第160話 遠藤大尉たちのお迎えが来た
カレーライスは旨かったと言っておこう。
日本人の国民食と言われるだけはあるってね。
……もちろん魔法でレンチンした結果である。
俺や英花も真利のことをとやかく言えなくなった訳だ。
ちょっとした共犯者の気分を味わったよ。
そのせいか周囲の気配に気を配りながらピリピリした状態で食べたけどね。
ただ、疲れている時に温かいものを食べると落ち着くというか癒やされる感じがするから後悔はない。
今回は冷や冷やしたおかげで体力的なものより精神的にキツかったし。
そのせいで真利は一時的にとはいえ壊れた訳だけど。
カレーを食べたら回復したので大した問題ではないと思いたい。
とはいえ、こういうメンタルの部分も鍛えるトレーニングも必要そうだ。
ショック療法か徐々に慣れさせるかは悩みどころだけど、様子を見ながらやっていこう。
いざという時に失敗しないようにしないとね。
そうしてカレーを食べ終わってまったりしていた時のことだ。
不意に真利のスマホから着信音が聞こえてきた。
「おっ、大川曹長が連絡してきたみたいだな」
「うん。そうみたい」
スマホを手に取った真利が肯定した。
そのままハンズフリー通話で電話に出る。
『もしもし、明楽さん? 堂島さんを救出したって本当ですか!?』
挨拶もそこそこに核心を聞いてくる大川曹長である。
それだけ信じられない思いがあるのだろう。
自衛軍が何日もかけて捜索して手がかりすら発見できなかった堂島氏を助け出したなどと言われて信じられる方がどうかしているというものだ。
証拠のひとつもないんじゃ疑われても仕方ない。
「はい」
『何処にいたんですか? いえ、いま何処にいるんです? すぐに向かいます』
支離滅裂とまではいかないが矢継ぎ早に話を進めすぎだ。
真利もあわあわして答えられずにいる。
「大川曹長、落ち着くんだな。質問はひとつにしないと真利が答えられないぞ」
『しっ、失礼しました!』
英花の指摘により大川曹長が我に返ったようだ。
『では現在位置を教えてください。可及的速やかにそちらに向かわせていただきます』
まだ少し前のめりな雰囲気を感じるが、すべきことの優先順位は考えられるようになったようだ。
「堂島氏が消えた地点のすぐ先にあるサービスエリアです。あと、堂島氏は少し弱っていますので自発的に動けるかは不明です」
『大丈夫なんですか!?』
堂島氏の状態を知らせると驚きの声が返ってきた。
「ずっと眠ったままなので断言はできませんが脈も呼吸も乱れた様子はありません」
『そうですか』
ホッとした空気が電話の向こうから伝わってきた。
『では、後ほど』
大川曹長が挨拶して電話が切れた。
とたんに静寂が場を支配する。
「どのくらいで来るかなー」
「さてね。何処にいるか聞いてないから何とも言えないな」
「案外、すぐかもしれないぞ」
英花がやけに自信満々で笑みを浮かべてそんなことを言った。
「その心は?」
「こんな時間に反応があったんだ。起きていた証拠だろう」
「そうだな」
「堂島の件で動いていると考えるのが自然じゃないか?」
「あー、なるほどね」
聞いてみれば、もっともな話だった。
考えれば英花のように推理できるだけの材料はあったのだ。
「現場近くを走っていることは充分考えられるな」
「そういうことだと車の方へ戻っておいた方がいいよね」
真利が提案してきた。
「おっと、そうだな」
大川曹長たちの動向に気を取られすぎて先のことを考える余裕を失っていた。
夜食を食べただけでは回復し切れていないのかもしれない。
寝てない上に読み合う展開で戦ってきた影響が出ているみたいだ。
返ったらちゃんと休まないとね。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
堂島氏の車のところまで戻ってきた俺たちは車外で待機する。
そうしてサービスエリアの入り口付近をゆるい感じで監視し続けることしばし。
「あっ、それっぽい車が来たよ」
「それっぽいと言うより完全に軍用車両じゃないか」
「装甲車ってやつかな?」
「兵員輸送車じゃないか」
「なんだっていい。これで我々は御役御免だ。堂島にかけていた眠りの魔法を解除するぞ」
「ああ、やってくれ」
忘れると魔力が切れるまで眠ったままになるからね。
いま解除しても起きることはないだろうし、堂島氏が起きても風の揺りかごの中では何も見られていないから問題になることは何もない。
ゴツい軍用車両が堂島氏の車のすぐ横で停止した。
堂島氏のファミリーカーとは明らかにサイズが違うため威圧感がある。
軍用車両なんだから当然なんだけど。
「張井!」
遠藤大尉が真っ先に降車してきた。
ダダッと駆け寄ってくる。
「スゲえな、どうやって堂島を発見したんだ? 救出方法は? 結局どこにいたんだ?」
電話をかけてきたときの大川曹長のように矢継ぎ早に話しかけてくる。
前のめりで圧もあるせいで、こっちは仰け反らされている有様だ。
「大尉、近いですって!」
「おおっと、スマン」
両手で何とか遮りながらなだめて、どうにか引き下がってもらった。
鼻息は荒いままだが。
本当にこの人は仲間のことになると冷静じゃなくなるよな。
「で、どうなんだ?」
「いっぺんには答えられませんよ。質問はひとつにしてください」
「お、おう」
俺が遠藤大尉に注意すると氷室准尉が苦笑している。
堂島氏の姿を確認できたことで安心したのだろう。
大川曹長などは諦観を感じさせる溜め息をついていた。
気苦労が絶えないね。
一方で堂島氏の車のドアを開けごそごそと動いている人物がいる。
向こうの面子が誰も行動をとがめないということは医療スタッフなんだろう。
「軍医を連れて来たんですか?」
俺が逆に質問してみた。
呼び出したにしては到着が早いから何か裏技を使ったのかもしれない。
途中までヘリで来て合流したとかね。
「ああ、我々の専属だ。今回の捜索では最初から同行してもらっている」
「そうですか」
ならば堂島氏の容態なども詳しくわかるだろう。
「それよりも堂島は何処にいたんだ?」
「広い森林地帯みたいな場所の中にあるだだっ広い洋館の中ですね」
「そんな場所に飛ばされたのか。よく帰ってこられたな」
「たぶんですけど隠れ里みたいな亜空間ですよ」
「何? どうしてそう思うんだ?」
「高速道路で走行中は夜中だったのに向こうでは真っ暗じゃなかったですから」
「それなら時差のある外国かもしれないじゃないか」
「だから、たぶんと言ったんです」
「あー、そりゃスマン。だが、なんとなくでも亜空間だと思ったんだよな」
「そうですね。洋館から出てきた敵がジェイドたちから聞いていた妖精のような特徴があったので」
「妖精だって!?」
「ええ。子供のように小柄なのに老人のような顔で赤い目の人間がいるなら違うかもしれませんが」
「特殊メイクを使ったコスプレでもしないかぎり、そんな奴はいないだろ」
「魔法も使ってきましたし」
「それで赤い三角帽子を被っていればレッドキャップだな」
遠藤大尉も知っていたみたいだな。
「被っていましたね」
「ビンゴじゃないか。だとすると堂島は餌代わりに引き込まれたのかもな」
「魔力狙いだったようですよ。洋館の中で眠らされていましたし」
「なんてこった。でも、助かって良かったよ」
俺もそう思う。
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