#47 話し合いで解決することは、大変である。

 俺は莉果を傷つけたリーダー格の女子に掴まれていた。しかし、力があまり強く感じなかった。本気で掴んだ結果これなのか、それとも遊び気分で掴んでいるのかどっちなのだろうか。


「てかなんで莉果を傷つけたのか教えてくれない?」


「なんでそんなことお前に教えなきゃ……」


「君が傷つけた相手の友人なんだから、教えてもらう義理はあるよ」


「わかったわよ……」


そういうと、その人は中学校の頃を話し始めた。仲良いもの同士で部活に入って、最初は楽しんでいたと。莉果とも最初は仲良くやっていたという。


「ただ、夏の大会が終わった瞬間、一年生ながら一人でスタメンに入ったのよ」


 もしかして、これが莉果を傷つけた理由なのか? こんなしょうもない理由で傷つけたのだとしたら、許すことはできない。


 「私たちは一緒に頑張ってたから最初は莉果祝福した。なのに、『まだまだやらないと』とか『勝てない』とか言い出したの」


 莉果の根が真面目なのは俺が一番知っている。好きなことは裏でしっかり努力していくタイプである。むしろギャルになっていたことの方が驚きだった。


 「そして挙げ句の果てには、帰ろうとしたうちらに『レギュラーとりたく無いの?』とか言い出したの。みんなで楽しもうって言って入った部活なのに、莉果は勝つことしか考えなくなった」


 やっぱりこういう感じに食い違いが生じてしまったのか。もちろんいじめた彼女らの方が悪いが、莉果の言い方にも問題があった。しかし、莉果はここまでされるほどのことは言っていないはずだ。


「だからこんなことしたの?」


「そうよ」


 その結果、莉果が傷ついているので許せないが、まだ話が通じるので、彼女たちなら救いようがあると思うのも事実である。とりあえず試してみるか。


「怜遠。もういいよ……」


「莉果、俺に任せてくれ」


 俺はそう言って、口を開いた。


「もしさ、友人がいじめによって不登校になったらどうする?」


「は? 何言ってるの?」


「ごめんごめん。ちょっと抽象的すぎたね」

 

 そして俺は深呼吸をして、


「あるところに一人の女の子がいました。その人には仲のいい友達がいて、二人は仲良しでした」


 これは俺と一輝のことである。まあ彼女らが感情移入しやすいように設定を女性に変更しているが。


「しかし、その二人の仲は、ある時によって引き裂かれました。友達が不登校になってしまったのです。原因は、いじめで」


 三人の表情を見ると、真剣な表情をしているのが窺えた。今のところ、この作戦は成功しているっぽいな。


「この話を聞いて、どう思った?」


 それから少し考えるようなそぶりを見せて、


「そりゃ、可哀想だと思ったけど。もし自分がそうなったら、耐えられない」


「だよね。それなのに莉果に……」


「なんでそこで莉果が出てくんの? 理解できないんだけど」


 彼女は激しい剣幕をあげて突っかかってくる。まだ、自分のことに気がつけていないみたいだ。


「ワンス」


「え?」


 ワンスというのは、莉果と彼女たちが仲良くなった要因の一つの韓流アイドルである。先程、大田さんがこのことも教えてくれたので、使えそうなものは全部使ってみようと思って、話題に上げてみたのだ。


「みんなが仲良くなれたきっかけなんじゃないの?」


「なんで男子のお前がそれ知ってるの? 意味わからない。もしかしてり……」


「どうやったら現状君たちと仲違いしてる莉果がこのことを教えてくるの?」


「じゃあ誰が……」

 

 まあ、クラスが違うので検討がつかないかもしれないが、彼女たちが中一の頃を思い出せば、誰が言ったのか解明できるかもしれない。


「まあ誰でもいいだろ。それよりこれで仲良くなれたんだから、もう一度仲直りできるんじゃない?」


「うるさい……」


「違うの?」


「もう行こ」


 そう言って彼女たちは、体育館から出て行った。果たしてこの作戦がうまく行ったか、俺にもわからない。ただ、まだ彼女たちなら救えると思ったからこういう対応を取っただけだ。もし相手が坂本のような生徒だったらこんな穏便な解決方法は通用しないだろう。


 ふと莉果の方を見ると、まだ下を向いていた。俺は彼女を体育館の倉庫まで連れて行った。


「落ち着くまでここにいよう。俺もついてるよ」


 彼女は小さく頷いた後、俺に抱きついてきた。


「急にどうしたんだ? 驚いたよ」


「もう少しこのままでいさせて」


 彼女の体が俺に当たっているので、意識してしまう。


「怜遠……。どうして助けてくれたの?」


「言っただろ? 何かあったら助けるって」


 彼女は俺の大切な幼馴染だ。今の俺なら何があっても助けるに決まってる。もう、あの時の弱虫な自分とは決別したのだから。


「ありがとう」


「莉果を助けられてよかったよ」


 俺は莉果の頭を軽く叩いて、そのまま優しく囁いた。

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