#51 自分の過ちを正すことは、簡単ではない。

 俺はその後、授業に集中しながらも、あのことについて考えていた。向こうから接触してきたということは、何かが変化したということだろうが、改心したのかはわからない。俺の行動が果たして功を制したのか……。


「だから、この単語の意味は『減らす』という意味だ」


 英語は、自分でもそこそこやっているつもりだ。この教科が受験を左右すると言っても過言ではないからな。英語をおざなりにしたら、前世の俺みたいになってしまう。


「それってスリーアールのやつもそういう意味なんすか?」


「そうだ。よくわかったな田中」


 スリーアール。『リデュース』『リサイクル』『リユース』の三つを表す総称だ。因みにリデュースは、ゴミを減らすという意味である。


「勉強してるんですよ、ミサちゃん先生」


「……」


 真斗のふざけた態度にスルーして先生は授業を続ける。でも『美咲』だから『ミサちゃん先生』か。案外ネーミングセンスがあって驚いた。


 それから、このあだ名が浸透して、男子たちがネタにしていたのは、言うまでもない。


 俺は授業後、昼休みになったので、こっそり莉果に着いて行った。彼女は全く後ろを気にしていなかったので、俺がついていっていることは気づかれなくて済んだ。

 

 莉果が屋上前に着くと、案の定昨日の女子がいた。しかし昨日と違うところが一つあった。それは、取り巻きを連れずに、一人で来ているところだ。ああいうタイプは、一人で行動できないと思っていたが、そうではなかったようだ。


 俺は踊り場の陰から覗きながら、様子を伺うことにした。


「用って何? また昨日のこと?」


「……」


 莉果の問いかけに一切反応せずに、ただ下を向いていた。これは果たしてどういう意味なのだろうか。


 すると、彼女は莉果を抱きしめた。


「え? ちょっとアオイ?」


「ごめんね、ウチが悪かった……。試合で勝てるように頑張ろってみんなで言い合ったのに、頑張っていた莉果を責めるなんて……」


 蒼という生徒はそう言って、反省をしているようだった。やはり彼女はまだ救いようがあったようだ。自分の過ちに気がついて、謝ることができるのは、簡単な事ではない。俺の説教が聞いたっぽいので良かった。普通にアレをやるのそこそこ緊張したので、無意味だったらどうしようと思っていたのである。


「…‥顔を上げて」


 そんな蒼に対して、莉果は優しく声をかける。もしかしてもう気にしていないのか? 気にしていないのなら、相当広い心の持ち主だが、今の彼女なら、おかしくは無い。


「ダメよ……。だってウチ……」


「私は、弱気な蒼は見たくないわ。私の知ってる蒼は、小さな事で悩まない」


「……」


 莉果はこう見えて、人情深い。友人を大切にするし、優しくする。


「……ねぇ今度さ、ワンスのライブに行かない?」


「いいの?」


「私が行きたいって言ってるんだし、気にしないでよ」


 それから二人は中良さそうに韓流アイドルの話をしていた。俺はほとんど理解できないが。


 二人の表情を見る限り、もう仲直りはできていそうだった。つまり、作戦成功だ。


「よし、作戦成功だ」


 俺はそっと呟いて、その場を後にした。近くから気配を感じたが、出会わせたら面倒なので気にしないでおこう。

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