第161話 聴取の間に面倒なこと考えてませんかね?
その後、堂島氏は目を覚ましたが消耗しているせいで詳細な話をすることは軍医に止められた。
そのまま軍用車両に運び込まれて連れて行かれることになり彼の車は俺たちが預かることとなった。
帰りの足がなくてタクシーを呼ぶしかないかというような状況だったので渡りに船で助かったんだけどね。
後日、堂島氏は1週間の入院を余儀なくされたという連絡が入ったのには驚かされたが。
このまま車を預かりっぱなしになるかと思ったら遠藤大尉たちが来て引き取ってくれたけどね。
そのかわり事情聴取も行われた訳だけど。
それは端から覚悟していたので何の問題もない。
「聞けば聞くほど不思議なもんだなぁ」
不思議そうにアゴに手を当てて考え込む遠藤大尉。
「そうですか?」
「だってそうだろう? いきなり別の場所に転移するなんて、どれだけの魔力が必要なんだか」
「案外、魔力はそこまで消費しないのかもしれませんよ」
「どうしてそう思うんだ?」
「堂島氏がさらわれたからですよ」
「はあっ?」
遠藤大尉が素っ頓狂な声を上げて訝しんだ。
「どうも妖精は堂島氏の魔力が目当てでさらったようですし」
「それがどう関係あるんだ?」
「さらうために転移させる魔力が桁違いだとメリットがなくなりますからね」
「おお、なるほど。堂島を呼び込んでも元が取れないようでは意味がないか」
アゴに指を当てて考え込む遠藤大尉だったが、不意に何かに気付いたような素振りを見せた。
「もしかして魔法が使えるなら人間でも転移魔法が使えるのか?」
「いや、俺に聞かれても知りませんよ。可能だと思うなら試してみればいいんじゃないですか」
並外れた制御力を要求される上に転移先のイメージを強固にしなければならないから、まず無理だけどね。
ちなみに英雄スキルがあれば何とかなるというレベルの話だ。
「それもそうか」
「無茶を言わないでください、大尉。危険です」
たまりかねたのか大川曹長が口を挟んできた。
「危険? どう危険なんだ?」
「大尉は成功したときのことしか考えていないじゃないですか。初めて使おうとする魔法が成功するとでも思っているんですか」
初歩的な魔法でも手探り状態で開発しているのがこの世界の現状である。
手順を踏んで誰かに教わる場合でも不慣れな者だと失敗する恐れがあるというのに転移魔法が成功する可能性など推して知るべしというものだ。
「失敗すると何か問題あると?」
「炎や風の魔法が暴発した時どうなりました?」
「うっ」
冷たい視線を受けた遠藤大尉がたじろいでいる。
「下手すりゃ壁に埋まったり古い映画みたいに悲惨な結末になりかねませんぜ、大尉」
氷室准尉が苦笑しながら大川曹長の援護をしている。
遠藤大尉の思いつきで転移魔法の開発実験に付き合わされてはたまらないという思いがあるようだ。
それにしても古い映画ね。
ハエと融合してしまうやつか?
「それもそうだな。諦めるしかないか」
その言葉を聞いた氷室准尉もホッと安堵している。
「話を戻すが──」
事情聴取の真っ最中だったな。
大尉たちはその筋の専門家じゃないから抜けがあることを期待したいところだ。
俺たちとしては有耶無耶になるのが一番である。
「堂島がいる場所をどうやって探り当てたんだ?」
「探り当てたんじゃなくて、脱出のための手がかりを探していたら偶然発見しただけですよ」
「ふむ。いつも思うんだが堂島は運がいいのか悪いのかわからんな」
「プラマイ0で帳尻は合ってるんじゃないですかね」
苦笑しながら氷室准尉が言った。
「同感です」
大川曹長も同じように苦笑しながら同意する。
俺もそれは否定しないが基本的には運が良いと思う。
堂島氏は運の悪い状態から入って良い方へ回復する感じだからね。
これが逆だったら、たとえ元の状態に戻るのだとしても本人の感覚としてはずっと不幸が続くようなものだろう。
少なくとも何かしらの事件が終わった後に心安らぐものではないはずだ。
「それで堂島を発見した際にレッドキャップがいたと」
「レッドキャップかどうかは知りませんが、そういうことです」
「交渉はしなかったのか」
「問答無用でしたよ。何が気に入らなかったのかは知りませんけど」
「堂島を奪い返しに来たと思われたのかもな」
「かもしれませんね。あの時は何がなにやらわかりませんでしたけど」
「よくもそんな物騒な奴相手に勝てたな」
「デスソースカプセルで先制して魔石を大量に使いましたからね」
そういう事実はないが、英花たちと打ち合わせてそういうことにしている。
「デスソース……、アレか」
うわぁという声が聞こえてきそうなドン引きの顔を見せる遠藤大尉である。
「何だ、それ?」
デスソースカプセルを知らない氷室准尉が聞いてきた。
大川曹長も疑問符を顔面に貼り付けているので知りたいのだろう。
「防犯用カラーボールを攻撃用にしたものとでも言えばいいですかね」
どういうものかを説明すると氷室准尉や大川曹長にもドン引きされてしまった。
「お前らは、おっそろしいことを考えるよなぁ」
「そのおかげで堂島は二度も助けられてるんだぜ」
クックックと喉を鳴らして笑う遠藤大尉である。
「二度? 今回だけじゃないんですかい?」
「張井たちや堂島と初めて会ったときにな」
「堂島さんがオークキングに挑もうとした時の話ですね」
「曹長はよく知ってるな」
「堂島さんと組むことになった時に渡された資料にありましたよ」
「そうだったかねえ」
氷室准尉には覚えがないようだ。
細かなことは気にしない准尉らしいとは思うものの軍人がそんなことで大丈夫なのかと思ってしまう。
とはいえ当人の問題だし俺が心配する義理はないか。
なんにせよ、やる気があるのかないのか微妙な聴取だ。
こちらの気まで抜けそうだけど、それが向こうの狙いであることも考えられなくはない。
油断させて重要な情報を引っこ抜くなんてのは、いつの世も常套手段だと言える。
毎度のことだし今回はアポありで来ているので事前に油断しないよう確認し合ったのでボロは出さないと思いたい。
気付かないうちにミスをしているかもしれないので絶対はないのだけど。
「後は脱出か。よく出口がわかったな」
「それも偶然ですよ。館が崩れ始めたんで堂島氏の車に乗って逃げただけです」
「森林地帯だったんだろ? 良く車を走らせられたな」
「車のあった方には石畳の道があったんですよ」
「なるほど。君らは裏から侵入して表から脱出した訳か」
「そういうことになるんですかね」
「なんだ? 無事だったのに不服そうだな」
「そりゃそうでしょう。館だけでなく道も消え始めてましたからね。まるで追い立てられてるようでしたよ」
「WAO! アクション映画のクライマックスみたいなことをしてきたんだな」
当事者ではない遠藤大尉は楽しそうだ。
向こうにしてみれば所詮は他人事である。
「映画のオファーなんて来ても絶対にお断りですよ。現実の方は巻き込まれたから仕方なくなんですからね」
「もったいないじゃないか。今回の経験を生かせると思うんだがな」
「冗談よしてくださいよ。面倒なのは嫌ですからね」
釘を刺しておかないと変な話が舞い込んで来かねない。
「涼成の言う通りだ。我々は冒険者であって俳優ではないからな」
説明に関しては俺に任せていた英花も嫌な予感がしたのか断りを入れている。
真利も大きくコクコクと頷いていた。
「そいつは残念だ。傑作映画になると思ったんだがな」
「大尉、おふざけが過ぎますよ。張井さんたちを敵に回したいんですか」
「おっと、それは勘弁してほしいね」
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