第6話 おっさん、村へ行く

「それにしても随分と不思議な魔法を使うのね」


 村に向かっている途中、メイが唐突に話を切り出してきた。

 どうやら、俺が使っていた死霊魔法が気になるらしい。

 霊魂を呼び出して鎖にするなんて魔法、そりゃ珍しいよな。

 まさか元魔王であるモルシレンスから魔法を教わったなんて言うわけにもいかないし、ここは秘密にしておこう。


「ちょっとある人から魔法を教わってな」

「ふぅん、珍しい魔法使いなんでしょうね。魔法学院を出たアタシでも知らないくらいだし」

「ま、まぁな。変わり者であまり人に魔法を教えたりしないんだ」

「そんな変わり者からよく魔法を教わったわね」

「その人の弟子になったってところかな」


 本当は元魔王の眷属になったんだがな。

 言ったらたぶん腰抜かすだろうな。

 それにしてもこの話題はまずい。

 話しているうちにボロが出るかもしれない。

 話を切り替えないと。


「メイの方はどうなんだ。どんな魔法を使うんだ」

「アタシ? アタシの魔法は烈火の魔女の二つ名の通り、炎属性の魔法よ。昔から炎属性の魔法とは相性がいいのよね」

「他の属性の魔法は使えないのか?」

「ダメね。他はもうからっきし。おじさんは?」


 俺は一応、中級魔法でなら光属性以外の魔法なら大体は使える。

 高火力の魔法は扱えないが中級魔法だけでもかなり使い勝手がいい。

 器用貧乏といったらそれまでだが。

 と、メイに説明したら驚かれた。


「すごい、戦士としても強いのに魔法もそこまでできるなんて」

「そうか? これくらいなんてことないけどな」

「勇者パーティーの一員になれたのも納得」

「まあ、俺はその勇者パーティーから追放されたんだけどな」


 上位の魔物には俺の使える中級魔法なんて通じない。

 だからこそ、元魔王と契約したのだが。


「勇者に見る目がなかったのよ。アタシなら追放なんてしないわ。というか、今からでもアタシとパーティー組みましょうよ」

「今からなんてそんな事、急に言われても」

「ねぇ、いいでしょ。お願い」


 メイは俺の腕を両腕でつかみ、その大きな胸元にあてて上目遣いで、


「ダメ?」


 一体どこでそんなテクを覚えてきたんだい、お嬢さん。

 こんなことをされたら断りにくいが大人の理性をもって振り切る。

 俺は十代の少年ではない。三十代の大人なのだ。


「その手にはのらないぞ」

「ちぇー」

 

 効かないとみるや、すぐさま俺の腕を離す。

 あ、危なかった。昔の俺ならコロッとなびいていただろうな。

 咳払いをして、平静に戻る。


「それにな、メイ。俺の旅の目的を聞いたら君は俺とパーティーを組む気はなくなるぞ」

「どういうこと?」

「俺はな、魔王を倒すつもりだからだ」


 キメ顔でビシッと指を指して言った。

 どうだ、驚いただろう。

 メイは不思議そうにつぶやく。


「勇者パーティーから追い出されたのに?」

「うっ、まあそうだ。だから君を巻き込むわけにはいかないし、この予定を曲げるつもりもない。だから、諦めてくれ」

「まあ、そうね。さすがにアタシも魔王の相手はごめんかな」


 わかってくれたようでおじさんは嬉しい。


「でも、なんで魔王を倒したいの? 勇者に任せればいいじゃん」

「英雄になりたいんだよ。魔王を倒した英雄に。それが追放された俺の価値を証明する唯一の方法だから」

「ふぅん……。あっ、村に着いたよ」


 村はどこにでもあるような牧歌的な村だった。

 平和な集落なようで子供たちが遊んでいるのが見て取れる。

 さて、村で食事にありつけないか話してみよう。

 もう腹がペコペコだ。



 それから俺たちは村長さんに事情を話し、村長さんの家で食事をすることになった。ただで食事をさせていただけるなんて村長さんはなんて気前がいいんだ。


「いやー、まさか村長さんの家でご相伴に預かるとは思いませんでしたよ」

「ほっほっほ、見ず知らずの困っている人を助ける、当然の事しておるだけよ」


 机には豪勢な食事が置かれていて、とてもおいしそうだ。

 メイもご馳走に目を輝かせている。

 こんな親切にしてもらってなんてありがたいんだ。


「どうぞ、召し上がってくだされ」

「いただきまーす」

「あっ、おい」


 メイが食事に手をつけると村長の目がキラリと光る。

 うっ、なんか嫌な予感が。

 タダほど高いものはない。

 こういう時はきっとなにか裏がある。

 俺の冒険者としての長年のカンがそう言っている。

 手をつけずにいると村長が話を切り出す。


「……ところで、物は相談なんですがな。どうしても冒険者さまたちにやっていただきたいことがありましてな」

「え?」

「やっぱりか」


 メイはもうかなり食べた後だった。

 無警戒にもほどがある。


「お二人には魔物退治をしていただけないかと」

「……もぐもぐ。いいわ、任せなさい。こっちには元勇者パーティーの冒険者がいるんだから」

「俺も巻き添えかよ」

 

 メイの方を見ると、今もパクパクと食べていた。

 ぐぅーと腹の音が鳴る。

 背に腹は代えられん。引き受けるしかないか。

 魔王討伐から少し遠のいたが仕方ない。


「それで、どんな魔物を倒せばいいでんすか」

「話が早くて助かります。実はのう……」


 

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