第10話 おっさん、トーナメントに参加する

 東へ行って、数日を経てようやく俺達は冒険者の都市アルカミディアにたどり着いた。都市は盛況で通りには街ゆく人々の活気が満ちていた。

 

「こんだけ人がいるなんてな。人混みに酔いそうだ」

「最強の冒険者を決めるトーナメントがあるからね。人が多いのも無理ないよ」

「いつ開催なんだ?」

「明日。今日までエントリーを受け付けているみたい」

「ふぅん」


 まあ、俺には関係のない話かな。

 トーナメントもゆっくり観戦させてもらおう。

 そう思っていた矢先の出来事だった。

 

「アレックス、今回の冒険者どう? 仲間によさそうな人いる?」

「いや、どいつもこいつもパッとしない奴ばかりだ。このパーティーにふさわしいような奴はいない」

「でも、ギルさんの抜けた穴をどうにかしないと」

「わーってるよ、そんなもん」


 前から勇者一行が歩いてきていた。

 会いたくない奴らがやってきたな。

 ここは身を潜めてやり過ごそう。

 俺が物陰に隠れようとすると、メイが不思議そうに尋ねてくる。


「なにしてんの、ギル」

「いや、ちょっとな」

「そんなところにいないで、早く露店巡りしようよ、ギル」

「わっ、ちょ、引っ張るな」

「今、ギルって言ったか」


 ああ、クソ、気付かれてしまったか。

 仕方ない、出るとしよう。

 メイに事前に勇者のことを言っていればこんなことにはならなかったんだろうな。

 今回は俺の落ち度だ。


「よう、アレックス。こんなところで奇遇だな」

「おっさん、てめえ。ここでなにしてやがる」


 はぁ、厄介だ。

 さっさと会話を終わらせてとんずらこくとしよう。


「なにって、目的はトーナメントだよ」

「まさか、おっさん。お前トーナメントに参加する気なのか」

「別にそういうわけじゃ……」

「いいぜ。参加しろよ。お前が参加するなら俺も参加する」

「いや、だから……別にそんなつもりは……」

「前々からお前のことが気に食わなかったんだおっさん。ここでお前をぶっ潰してやる。二度とオレの前に現れぬようギタンギタンにしてやるぜ」


 こいつ、話を聞く気がねえ。

 だいたい、前から俺のこと気に食わなかったって初耳なんだが。

 ということは、あの追放劇は前から計画していたことなのかよ。


「待ってくれ、俺は参加する気は……」

「逃げるのか? まっ、オレはそれでもいいけどな。所詮、お前はいつまで経ってもオレ以下の男だったということだ」

 

 そう言われるとカチンとくる。

 この勇者の傍若無人ぶりにいい加減うんざりしてきたところだ。

 勇者だからって、そんなに偉いのか。

 人をコケにしても許されるわけがない。


「いいだろう、参加してやる。俺がお前を負かして二度とそんな風に尊大な態度をとれなくしてやる」

「はっ、おっさんお前がオレに勝てるわけないだろう。オレは勇者だ。人類最強なんだぞ。それがたかがおっさん冒険者にやられるとでも思ってんのか」

「やってみなきゃわからないさ」


 もう以前の俺とは違うんだ。

 俺には元魔王モルシレンスの死霊魔法がある。

 簡単にはやられない。


「おい、セリアにルナ。予定変更だ。受付まで行くぞ」

「えー、ほんきー。もう歩き疲れたんだけど」

「ギルさんをそこまで嫌わなくても……」

「うるさい、オレが行くって言ったらいくんだ」


 勇者一行はそう言って去っていた。

 あとに残されたのは俺とメイだけ。

 

「随分、勇者ってわがままなのね」

「そうだな。パーティーを組んでいた時はあのわがままに振り回されっぱなしだったな」

「それで、参加するんでしょ、トーナメント」

「ああ。勇者の前でああ言ってしまったからな。勝手に予定を決めてすまない」

「いいのよ、あんなわがまま勇者なんてぶっ飛ばしちゃいなさい」


 メイはあくまで俺の味方でいてくれる。

 勇者より、俺なんかの。

 それがありがたかった。


「ありがとう、メイ」


 感謝の一言を述べて、俺も決意を固める。

 あの勇者と戦う決意を――。

  

「よし、俺たちも受付に行くか」

「そうね」


 受付に行き、受付嬢にトーナメントに参戦する旨を伝える。

 手続きは順調に進み、トーナメントの参加が決まった。

 受付をすませ、会場から離れると見知った顔を見つける。


「レンフリー?」

「おお、お前さんか」


 オーガのレンフリーが一体どうしてこんなところへ。

 まさか魔王を早く退治するよう俺への催促か?

 

「そんな身構えんでも大した用はないわい。モルシレンス様の用事が終わったから、この都市にふらっと寄っただけじゃ」

「なんだ、そういうことか」

「お前さん、出るのか。この大会に」

「ああ。そうだ、レンフリー。ある魔法の練習に付き合ってほしいんだが」

「ん? よいぞ。儂もちょうどすることがなかったからのう」


 よし、死霊魔法に詳しいレンフリーが手伝ってくれるなら、この魔法は習得したも同然だ。

 俺にはまだ一度も使ってない、それでいて強力な死霊魔法がある。

 この魔法が使いこなせれば俺は勇者にも勝てるはずだ。

 

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