#49 感謝をすることは、大事である。

 俺は莉果と柚と一緒に、通学路を歩いていた。


「てかさ、なんで莉果ってこんなギャルっぽくなったの?」


 俺は単純に思っていた疑問を彼女にぶつける。


「どういうこと?」


「小学校の時は、こんな雰囲気じゃなかったよね?」


 莉果はしばらく考えた後、俺のカバンに手を置いて、


「気を紛らわせるため……かな」


 つまり、ある出来事があって、それを考えないようにするためにして、この行動が彼女のカタルシスだということか。納得した。


「難しい話だね、私にはわからないなー。あ、私こっちだからまたね」


 柚が手を振ってきたので、俺も振り返す、本当に素直で可愛らしい妹だ。


 周りの木は新緑で、明るい雰囲気を演出醸し出している一方、暑さが少しずつ増してきている気がする。ブレザーなんてもう着ていられないくらいに。


 莉果との登校は、小学校の頃を思い出して懐かしい気持ちになる。俺からしたら、十五年くらいも前のことなので、莉果の方が当時のことを鮮明に覚えているだろう。


「なんだか、小学校の頃を思い出すわね」


「そうだね。懐かしいな」


 彼女も同じ気持ちを持っていたようで、俺に対してそう言ってきた。


「怜遠は小学校であまり仲のいい友達いなかったから、中学校で友達できてるのかわからなかったけど、あの二人とあんなに仲良いんだから大丈夫だったのよね?」


「ああ、おかげさまでね」


 今回は友情に亀裂なんて入れさせない。それが、やり直した俺にできる唯一のことであると思うから。


 駅に着いて改札を通ったところで、ばったり一輝に出会った。


「おはよう、あれ? どうして野村さんがいるの?」


 その彼から投げかけられた質問は、もちろん容易に想像できることだった。


「私の家、この駅からでも行けない距離じゃないからね。それと、怜遠の妹ちゃんにも会いたかったし」


「なるほどね」


 一輝は理解したのか、そのまま一緒に話しながら電車に乗り込んだ。電車に揺られながら、他愛もない会話を続ける。


「てか、僕も久しぶりに妹さんに会ってみたい」


「じゃあ柚に伝えておこうか?」


「よろしく、あと真斗も会いたがってたよ」


「パスで」


「え?」


 流石にパスは嘘だが、真斗は女子なら誰これ構わず狙いに行くから心配なのである。


「冗談冗談」


「だよね、びっくりした」


 それから、駅に着くと、前に見覚えのある子が歩いていた。俺らは、彼女に話しかけようと、近寄った。


「おはよ、大田さん」


「おはよう、神里くん、森くん、莉……。え? 髪型変えたの? 可愛い」


 大田さんは早速莉果の髪型に反応して、褒めていた。ツインテールは可愛いっちゃ可愛いけど、子供っぽさは否めないしな。


「ありがと、この方が動きやすいし変えてよかったわ」


 そこからは四人で行くことになり、俺は大田さんと喋っていた。すると、莉果の話題になった。


「そういえば、あの後、莉果とはどうなったの?」


 流石にあのことは言わない方がいいだろう。仲直りできたということだけ言おう。


「和解できたよ。一緒に来てたのが物語ってるでしょ?」


「確かに。よかったね。仲直りできて」


 俺たちのことで大田さんには、迷惑をかけっぱなしだったよな。しっかり感謝と反省をしないといけないだろう。


「ありがとね、大田さん」


「どうしたの? 急に」


 大田さんは感謝された理由がわからなかったのか、キョトンとしている。まあ、彼女の場合無意識かもしれないしな。


「俺らが仲直りできたの、大田さんのおかげであるかもしれないし」


「いやいや、私は手伝っただけで仲直りできたのは二人の力だよ」


「でも、俺は個人的に感謝してるよ」


「じゃあ、どういたしまして」


 それから教室に着くと、ざわめきが起こった。もちろん、視線は莉果に向けられていた。


「え? 野村さんどうしたの?」 


「莉果かわいいじゃん」


「ありがとー」


 『ツインテールは子供っぽい』と言っていた男子は彼女のことが気になっているみたいだし、女子たちもみんな髪型を褒めていた。なんだか少し、複雑な気分だ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る