第11話 おっさん、トーナメントを勝ち進める

  最強の冒険者を決めるトーナメントがいよいよ始まった。

 ルールは簡単。

 刃を潰してある武器や加減された魔法で戦い、相手が倒れるか降参すれば勝ちとなる。ちなみに召喚魔法の類はなしだ。

 一対一の戦いではなくなるからな。

 娯楽の大会なのでもちろん殺しは駄目だ。

 それぞれ力自慢や魔法に自信のあるものがこの大会に参加している。

 まさかの勇者も参加することになったから、参加者は驚いたものの、勇者相手に腕試ししたいってものも多いため参加を辞退する者は少なかった。

 勇者から挑発され、俺も参戦することになったが内心ワクワクしていた。

 自分がどこまでやれるのか興味があったからだ。

 俺は変わった。

 それを証明する絶好のチャンスだ。

 もう役立たずなんかじゃないってことをあのわがまま勇者の前で証明することにしよう。

 トーナメントはくじ引きで決められ、残念ながら俺と勇者は離れ離れになった。

 これでは戦うのは決勝戦になるだろう。

 最後の最後に勇者と戦うのか……。

 まあ、それも悪くないかもしれない。

 それに勇者との戦いはあの魔法が使いこなせるようになるまでいいかもしれない。

 現状、知識だけはあるけど使いこなせていないからな。

 

 トーナメントの一回戦。

 相手は筋骨隆々の頭の禿げた冒険者だった。

 張り上げた胸筋は今にもはちきれんばかりだ。

 思ったよりも初回から強そうな奴がでてきたな。

 司会が声を張り上げる。

 会場はすでに熱気に包まれている。


「さあ、始まりました。マルスル選手とギル選手の戦いになります。マルスル選手は前大会の優勝者で魔法を一切使わずに相手を倒した猛者です。一方、ギル選手は今回初参加の選手となります。勝敗を分けるのはやっぱり前回王者のマルスル選手か、それとも初参加のギル選手か。今、試合が始まります」

 

 前回大会の王者か。これはちょっと手強いかもしれないな。

 俺の前にマルスル選手が寄ってきて、


「ふん、随分と弱そうなおっさんが出てきたもんだな」

「なに、人は見かけだけじゃないさ」


 審判が試合開始の笛を鳴らす。

 試合開始と同時に俺へと飛びかかってくるマルスル選手。

 それを正面から俺は受け止める。

 巨大な岩がぶつかってきた時のような衝撃がはしる。


「ぐっ」

「オラオラ、どうした!」


 力は強いが、思ったほどじゃないな。

 ソウルイーターで強化されている俺の身体ならこれくらいなんとでもなる。

 俺は相手の両腕を掴んで、思いっきり強く握った。


「うおおおおおおおっ」


 マルスル選手は持っていた斧を落としてしまう。

 このまま降参してくれるといいんだが。

 俺はどんどん両手に力を籠める。

 マルスル選手の両腕が赤くなっていく。

 耐え切れず、マルスル選手は俺に頭突きを振舞ってくる。

 これは避けられない。

 頭と頭がぶつかる。

 

「ぐわぁ……」


 うめき声を上げたのはマルスル選手だった。

 俺も痛かったが身体強化されている分、そこまで痛みを感じない。

 このまま押し切らせてもらう。

 今度は自分から頭突きをする。

 マルスル選手は両腕を掴んでいるため防ぎようがない。

 派手な音を立てて、頭と頭が再度ぶつかる。

 よし、もう一度。

 そう思って頭を振りかぶると、その前に

 

「ま、待ってくれ。降参だ。降参」

「おぉーっとここでマルスル選手が棄権だ。ギル選手の勝利!」


 勝ったか。

 あんまり勝利の実感はないが、勝てたことを嬉しく思う。

 これで勇者との対決に一歩近づいた。

 試合が終わり、マルスル選手と握手を交わし、お互いの健闘を称える。


「いやー、こんなに強い人がいるとは思わなかったぜ」

「それはお互い様さ」

「そんなことはねえよ。オレなんてなにもできなかったんだから」

「そうでもない。あんたの頭突きは結構効いたよ」

「本当か? なら、いいんだけどな」


 マルスル選手と別れ、試合会場から離れる。

 そういえば勇者もといアレックスの様子はどうなったんだろう。

 あいつも一回戦が行われる予定だったよな。

 ちょっと見てくるか。

 そう思い、他の試合会場を見に行くもすでに試合は終わっていた。

 近くのおじさんから話を聞く。


「なあ、ここで勇者アレックスが戦ったはずだよな」

「ああ、それならもう試合は終わったよ」

「終わった!? 試合がか」

「そうだ。魔法使いの子が必死に魔法を撃ってたんだけど、勇者様はそれを華麗によけて剣で殴りとばしたのさ。そのまま起き上がらなくて、勇者様の勝ちさ」

「さすが人類最強は伊達じゃないな」


 その無茶苦茶な強さに畏怖する。

 わかってたけど、相手は最強だ。

 だけど、俺の心はどうしようもなく昂っていた。

 相手が強ければ強いほどワクワクするもんだ。

 

 試合はその後も滞りなく行われ、俺は順調に勝ち進め、ついに決勝までいくことになった。

 その間も色々とあったのだが、語るほどでもない。

 なんせ、本当に重要なのはこの一戦なのだから。

 さあ、行くか。勇者を倒しに――。

 

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