#56 誕生日は、テンションが上がるものである。
数日後、俺がいつも通り学校に登校すると、真斗が『本日の主役』と書かれたタスキをつけて、騒いでいた。
この前までピリピリしていたのにこの変わりように少し驚いた。彼は、あの後いつもの明るい表情が消えて、無気力になっていたからな……。宥めるのに結構手こずった覚えがある。
「みんなーマイバースデーを祝ってくれー」
そういってクラスの女子に絡んでいるものの、冷たくあしらわれてしまっている。まあ、仕方がない。あれは絡み方が悪い。
「真斗、元気になってよかったね」
「確かにな」
俺の横にいる一輝も真斗を見ながらそう呟いている。六月になったので、外は暑く、教室の中もクーラーがついているものの、学校についたばっかの人からしたら、やはり暑く、うちわやハンディファンを使用している人も多い。そんな中、真斗に話しかけられたら確かに暑苦しいだろう。
「田中って誕生日六月一日なんだ」
そこに朝練を終えて戻ってきた莉果がそう尋ねた。真斗はそんな彼女の質問を受けて顔を明るくした。
「そうだよ、あと一日早ければ五月だったのに……」
真斗は何やら落胆しているが、誕生日が早いことに何の意味があるのだろうか……。
「早いほうがいい理由って何かあるの?」
「早くプレゼントがもらえること!」
結局もらえる数は変わらないし意味ないと思うけど、真斗は何故かいい気になっているので水を刺さないでおこう。
「野村はいつなの?」
「私は七月二十一日だよ」
「怜遠と近いじゃん」
「俺は知ってるからなんとも思ってないよ」
俺が莉果の誕生日を知らないとでも思ったのだろうか。
「そういえば、神里くんって誕生日いつなの?」
そこに、会話を聞いていた大田さんが尋ねてきた。確かに俺はあの二人以外に誕生日の話をしたことがなかったので、知らなくて当然だろう。誕生日を聞かれたってことは、月だけじゃなくて日にちも言ったほうが良いのだろうか。
「俺? 八月三十一日だよ」
「そうなんだ。神里くんって夏生まれなんだね」
「意外だった?」
「いや? そんなことないよ」
まあ偏見だけど、『夏生まれ』って単語に悪い意図で使う例はあまりない気がするので、褒められていると思うことにした。
「大田さんは誕生日いつなの?」
「私は十月十一日だよ」
「確かに秋っぽい」
秋は穏やかなイメージがあるので、大田さんのイメージと合うな。旧暦なら十月は冬にあたるけど。
「へえ大田って十月生まれなんだ、でも怜遠俺の好きな女優と誕生日一緒で羨ましい」
「別に女優と一緒だからってどうってことないだろ。どちらかというと活躍してたアスリートと一緒なことの方が嬉しい」
「知ってるよ『英雄』だろ?」
そう。この活躍していたアスリートは英雄と呼ばれていた。そして俺は『英雄』という表現に憧れを抱いている。。まあ大方、俺は『英雄』みたいに目立つタイプではないだろうが。
「なるほどね。森くんはどうなの?」
「僕は一月八日だよ」
「早生まれなんだね」
一輝は学校が始まるかどうかギリギリに誕生日があるのが嫌だと言っていた。俺の場合、仕事で夏休みも何もなかったからよく考えたことなかったけど、今は夏休みがある。しかし、どの学校も二十八日くらいには始まるので、休みになることはない。
それから、真斗がまた女子たちに絡み始めたのを莉果が止めている間、残った三人で話していると、伊藤さんと目があったので、手を振った。そしたら、彼女がこっちに向かってきた。
「神里君、どうしたの?」
「伊藤さんは誕生日いつなの?」
「私も気になる」
大田さんと一輝も首を縦に振っていたので、それを見た伊藤さんが戸惑いながら口を開く。
「……十二月二十一日」
「じゃあクリスマスと近いんだね」
クリスマスと誕生日が近いのは嫌な人が多いらしい。何故なら、お祝いを一緒にされることが多いかららしい。まあ、俺はそんなこと気にしたこともないが。
誕生日でここまで話題が広がるとは思わなかったので、意外とテンションが上がっていた俺であった。
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