#54 熱中していると、周りが見えなくなることがある。

「よっしゃー球技大会だー」


 定期テストが終わって、林間学校が終わってしまって、高入組も学校に慣れてきた頃、何やら真斗が騒いでいた。因みに球技大会は、二週間も後である。


「まだあるけどね」


「何言ってるんだ怜遠。二週間はすぐだろ」


「因みに期末テストまで一か月を切ってるよ」


「まだまだやん」


 彼の基準は一体なんなのだろうか。このままだと、彼が補習にかかってしまいそうでこっちが心配になってくる。


「なんの競技になるんだろうなー……。まあ、オレは何の競技だとしても活躍しちゃうけど」


 真斗は運動面だと本当に何でもできる。未経験のスポーツですら経験者と同じくらいのプレーを見せることが多々あるくらいに。俺が彼に勝てるのは、足の速さくらいである。


「だろうね……」


「何の競技になってもいいように構想練っとこうぜ」


 そう言って彼は紙とペンを持ってポジションを書き始めた。野球、サッカー、バスケ、などなど……。正直俺は野球以外の球技は平均程度にしかできないので重要なポジションにされると困るのだが……。


「じゃあ、怜遠はフォワードと……」


「いやいや、無理だって……」


 フォワードとは、チームの中で一番相手ゴールに近いところにいて、点を取る役割をする重要なポジションである。未経験の俺には務まらないだろう。


「だって三人必要だぜ? オレ、鈴木、怜遠でいいじゃん」


「横山でよくね? 多分俺より動けるよ」 


 横山はサッカー部ではないものの、バスケ部に入っているので俺よりはサッカーができるはずだ。


「じゃあそうするけどよ……」


真斗はそう言ってポジションを決め終わると、次は野球のポジションを練っていた。


「もちろん俺はエースで四番!」


 まあ、中学時代もホームラン打ったり、完封したりしてた彼なら務まるだろう。俺なんて、四番を打ったことは一度もないしな。


「じゃあ怜遠は一番センターで!」


「いやいや、俺が一番って……」


外野が本職だったので、センターはそつなくこなせると思うけど、一番バッターは俺には荷が重い。


「一番センター神里、かっこいい字面やん」


「僕もそう思うよ怜遠」


「そうかな?」


 一輝もそこそこ野球上手かったはずなので、その彼に言われると言うことは、誇っていいのかもしれない。


「神里くん達って、野球やってたの?」


 そこに大田さんがきて、そう尋ねてきた。確かに、このことは誰にも話していなかった。単純に言う必要がないと持っていただけだけど。


「そうだよ。真斗がピッチャーで、俺がセンター、一輝がセカンドだったよ」


「へえ、そうなんだ。私は少ししかルール知らないけれど、三つとも野球が上手い人が守るポジションじゃない?」


 確かに、セカンドとセンターは守備力がものをいうし、投手に関しては、野球が上手くないとできないポジションである。


「まあそうだね。でも俺はそこまで上手くなかったよ。選手層が薄かったから出れてただけ」


「いや、怜遠普通に上手かったじゃん」


 一輝によって否定されてしまった。あんまり話を広げたくなかったんだけど……。


 すると真斗が書き終えたと叫んで早速球技大会委員に提案をしようとしていた。


「誰だっけ?球大委員」


「確か横山だった気がするけど……。まだ部活の朝練じゃね」


 バスケ部はいくら共学になりたての学校といえど、女子バスケ部もあったので、真斗の入っている陸上部より練習は普通に厳しいらしい。


 莉果曰く、たまに合同でやることはあるものの、そこまで関わらないらしい。つまり、奴の情報を莉果から得るのは難しそうだ。なので、横山と話せるようになれるように頑張るか。


「よーしこの紙見せてくるーー」


 俺は見た。そう言ってこっちを見ながら走っていく真斗の前に、一人の女子生徒がいるのを。

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