次元収納で格納しておく訳か。


「なるほど、考えたな」


 車検はもちろんオリジナルの方を出すから魔道具化していることが発覚する恐れもない。

 バレる恐れがあるとすればコピーを使用しているときだが、気付かれないように細工しておけば簡単には発覚しないだろう。

 いざとなれば入れ替えてオリジナルに戻せばいい。

 となると一瞬で入れ替えられるようにしておくのがいいか。


「いっそのことナイトドライバーのキッドのレプリカにするのってどうかな?」


 真利が無茶なことを言ってきたぞ。

 ギミック満載の架空の車のレプリカだって?

 単にSUVとスポーツカーで比較検討してどちらかにするというのなら折り合いもつけられそうだけどさ。

 比較する以前にキッドを再現するのは色々とハードルが高いでしょうが。

 ただでさえスポーツカーは目立つのにキッドのレプリカなんてナイトドライバーのファンからも注目の的だぞ。


「スポーツカーを普段使いするのかよ」


「あ……」


 指摘されて気付くとか完全に失念していたな。


「じゃあじゃあ、ナイトドライバーNGのキッドでどう?」


 真利め、粘るじゃないか。

 ナイトドライバーNGというのはナイトドライバーの数十年後という設定の新シリーズドラマだったっけ?


「結局はスポーツカーなんだから同じだろう」


「違うよぉ。NGのキッドは色んな車に変身するんだからー」


 車が変身?

 海外のドラマって荒唐無稽なのが多いよな。

 そのせいか二の句が継げない有様だ。


「変身というならハイテク追跡車ハイパーもあるぞ。あれならオフロードのモードもあったはずだ」


 英花まで参戦してくるか。

 そういや真利のDVDコレクションに感化されていたっけ。


「車が変身なんてしたら公道を走れないだろ。バレたらどう説明するんだよ」


 オリジナルと似ても似つかない状態で走っているのを目撃されたら誤魔化しようがないもんな。

 それ以前に変身する意味がない。

 オフロードも走れるように多少の変形をするというのなら、まだわからなくもないんだけど。


「あーん、残念ー」


「仕方あるまい。リアルはドラマとは違うからな」


 2人も納得はしてくれたようだ。


「じゃあ、英花ちゃんの案で行こうよ」


「SUVでいいのか?」


 真利があっさり譲歩したことで英花が困惑の表情を浮かべた。


「キッドじゃないスポーツカーに興味はないかな」


 そういう基準か。

 簡単に決まるのはありがたいけどさ。


「SUVだったらスポーツカーよりは普通に街中を走ってるから大丈夫だよね」


「普通というのがどのあたりまでを指しているのかわからんが見かける頻度は確かに上だな」


 天変地異が起きて以降、国内の舗装化率が減少しているためか需要があるらしい。

 スーパーの駐車場なんかでもチラホラ見かけるくらいにはね。


「車種はそれでいいとして問題はサイズだぞ」


「そうなの?」


 英花の言った意味がよくわからないのか真利が小首をかしげている。


「昔は大きいサイズのものが多かったようだが今は大中小と様々あるらしい」


 俺も詳しくはないので何とも言えないがね。

 ただ、スーパーで見かけるのはコンパクトSUVと言われるものが多い気がする。


「そういうのはカタログを見て絞り込んでからディーラーで試乗すればいいだろう」


 英花の言う通りだな。

 まあ、最終的にコンパクトタイプになったんだけどね。

 コピーを魔改造する前提だからさ。

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