#57 感謝されることは、素直に嬉しいことである。

 球技大会の種目が決まった。男子は人数の関係で全員競技がソフトボールと決まったので、女子の出場競技決め。テニス八人、バスケ六人、卓球六人の三つらしい。


「じゃあ、やりたい競技に各々立候補して頂戴」


「わからないことあったら俺にきいてー」


 学級委員の駒田さんがそう言ったのを幕開けに、教室が一気にざわつき始めた。悲しきかな、誰も横山の発言に反応していなかったが。

 

 俺は前の席の大田さんに、なんの競技に立候補するのか聞いてみることにした。


「大田さんは、どれにするの?」


「私はテニスにするつもり。中学校の時やってたから」


 そういえば、彼女は前世では高校でもテニス部に入っていた気がする。大会がどうとか騒がれていた覚えがあるし。でも、今回は入っていない気がする。彼女が部活着を着ているのを見た覚えがないし……。


「高校では続けなかったの?」


「うん。他にやりたいことが見つかったから」


 俺は間接的に彼女の行動を変えさせてしまったのかもしれない……。そこまで影響力を与えないように生活しているつもりだけど……。


 まあ、彼女が気にしていないみたいなので、まあ大丈夫だろう。


 それから、真斗が俺の席まで来て、俺に裏紙をくれと言ってきた。


「用途は?」


「打順とポジション決め」


 別に裏紙くらいあげるのは容易いが、彼の場合自分で捨てないからな……。なので俺はしっかり釘を刺してから渡した。


 しかし彼には効いていないようで、筆箱についているとあるキーホルダーを俺に見せてきて微笑んだ。


 因みにこのキーホルダーは、俺がこの前あげたやつである。



 真斗の誕生日の日の放課後、彼もちょうど部活がなかったので、一輝と三人で一緒に帰っていた。


「まさか誰からも誕プレもらえないなんて……」


「まだ数ヶ月だし仕方ない」


「あはは……」


 まず誕プレがもらえる方がレアだと思うんだが……。まあ前の俺はもらったこともあげたこともなかったからな。


 しかし、彼の落ち込み用は相当だった。恐らく、誕プレもらえなかったというより、あんまり祝ってもらえなかったからだろう。


「祝ってくれたの、鈴木と石井、女子に至っては、大田と野村だけって……」


 普通に俺らが除外されている理由は何なのだろうか。そんなこと言うなら、俺のポケットにあるものを自分のものにしてしまった方が良さそうだろうか。


「これで、元気出せよ。あと、さっきのメンツに俺ら入ってないの腑に落ちないんだが」


 真斗は俺の差し出したものを見た瞬間、顔を上げて、目を輝かせた。


「お前、これ俺の好きなジャイアントの坂本選手のキーホルダーじゃん!!」


「まあ、おめでと。俺はこんくらいしかしてやれないけど」


「持つべきは友だな! サンキュー」


 調子がいいように思うが、それが彼だろう。逆にこうじゃないと調子が狂うし。


「じゃあ僕からもこれ」


 そう言って一輝が差し出したのは、『使いやすい』と話題になっているシャーペンだった。


「あ、これめっちゃいいシャーペンじゃん。一輝もありがとな」


 真斗は俺らに感謝をして、満更ではない顔をしていた。実は俺らで誕プレあげようと計画したことには気がついていないようだ。



 なんやかんや、真斗も元気になったし、良かった気がする。それから真斗は真剣にオーダーを組んでいた。相変わらず、攻撃しか重視しないオーダーになっていたが。まああとで指摘するとしよう。

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