第9話 おっさん、魔物の群れを倒す

「う、噓でしょ」

「残念ながら本当の事だ」

 

 俺の衝撃的な告白にメイは動揺していた。

 まあ、そりゃするよな。

 元魔王モルシレンスの眷属になったって言えば。


「じゃあ、アタシ達人類の敵になったってこと?」

「そうじゃない。契約はしたが俺は人間の味方だよ」

「???」

「まあ、わからないのも無理はないさ」


 俺は脱いだシャツと上着を改めて着なおす。

 さて、やるべきことをやろうか。


「ワーウルフ達の密会の場はどこだ?」

「それなら東を二時間走ったところにある」

「ありがとう。もういいよ」

 

 魔法を解き、霊魂をその場で解放する。

 ワーウルフの魂はこれであの世に戻っただろう。

 ここからだと遠いな。

 仕方ない。もう一回こいつを使わせてもらうか。

 倫理的にいい行いとは言えないが。


「メイ、俺は今から気を失う。身体を守っていてくれないか」

「どういうこと?」

「つまり、こういうことさ。魂は彼方なり、肉体は此方なり、レス・インぺリウム」


 意識が失われる。

 目覚めた時には俺は毛むくじゃらの体になっていた。

 死んだワーウルフの肉体に憑依したのだ。

 焼け焦げたとはいえ体組織はまだ大丈夫そうだ。


「死んだワーウルフがよみがえった!?」

「メイ、俺は今からこいつの肉体を使って偵察しにいってくるよ」

「喋った!?」

「じゃ、行ってくる。俺の肉体をよろしく頼んだ」

「もう、なにがどうなっているのよー!」


 突然、意識を失って倒れた俺といきなり立ち上がったワーウルフの俺を見て混乱するメイ。

 すまないな、後で全部説明するよ。

 ワーウルフが身に着けていた邪魔な鎧を脱ぎ、二足歩行から四足歩行へと切り替える。この方が走るのが速い。

 密会場所まで急ぐか。連中の気が変わらないうちになんとかしないと。


 東へ向かって走ってしばらくすると、ワーウルフ達の臭いが濃くなっていく。

 ここが奴らのアジトか。

 森の中に洞窟があり、そこでワーウルフ達が出入りしているのが見えた。

 外からじゃ確認できないが、五十八匹いても不思議じゃないな。

 よし、場所は確認できた。

 あとはこの場所に向かうだけだ。

 

「誰だ!」

 

 洞窟の外に立っていたワーウルフが隠れている俺に気付く。

 なぜだ。なぜ、気付いたんだ。

 その時、焦げた臭いがすることに気付いた。

 そうか。メイが魔法でこいつの肉体を焼いたから、その臭いがワーウルフ達に気付かれたのか。

 ワーウルフ達は鼻がいいからな。

 ここは魔法を解いて、元の身体に戻るとするか。

 離れているから戻るのには時間がかかるがなんとかなるだろう。

 魔法を解き、俺は元の身体へと戻った。


 目を覚ました時にはもう朝だった。

 なにやら後頭部に柔らかいものが。

 メイが俺の顔を覗き込んでくる。


「ようやく、起きたのね」

「ここは村か」

「そうよ。ずっと気を失ってたんだからね」

 

 起き上がって周囲を確認する。

 どうやら、俺はメイに膝枕してもらっていたらしい。

  

「ねぇ、ギルは結局敵なの? それとも味方なの? どっち」

「俺は味方だよ。今もこうして村人たちを助けようとしているところさ」

「うん。じゃあ、その言葉信じた」

「いいのか、そんな簡単に信じて」

「アタシを助けてくれるような人が悪い人だとは思えないもの」


 メイはそう言ってウインクする。

 俺はメイの仕草に思わず照れた。

 それと同時にちょっと感動する。

 こんな俺を信じてくれるなんて。

 思えばこういう人の人情に飢えていたのかもしれない。

 勇者パーティーから追放されてからずっと。


「ありがとう」

「なによ、急に」

「いや、ちょっと言いたくなって」


 よし、気合いは入った。

 ワーウルフ退治に向かおう。

 敵が何十匹いようが関係ない。

 

「俺は今からワーウルフのアジトまで行ってくる。メイはどうする?」

「そんなの当然。行くに決まってるでしょ」



 二人でワーウルフ達のアジトに向かう。

 さきほど偵察に行ったからどこを行けば最短で着くのかがわかる。

 洞窟の前まで来ると、見張り兵が近づいてくる。

 見張りの数は二匹か。

 そう思っていたのもつかの間、見張りの一匹が吠えて、洞窟の中からどんどん仲間が出てくる。

 こいつら全員を相手しないといけないのか。

 でも、やるしかない。


「炎の精霊よ、我に力を与えたまえ。我に仕えたまえ。我の敵を炎の鞭をもって罰せよ。イグニス・ウィップ」


 メイは呪文を唱え、杖先から炎の鞭を出し、近づいてくるワーウルフたちに攻撃する。

 メイが気を引いている間に俺も俺で呪文を唱える。


「昏き不死なる軍団よ、不死鳥に仕える暗黒の軍団よ、我が呼びかけに応えよ、イモータル・エクセルキトゥス!」


 どこからともなく、白い霧が現れる。

 白い霧からアンデットの軍団が出てき始めた。

 武装したスケルトン、魔獣のゾンビ、中身の入っていない動く鎧が現れる。

 ワーウルフの一匹が持っていた棍棒で、スケルトンの頭をふっとばす。

 無駄だ。こいつらは不死。いくら攻撃しても死ぬことはない。

 かつて大陸中を恐怖に陥れた不死の軍隊。

 そいつらが今、ワーウルフ達に襲いかかった。

 どうなるかは火を見るより明らかだった。

 不死の軍団たちはワーウルフ達を皆殺しにし、結果は俺達の勝利で終わった。


「やれやれ、この事件もようやく一段落ついたな」

「そうね。次はどこ行く?」

「ついてくる気なのか……」

「一人よりはいいじゃない」

「ここから近い都市に向かおうかな」

「ここから近いと言えばアルカミディアね。そういえば、そこで冒険者のトーナメントをやっているって聞いた」

「なんだそりゃ」

「なんでも強い一流の冒険者を決める大会とか」

「ふぅん、それはちょっと楽しみだな」


 今の俺の力がどれくらいなのか試すにはいい機会かもしれない。

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