ギル、追放後 勇者アレックス視点
気にいらなかった。
追放したギル・クラークがとにかく気にいらなかった。
オレより弱いくせになにかと俺を頼れよという態度。
本人は頼れる仲間を演じていたつもりなのかもしれないが、オレからしたらその態度が気にくわなかった。
なにより、歳上のくせに媚びへつらうとこ。
オレから馬鹿にされているにも関わらず、ヘラヘラしていて俺は勇者じゃないからと一歩引いた態度が気にいらない。
オレに花を持たせようとしていたのだろうが、そんな気遣いが気に入らない。
あんな大人になんてなりたくない。
誰かをサポートするだけの人生なんてクソだ。
オレは常に主役でありたい。
この気持ちに嘘偽りはない。
だが、オレの仲間も主役であるべきだ。
オレの率いる勇者パーティーは全ての人間から尊敬されるべきなのだ。
それが選ばれし者の宿命なんだ。
昔は凄かったなんて老人の苦労話に興味なんてない。
オレは今凄い奴が欲しいのだ。
セリア・ベルスタンを寝取ったのもギル・クラークが気に入らなかったからだ。
あいつの幼馴染兼恋人を寝取ってやったら少しはあいつの態度が変わるのじゃないかと思った。
オレに対して剥き出しの敵意をぶつけ、襲いかかってくるんじゃないかと思ってた。本気を出して戦うんじゃないかと――。
そうなればまだ面白い奴だと思った。
だが、あいつはあっさりと諦めた。
自分の弱さを認め、恋人が寝取られた事実をあっさりと認め、去っていた。
本当にどこまでいってもつまらない男だった。
パーティーを追放したその日にルナ・アルシアが俺に向かって抗議してきたが、どうでもいい。
あなたはギル・クラークを追放したことを今に後悔しますよと言ってきた。
後悔だと?
オレが?
するわけがない。
オレは勇者だ。人類最強の男だ。
あんな魔物との戦いについてこれなかった奴相手に後悔なんてするわけがない。
夜、セリアを抱いていても思い出すのはギル・クラークの存在だった。
あいつの顔がちらついていて離れない。
奴の女を寝取っているからだというのもあるが、それ以外にも理由はある。
その理由はわかっている。
オレは結局、あいつと戦いたかったのだと気付いた。
パーティーとしてじゃなく、敵として。
オレはきっとあいつの全てを否定したかったのだ。
あいつの全てを否定してこそ、きっと自分を肯定できるんだ。
あいつの存在がオレを否定している。
それくらいあいつとオレは水と油だったんだ。
ギル・クラークがパーティーから抜けた翌日、ルナが言っていたことがなんとなくわかった。
森をさまよい、ギガントキマイラと出くわした時だった。
俺達はすぐさま戦闘準備をし、向こうも見つけてそうそう襲いかかってきた。
いつもの囮役がいないから、ギガントキマイラはあちこちに向かって火を吐き、魔法を詠唱する準備ができなかった。
オレとしても、なかなか隙ができず攻めあぐねていた。
首が何本もあるせいで、回復役のルナ・アルシアにまで火が向かっていた。
仕方なく、オレが囮になるしかなかった。
オレが囮になってセリアに魔法で攻撃してもらう他に倒すすべはなかった。
なんで勇者のオレがこんなことをしなくちゃならないんだ。
思わず心の中で毒づくが囮役がいなくなったので仕方ない。
こんな時にギル・クラークがいれば、奴が囮になってオレが攻撃することができるのに。
なんでオレが、このオレが、こんな地味なことをしなくちゃならないんだ。
クソ、馬鹿か。オレは。
一瞬でもあのギル・クラークに戻ってきてほしいだなんて思うなんて。
少しでもそんなことを考えた自分に腹が立つ。
あんな奴いらないはずだ。
そうだ。勇者パーティーにあんな役立たずは不要だ。
足手まといにしかならない。
結局、ギガントキマイラはオレが囮になって、その間にセリアが魔法を撃って倒した。
クソッ、屈辱だ。
このオレが囮になるしかないなんて。
戦闘が終わり、ルナ・アルシアがオレの元まで駆け寄ってくる。
「だから、言ったでしょう。ギルさんを追放したらあなたは後悔すると」
「うるさい!」
聞きたくなかった。そんな話。
いっそ、こいつも追放してやろうか。
女だからって、甘やかすんじゃなかった。
いや、冷静になれ。
ここで僧侶まで追放したら、誰が回復してくれるんだ。
今は生意気な物言いにも目をつむれ。
「あいつの抜けた穴を埋める必要がある」
「誰かあてはあるの」
セリアがそうオレに尋ねてくるもオレは答えられなかった。
一応、あんな奴でも並みの冒険者よりは上だ。
そうそう見つかるはずが……。
待てよ。
「ここから東に行けば、冒険者の都市アルカミディアがある。そこで冒険者を募ろう。なに、ギル・クラークの穴を埋められる奴なんて簡単に見つかるさ」
「そう簡単に見つかるかしらね」
「近いうちにトーナメントが始まる。そこで勝ち抜いた強い奴をオレ達の仲間に加えればいい」
「そういうことね。それならギルの抜けられた穴を埋められるかもね」
セリアが納得するとルナが口をはさんでくる。
「ギルさんがトーナメントにいて勝ったらどうしますか」
「その時は……。オレも参戦して叩きのめす」
「なぜ、そこまで」
「あいつが気に食わないからだ」
この世にはどうしても相いれない存在というのがいる。
きっとそれがオレとあいつなんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます