第13話 エピローグ
「アレックス、寝込んだって。怪我よりも精神的ショックの方がでかいみたい」
「自分の実力を過信しすぎてたからな。無理もないか」
トーナメントが終わって数日経ったころ、俺はセリアに呼び出されて勇者には内緒でこっそり会っていた。
勇者アレックスがその後、どうなっていたのか。俺も気になっていたところだった。結果は精神的ショックで寝込んでしまったらしいが。
「それにしてもいつの間にあんなに強くなってたの?」
「ちょっと、色々あってな。話せないんだ」
「ふーん、色々ね」
セリアは色々と鋭いから、もうなんとなく察しはついているのかもしれない。
だがまあ、言わなければ疑惑は疑惑のまま終わるだろう。
別に言う必要もないしな。
「ねぇ、これからどうするの?」
「魔王を退治しにいく」
「本気? 勇者さまもいないのに」
「ああ、本気だよ。それに見たろ、俺の強さ。勇者がいなくても倒せるさ」
「そうねぇ」
俺は究極の死霊魔法。霊体化まで使えるようになったんだ。
魔王を倒すくらいわけないはず。
「ねぇ、魔王退治に優秀な魔法使いはいらない? 今ならフリーなんだけど」
「よしてくれ。俺たちはもう終わっただろ」
「それもそうね」
「それに俺にはもう……」
そう呟きかけたところだった。
走って誰かが駆け寄ってくる音がする。
「ギルー! そんなところでなにしてるのー! 早く次の街に行こうよー!」
「優秀な魔法使いならアテがあるんだ」
メイが手を振って俺を呼ぶ。
俺も手を振り返す。
「ということなんだね」
「なるほど、若い子に浮気と」
「お前にだけは言われたくない」
大体、俺とメイはそんな仲ではないのだ。
ただの仲間だ。
「向こうはそうは思ってないんじゃない?」
「どういう意味だ」
「……なんでもないわよ。相変わらず鈍いわねぇ」
「まあいい。俺はそろそろ行くよ」
「そう。じゃあね」
「じゃあな」
セリアとの別れはこんなもんでいい。
お互い知らない仲じゃないし。
それにもう終わったんだ。
さらば、俺の初恋の人よ。
とぼとぼと歩いているとメイが俺の元まで駆け寄ってくる。
「ギル、なにしょぼくれてるのよ」
「別になんでもないさ。それより、そろそろ街から出ようか」
「それなんだけど……」
そう言って、メイは後ろを振り向く。
メイの後ろに見覚えのある聖胴服を着た少女が。
まさか……。
「ルナなのか?」
「はい。お久しぶりですね、ギルさん」
「どうしてここに」
「もちろん、魔王退治のためです。メイさんから聞きましたよ。ギルさん、私たちと別れた後、一人で魔王退治しようとしていたとか」
「それはそうなんだが……」
「絶対ダメです。私もついていきます」
「俺のところに来ていいのかよ。勇者はどうするんだ」
「あんなわがまま勇者知りません。私、ギルさんについていきます」
「え、それは」
「僧侶がいらないなんて言わせませんよ」
そりゃ、回復に光魔法が使える僧侶がいた方が魔王退治にははかどるだろうけど。
いいんだろうか、こんな勇者パーティーから仲間をもらっちゃって。
「それに私、実はギルさんのことがちょっといいなって思ってたんです。セリアさんとは別れたんですよね。それなら……」
「ちょ、ちょっと待った。そんなのアタシ許さないんだから、ギルはアタシのー!」
「い、いや、俺は誰の物でもないんだが」
なんだ? 急にモテ期到来か。
というか、そんなこといきなり言われてもその困る。
「大体、俺はおっさんだぞ。君たちみたいな若い子はもっと年相応の男の子と付き合うべきなんだ」
「別に年齢なんて関係ないでしょ。アタシはアタシがいいと思った男がいいだけだし」
「私もそうです」
確かに言われてみればそうかもしれん。
はっ、いかん。つい納得させられそうになってしまった。
年上の大人としての理性を保たないと。
俺はわざとらしく咳払いをして、場をごまかす。
「さて、それじゃ行くか」
「ごまかしたね」
「ごまかしましたね」
二人にはバレていたが関係ない。行くったら行くのだ。
にしても、勇者パーティーから追放されてこんなことになるとはな。
人生なにが起こるかわからないものだ。
あっ、そういえばレンフリーに霊体化の魔法を会得するようになったお礼を言ってなかったな。
今度、会った時にお礼を言おう。
「それじゃ、行くか二人とも」
俺は元気に声を出して、前へ進む。
もう俺は役立たずじゃない。
あの時は絶望したが、今は希望に満ちている。
俺には仲間がいる。
追放された時にはいなかった仲間が。
勇者を倒した俺に魔王を恐れることない。
一人寂しくミノタウロスに殺されることなんてないだろう。
さあ、冒険に出よう。
そして、今度こそなるんだ。
魔王を倒して英雄へと。
Fin.
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