第12話 おっさんvs勇者

 ついにこの時がきた。

 勇者アレックスと決着をつける時が。

 あの日、役立たずだと言われ追放された時の決着を今日つける。

 

「よし」


 自らの頬を叩き、気合いを入れる。

 会場に足を踏み入れると賑やかな歓声に包み込まれる。

 みんなこの決勝を待っていたようだ。


「さあ、皆さんお待たせしました。いよいよ、決勝戦になります。決勝の相手はあの勇者アレックスと今回初参加で勝ち続けた謎の中年ギル・クラーク。果たしてどちらが勝つのでしょうか。目が離せません」

 

 司会がいつも以上に声を張り上げて盛り上げる。

 決勝ということもあって頑張っているようだ。


「よく、ここまで上がってこれたな。ギル・クラーク」

「まあな。そっちこそさすがだな。アレックス」

「ふん、当たり前だ。オレは勇者なんだぞ。その辺の凡俗と一緒にするな」


 審判が試合開始の笛を鳴らす。

 勇者が試合開始と同時に突っ込んでくる。

 持っている剣を突きの構えにして、首を狙ってくる。

 慌てて、なんとか持っていた剣で防ぐ。


「おいおい、殺す気か」

「フン、大人しく死んでいればよかったものを」

「なんだって?」

「前から貴様のことは気に食わなかったんだ。これを機に殺してやる」


 アレックスが俺のことを気に入らなかったのは知っていた。

 でも、まさか俺を殺そうとするほどだったとは……。

 

「ほら、いくぞ!」


 勇者の剣さばきはむちゃくちゃだ。

 素人の剣さばきそのものだ。

 だが、それでも問題ない。

 なぜなら、圧倒的なパワーがあるからだ。

 その細身のどこにそんなパワーがあるのかと疑問に感じるが、だがこの剣と剣をぶつけた時に感じる衝撃は確かだ。

 剣を握る手がしびれる。

 さすが人類最強は伊達じゃない。


「どうした、おっさん。そんなんじゃ、オレに傷一つつけらんねえぞ!」

「くっ」

 

波のように押し寄せてくる剣劇。

ソウルイーターで強化された肉体でなお、耐えられるかどうかはわからない。

隙を見て、何発か攻撃してみるも野生の勘とも呼ぶべき超常的な反応で防がれる。

なんてデタラメな強さだ。

……でも、勝てないわけじゃない。


俺はレンフリーと密やかにした魔法の特訓を思いだす。

勇者との決勝戦前。

俺はレンフリーにある魔法の稽古をつけてもらっていた。


「だいぶ、苦戦しているようじゃの」

「知識はあるんだ。でも、この魔法の根本を理解できていない気がするんだ」

「そりゃ、本来は生者には理解できぬ魔法じゃからのう」

「やっぱり習得は無理なのか……」


 俺が諦めかけているとレンフリーが肩に手をポンと乗せる。

 

「大丈夫じゃ。お前さんは一度死んでおる。その時のことを思い出すんじゃ」

「死んだ時のことを」

 

 暗く、冷たく、深い海の底にいるような気分だった。

 あの時の感覚か?


「どうやら、答えを得たようじゃのう。その感覚を本番で忘れずにな」

「はい」


 そうだ。あの時の感覚を思い出せ。

 悔しくて死んでも死にきれなかったあの時の気持ちを思い出せ!


「死ねッ! ギル・クラーク!」 

「我、無にあらず、されど生にもあらず。我が肉体はきっとあの世にあって、この世にないものであった。霊体化ブレイブ・スピリットス


 途端に剣の重みが消える。

 いや、それどころか身体の重みすら消える。

 勇者の剣は俺の身体を


「ば、馬鹿な……。俺の攻撃が通り抜けただと……?」

「これが究極の死霊魔法。霊体化。俺自身を霊にすることだ」


 もはや、俺に物理攻撃は通用しない。

 この状態の俺は無敵だ。

 俺は剣を実体化させ、勇者に斬りつける。

 試合用に刃先がつぶれているため斬るというよりは殴るという感じだが。

 剣で防ごうとするも、剣を霊体に戻し、すり抜けさせて肉体に触れる時に再度実体化させる。

 先ほどとは打って変わった一方的な攻撃。

 勇者は目に見えて焦り始める。


「ばかな、ばかな、ばかなぁーーーーーーー! このオレが、勇者様が一方的にやられるだとぉ。そんなばかな。オレは人類最強なんだぞぉ!」

「お前は人類最強なんだよ」

「なにぃ!」


 元・魔王モルシレンスの究極魔法を持って勇者を倒す。

 まさか、こんなことになるとはな。

 一か月前、勇者の雑用や囮役をしていた頃には考えもしなかった。

 だけど今は明確に勝利のビジョンが見える。

 

「俺は変わったんだ。お前に追放されてから」

「くそがっ、今更追放したことを謝罪でもほしいってのか。オレはてめえが使えなかったから追放しただけだ。オレは悪くねえ!」


 勇者の身体は一方的に斬りつけられて、ボロボロだ。

 こんな勇者みたことがない。


「いいや、謝罪の言葉が欲しいんじゃない。俺が欲しいのはただ一つ。お前の敗北だ。勇者アレックスよ!」

「お前なんぞに誰が負けてたまるかぁーー!」


 そうは言っても勇者の攻撃は当たらない。

 もう勝負はついている。

 勇者アレックスには俺を倒すすべはない。


「嫌だァ、負けるのは嫌だァ。オレは勇者なのに、人類最強なのに……」

「残念ながらお前は負けるんだ。お前が見下していた俺の手によってな」


 力を振り絞った一撃を勇者にお見舞いする。

 勇者アレックスは力なく倒れた。 


「勝者はまさかのまさかのギル・クラーク選手だぁーーー!!」

 

 俺の勝ちだ。

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