第5話 おっさん、魔法使いの女の子に出会う

 ミノタウロスを倒した後、森で一晩寝て過ごした。

 霊魂に見張ってもらっていたので、モンスターが近くに寄ってきても安心だ。

 朝になり、森から抜け出ると女の子の叫び声が聞こえてきた。


「だれかー! 助けてー!」

「待ってろ、今行く」


 剣を持って、悲鳴の元まで走っていく。

 悲鳴の元までたどり着くとそこには男が五人と魔法使いらしき格好をした女の子が一人囲まれていた。

 男たちは身なりが汚く、短剣や研がれていない剣をもっていたから、おそらく盗賊だろう。

 相手は武器を持っている。何をするかわからない。

 まずいな、早く助けてやらないと。

 

「おい、お前らこっちを見ろ!」

「なんだァ、テメェは?」


 叫んで男たちの注意を引く。

 男たちがこっちを見たと同時に魔法をかける。

 

「死にたえた者よ、我に集え。敵を屠るために、我に従え。霊魂よ、我が敵を拘束せよ、霊魂の鎖アニマチェイン

 

 霊魂を使って、五人中三人を縛り上げる。

 よし、これで戦いやすくなる。


「なんだよ、これ。動けねぇぞ」

「どうなってんだよ、こりゃ」


 縛られて、男たちが悲鳴を上げる。

 抜け出そうするが、簡単には外せない。


「助けてほしかったら、女の子を解放しろ」

「無駄よ。この盗賊共、味方のことなんて気にも止めないわ」

「そういうこった。ねんねしな、おっさん」


 盗賊の一人が剣を頭に向けて振りかぶってきたので、しゃがんで避ける。

 魔物相手なら苦戦したが、盗賊相手に後れを取る俺じゃない。

 握りこぶしを作り、下から腹部めがけて殴りつける。

 

「ぐっ」


 腹を殴られた盗賊はそのまま地面に倒れ込む。

 みぞおちに強烈なのを入れたから、しばらくは立てないだろう。

 

「くそ、なんなんだよ。このおっさん、見かけよりずっとつええじゃねえか」

「降参しろ。おまえ達にはもう勝ち目はない」

「うるせえええ!」


 最後の一人が短剣を持って、俺に向かって突っ込んでくる。

 高速で突きを何度も繰り返すが、当たりはしない。

 これでも元勇者パーティーの一員だからな。

 こんな奴ら相手にもならない。


 突きを見抜いて、相手の腕を掴む。

 力を込めて、完全に固定する。


「離せっゴラァ!」

「嫌だ。離さない。お前が降参を認めるまではな」

「誰が降参なんてするか、おっさん」

「なら、しばらく寝ているんだな」


 反対の手で顔面を思い切り殴る。

 グシャリとおおよそ人体で聞くことのない音が聞こえ、男は倒れた。

 なんだか前より力が上がっているような気がする。

 ミノタウロスを倒したからか?

 この急激なパワーアップはきっとソウルイーターの力のおかげだろう。

 

「ひいぃぃぃぃ」

「助けてくれ! 俺たちが悪かった」


 殴られてから起き上がる気配のない味方を見て、霊魂に拘束されていた盗賊たちが命乞いをし始めた。

 もう戦意は完全に消失したようだし、解放してやるか。

 魔法を解くと味方を捨てて、一目散に逃げていく。

 おいおい、倒れたこいつらはどーすんだよ。


「ありがとっ、おじさん。助かちゃった」

「どういたしまして。あんまりこの辺を女の子が一人でうろつかない方がいいぞ」

「そうなんだけど、アタシ以外のパーティー。この近くの魔物にやられて全滅しちゃって」

「全滅って、死んだのか?」

「ううん、死にはしなかったんだけど。完全に心折れちゃってね。前の街まで引き返すって」

「なるほどな」


 ここいらの魔物は強い。

 俺も一人だとミノタウロスに殺されて死んだ。

 この辺を歩くにはさっきの盗賊たちみたいに複数人じゃないと厳しいだろう。

 

「ねっ、おじさん。アタシと一緒に次の街まで行かない?」

「そうだな。さっきみたいなことになったら困るしな」

「あっ、あれは相手がたくさんいたから助けを呼んだだけで。三人くらいならまだなんとかなったし」

「はいはい、そういうことにしておくよ」

「むー」

 

 不服なのかふくれっ面になる女の子。

 事実だろーに。

 でも、この辺を歩けるってことはそこそこの実力者なのかもしれない。

 

 改めて女の子を見る。

 三角帽子に茶色のツインテール。耳には宝石のイヤリングをつけている。

 童顔で、目が大きい。

 肌はきめ細やかで白い。おそらく十代くらいだろう。

 一般的な女性と比べたら胸は大きい。

 黒いローブを羽織っており、下には白いスカートを履いている。


「なに、おじさん。ジロジロ見て。あっ、もしかしてアタシに見惚れちゃった?」

「い、いや、そういうことではないが。随分と身軽な格好をしているんだなと」

「そりゃ、アタシ魔法使いだし。重い装備品はかえって邪魔なのよね」


 それはそうか。

 魔法使いが身軽な格好をするのは当然だな。


「おじさん、名前は?」

「俺か? 俺はギル・クラーク」

「なんか、アタシ聞いたことあるかも」

「……勇者パーティーにいたからな。聞いたことはあるだろうさ」

「勇者パーティーにいたのになんで一人なの? もしかして、訳アリ?」

「まあ、そんなところだ。それで君の名前は?」

「アタシはメイ・ブラウン。こう見えて、烈火の魔女って呼ばれてる冒険者よ」

「よろしく、メイ」

「こっちこそ、よろしく。ギル。ところで、ギルはどこか行くあてはあるの?」

「いや、どこか近くの村や町に行って腹ごしらえをしようと思っている」

「あっ、なら、アタシ。ここからちょっと遠いけど村があるの知っているよ」

「本当か?」

「うん、アタシが案内してあげる」

「それは助かる」

「助けられたからね。これくらいのお礼はしないと」


 朝からなにも食ってないから、村に行けばなにか食料を分けてもらえるかもしれない。

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