第7話 おっさん、魔物退治を引き受ける
俺達は村長から食事と引き換えに魔物退治を頼まれていた。
飯を食べるだけなのに、こんなことになるなんてな。やれやれだ。
「ここのところ、夜になると魔物がうろついててのう。家畜が食べられることが度々あるんじゃよ」
「人の被害は?」
「今のところはない。されど、家畜が食べられ切ったら今度狙われるのは我々かもしれぬ」
「なるほど。それじゃ夜もなかなか眠れませんね。魔物の正体はわかっているんですか?」
「うむ。それはわかっておる。夜中に吠えるからな」
「夜中に吠える?」
「ワシらの村を襲ってきているのはワーウルフじゃよ」
「ワーウルフか、厄介だな」
ワーウルフ。二足歩行型の狼で、知能が高く、すばしっこい上に武装していることも多く、並みの冒険者じゃ手に負えない相手だ。
群れで行動し、手練れの冒険者でも複数に囲まれて呆気なく命を落としてしまうこともある。危険な魔物だ。
「数は?」
「今のところ、一匹だけじゃ」
「それならなんとかなりそうだ」
話を聞いていて少し引っかかる。
ワーウルフが一体だけ?
連中は群れで行動するはずだが……。
もしかしたら、俺の知識が間違っているのか、それともなにか訳アリなのか。
「村長さん、おかわりあるかしら」
「メイ、お前はブレないなあ」
魔物の話を聞いても普段通りのメイに思わず嘆息する。
メイはスープを飲み干して、
「だって、こっちには元勇者パーティーの一員がついているし、余裕よ余裕」
「俺の言っていることが嘘だったらどうするんだよ」
「それはないわ。だって、この目で強いところはっきり見ちゃったし」
そういえばこいつ俺が盗賊と戦っていたところを見ていたんだったな。
「それにアタシもいるしね」
「そこは期待しないでおこう」
「ちょっとそれ、どういう意味よ」
だって、盗賊五人に囲まれて助けを呼ぶほどだし。
いや、大人五人に囲まれて魔法使いが太刀打ちできるかというと一部の超つよい魔法使いだけだろうけども。
それでも、あまり期待はできないだろう。
なんせ、そんなに強かったら俺でも噂くらいは聞くだろうしな。
「アタシ、こう見ても超すごいんだからね!」
「はいはい、期待している期待している」
「返事が超テキトーなんですけど」
受けると決めた以上、俺も料理をいただくか。
さっきから腹が減って仕方ない。
そう思って、テーブルを見てみると……。
「ない、俺の分の飯が……」
「ごめんね。ギルが村長さんと話している間に全部、食べちゃった」
「くっ……太るぞ」
「全部、胸に行くから大丈夫♪」
俺のなけなしの嫌味も通じず、メイにさらりとかわされてしまう。
こんなことなら、無駄に警戒せずさっさと食べておくんだった。
俺ががっくりとうなだれていると村長さんが気遣ってくれる。
「まあまあ、まだおかわりもありますので……」
「本当ですか!?」
「ええ。その代わり、魔物退治の方は頼みますぞ」
「ああ。大船に乗った気で任せてくれ」
「とは言ったものの……相手はワーウルフか」
あの後、腹いっぱいになるまでご馳走してもらい、ワーウルフが来る夜になるまでたっぷりと熟睡した。
夜になり、今はわらに隠れてワーウルフの登場を今か今かと待っている。
村人たちは朝が明けるまで戸を閉めるように言っておいた。
言いつけを守り、今の村には人気がまるでない。
準備は万端だ。
しかし、なかなか来ないな。
「ワーウルフって、そんなに危険なの? アタシ、今まで出会ったことないのよね」
隣でわらにくるまったメイが質問する。
なんだかんだメイも戦ってくれるらしい。
相手は一匹とはいえ、戦える奴がいた方がいいか。
「あいつらは独自の言語を喋り、連携してくるくらいには頭がいい。おまけに人から武器や防具を盗んで武装していることが結構ある」
「普通の戦士くらいには手強いのね」
「いや、普通の戦士以上に手強い」
それが複数で襲ってくるんだから大変だ。
以前、勇者さまとパーティーを組む前にいた冒険者の十六人組のパーティーでは八匹のワーウルフと戦ったがあやうく全滅しかけるくらいにはやられた。
戦っているうちに二人は殺されて帰らぬ人となった。
油断はできない相手だ。
「それにしても遅いわね」
「待っていたら来るだろ」
「なんだか、来る前に寝ちゃいそう」
「寝るなよ」
「わかってるってば」
俺達が話している時だった。
突如として、狼の吠え声が聞こえた。
ワーウルフだ。
持っていた荷物の中からたいまつを取り出して火をつけて、ワーウルフの元まで駆け寄る。
向こうもこっちに気付き、剣を持って襲いかかってくる。
剣を抜き、真っ向から対抗する。
力負けすることはないが、押し返すこともできないな。
「炎の精霊よ、我に力を与えたまえ。我に仕えたまえ。我の敵を炎の鞭をもって罰せよ。イグニス・ウィップ」
メイの持っていた杖の先から炎でできた鞭が現れる。
あれがメイの言っていた炎の魔法か。
あの魔法なら知っている。中級魔法の一つで近接特化した魔法だ。
ここはメイに任せてみるのもよさそうだ。
「どいて、ギル。こいつでそいつをしばくから」
「ああ、頼りにしてるぜ」
俺は力を込めて思い切り剣で押す。
その方向はメイの前に。
メイが思い切り、炎の鞭をふるう。
鞭はワーウルフの背中にあたり、火が付く。
「まだまだ、これからよ」
メイは鞭をふるい続け、ワーウルフは全身に火が回る。
逃れようと逃げるが、もうすでに遅かった。
全身に回った火はワーウルフの命をも奪っていた。
息絶え、その場で倒れた。
「一件落着ね」
「いいや、まだだ」
俺は首を横に振る。
おかしいことだらけだ。ワーウルフの生態を知っていればこんなことありえないんだ。
「なにするつもりなの?」
「今からこいつを生き返らせるんだ」
この謎を解くにはこいつから話を聞くしかないだろう。
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