#50 人間は、無意識に何かを言ってしまうことがある。

 それから、クラスでみんなで話していると、伊藤さんが話しかけてきた。


「神里君、おはよう」


「おはよう。伊藤さん」


 伊藤さんは神ファイブと言われ始めてから結構男子の中で話題になっているものの、男子とはあまり仲良くしているのを見ない。まあ、前に彼女は、男性が苦手だと言っていだのでおかしくはない。


「野村さん、変わったよね」


「確かにね」


 第三者から見てもわかるくらい、彼女は髪型だけでなくキャラも変わっていた。前は、結構高圧的な態度が目立っていたが、今は、その態度もあまり目立たない明るい女子になっていた。


「私も変わらないと……」


「伊藤さんは大丈夫だよ」


 俺は莉果に影響されそうになっている伊藤さんを止めた。人によって合う合わないがあるし、俺の目から見て、伊藤さんは充分変われていたから。


「でも……」


「俺からしたら、充分変われていると思うよ」


「神里君……」


 彼女は自分が変われていないと思っているのか、焦燥感に駆られているようだった。まず、変わるとしても自分自身のタイミングというものがあるし、そこまで気にする必要はないと思う。


 ふと廊下を見てみると、他クラスの女子が俺らのクラスに来ているのが見えた。神ファイブというものが著名になってからは、他クラスの男子がよくクラスに来るようになっていたが、女子が来るのは結構珍しかったので少し気になった。


「ちょっと、野村さん、いる?」


 野村さん……。莉果のことだ。昨日の出来事のせいで、勘繰ってしまう。


「ちょっと、行ってくるわ」


「あ、うん。いってらっしゃい」


 なんのことを言っているのか分からない彼女は戸惑っているものの、優しく送り出してくれた。


 そして廊下に向かうと、先ほどまでみんなと話していた莉果が他クラスの女子と何かを話しているのが見えた。会話を切る限り、昨日の女子たちの刺客だろう。


「話したいことあるから屋上前きてだって」


「そんなに重要なことなの?」


「ウチは言われたことを伝えにきただけだから。昼休み、ちゃんと行きなさいね」


「……」


 莉果は口をつぐんだまま、その場に立ち尽くしていた。聞いたからには、俺も一応向かったほうがいいだろう。そう考えてから、俺は教室に戻った。


 教室に戻ると、朝練終わりで汗をかきまくっていた真斗がこっちに寄ってきて、俺に囁いてくる。


「なあ、野村さん、おかっぱにしてるけど可愛いな。もしかして怜遠がなんか言ったのか?」


「いや? 俺は何も言ってないよ」


 間接的な原因は俺かもしれないけど、別に俺が髪型を変えることを勧めたわけではないからな。とぼけよう。


「もしかして……」


 そう言って真斗は懐疑的な目で俺を見てくる。もしや、気づかれてしまったのか?


「お前も野村さんの髪型似合っていると思っているんだろ! 恥ずかしがるなって」


 そうだった。こいつは馬鹿だった。ただ、たまに核心をついたような表情をするから油断はできない。


「ああ、確かに似合っているよな」


 おかしく思われないようにこう返答する。いつ無意識にボロを出すかわからないからな。


 俺は今一度、気を張っていこうと思った。

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