第4話 おっさん、死霊術を覚える

 身体がまるで火にかけられたかのように熱くなる。

 これが元魔王と契約するということかッ――。

 背中になにかが刻まれていくのがわかる。

 ヒリヒリとした痛みが背中を駆けまわる。

 おそらく、契約紋だろう。

 契約した証として身体に紋章が刻み込まれている。

 上位の精霊と契約した者は身体に紋章が刻み込まれるという話を聞いたことがある。きっとこれもそれと同じだろう。

 変化が起きたのはそれだけじゃなかった。


「なんだこれ、頭になにかが流れ込んでる」

「お前には我が魔法の知識と戦闘の経験を流し込んでいる。これで誰かに聞くことなく、我が魔法を操れるようになるだろう」


 確かに流れ込んでくるのは魔法に関することだった。

 きっとこれはモルシレンスが積み上げてきた魔法の研鑽と探求の上の知識がそれらが俺の頭の中へと滝のように流れ込んでくる。

 ぐっ、痛い。

 頭が割れそうだ。

 とどめなく流れ込んでくる知識の数々。

 今までのモルシレンスの戦闘経験。

 死霊魔法をどう扱えばいいのか、なにをすれば効率的に敵を倒せるのか。

 知識と共に戦闘の経験が頭に叩き込まれる。

 それが突然パッと止む。

 俺は思わず膝をついた。

 ゼェゼェと吐息をもらしながら、額に流れる汗を拭う。

 終わったんだ。契約が。


「これでお前は我が魔法を扱えるようになるだろう、それだけじゃない我が不死の軍団も呼び寄せることができる」

「不死の軍団か」


 モルシレンスが大陸中を恐怖に陥れた不死の軍団。

 それが呼び寄せるようになったとはありがたい。

 これで魔王軍と一対多数の戦闘になっても戦える。

 

「レンフリー、アレを持ってこい。我が宝を」

「すでに用意してございます」


 レンフリーが布にくるまれたなにかを俺の前まで持ってくる。

 この形状、剣か?

 

「我が宝剣にして魔剣。ソウルイーターだ。敵を殺せば殺すほどこの剣は魂を吸い、使用者が強くなる魔法がかかった剣だ。これで二ルドラの魂を吸い、我の元まで持ってくるといい」

「ありがたく使わせていただきます」


 布にくるまれた魔剣ソウルイーターを受け取る。

 抜いてみると刃が真っ黒に染まっている。

 鞘には禍々しい装飾が施してあり、剣の柄には血のように赤い宝石が入れ込んである。これは確かに魔剣って感じだな。


「それではお前さんを元の場所へと帰そうかの」

「ああ、頼むよ。レンフリー」

「来た時と同じように儂の肩に捕まるんじゃ」


 俺は言われた通りにレンフリーの肩を掴む。

 レンフリーは来た時と同じように何事かをぶつぶつと唱え始める。

 辺り一帯が白い霧に包まれていく。

 来た時と同じだ。

 レンフリーが歩み始めるので、俺も合わせて歩く。

 ぬかるんだ地面から平らなしっかりとした地面になる。

 やがて、白い霧が晴れわたっていく。

 気付けば元の場所に帰ってきていた。


「では、お前さんとはここでお別れかのう」

「えっ、このまま旅についてきてくれるわけじゃないのか」

「儂には他にもやるべきことがあるからのう。それに魔王二ルドラを倒すのはお前さんの仕事じゃ」

「そんな……」

「心配せんでもお前さんには既にモルシレンス様の魔法と知識がある。誰かに容易く負けたりはせんじゃろう」

「まあ、それはそうだが……」

「なあに、旅を続けていればいずれまた会う時もあるじゃろう。そん時はまた儂が力を貸してやるわい。といっても、儂にできることは限られておるがな」

「じゃあ、その時はよろしく頼む」

「うむ、心得た」


 レンフリーは森の中へと去っていた。

 さてと、俺はこれからどうしようか。

 これからどうするか考えようとすると途端に腹が鳴った。

 とりあえず、どこか街へ行くか。

 腹ごしらえをしないと。

 その時だった。


「グルルゥゥゥ」

「どうやら、その前に片付けないといけない仕事ができちまったみたいだな」


 声のした方を振り返ってみるとそこにいたのはミノタウロスだった。

 こんな時にまた出会うなんてな。

 しかも、前に俺が戦った奴よりも大きい。

 ソウルイーターをゆっくりと抜く。

 大丈夫だ。俺に元魔王様からもらった魔法がある。

 自分に言い聞かせ、万が一のために距離を取る。


「グワァァァァァ」

「今度はやらせはしない。俺が勝たせてもらう」


 襲いかかってくるミノタウロスの突進を跳んでよける。

 さっそく魔法を使わせてもらいますか。


「死にたえた者よ、我に集え。敵を屠るために、我に従え。霊魂よ、我が敵を拘束せよ、霊魂の鎖アニマ・チェイン


 どこからともなく現れた霊魂たちが鎖となってミノタウロスの四肢に絡みつき、動きを封じる。

 じたばたとミノタウロスはもがくが霊魂たちでできた鎖は外せそうにない。

 俺はソウルイーターを構えて、心臓を狙って突く。

 ミノタウロスは避けることもできずにそのまま絶命した。

 殺した後に剣がどくどくとまるで生き物のように脈動する。

 この剣、魂を吸っているんだ。

 不気味な剣に思わずゾッとしつつ、血を払い、剣を鞘に納める。

 力が湧き上がってくる。

 そういえば殺せば殺すほど所有者が強くなるんだっけか。

 今、俺はミノタウロスの力を手に入れたわけか。


「もういいぞ」


 魔法を解き、霊魂を解放する。

 その瞬間、ミノタウロスは倒れた。

 死体はまるで最初から死んでいたかのように一切の生気を感じさせない。

 これが魔剣ソウルイーターに魂を吸われたものの末路か。恐ろしいな。

 

「ゾッとする力だよ。元魔王様からもらったこの剣と魔法は」


 だけど、この剣と魔法さえあれば負けない。

 誰にだって。

 勇者にも、魔王にさえも。

 俺は最強になるんだ。

 誰よりも強い男になる。そして、魔王を討ち、英雄になるんだ。

 勇者すら超える英雄に。

 魔王を倒して俺の価値を証明してみせる。

 俺は役立たずじゃないんだってことを。

 勇者やセリアを見返してみせる。

 そのために元魔王の力だって使ってやる。

 そう決めたんだ、勇者からパーティーを追放され死んだ時から。

 俺の冒険は今ここから始まる。

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