#45 授業中の独り言がバレるほど、恥ずかしいことはない。

 俺は数日間、莉果を観察していた。流石に原因がわからないと、対処法が見つからないからである。

 

 それで少しだけわかったことがある。俺が話しかけない限り、向こうも話しかけてこないと言うことだ。二人きりは避けられるし、数人でいる時もあんまり俺に話しかけてこない。そして会話する時はあたりが強い。


 放課後、話しかけるタイミングを見つけるべきか。ただ、話しかけるとしても彼女が聞いてくれるかは分からない。しかも最近学校終わったらすぐ教室出てるし……。とりあえず学校が終わったらすぐに試してみるしかないか。


「なので、この言葉の読み方は『恋すちょう』です」


 得意な古文の授業もあまり集中できていない。まあここの範囲は復習だしいいだろう。


「じゃあ、『てふてふ』で『ちょうちょう』ってことすか?」


「正解です。田中君、次は期待してますよ」


「あはは……。頑張りやす」


 真斗も国語は赤点回避をしていたので、そこまでキツくは言われていなさうだった。


「田中がんばれよー!!」


「石井君もですよ?」


「あ……」


 すっかり真斗と石井はバカキャラ扱いされているが、本人たちは気にしていなさそうなのでむしろよかったのかもしれない。


 てか、話しかけるならどうやって話しかけるべきか……。幼馴染に話しかけるだけなのに俺は何にまよっているのか。


「で、おさな……」


「幼馴染!?」


 『おさな』という言葉に釣られて声が出てしまい、クラスメイトがこっちを見てくる。しかも俺のとんだ勘違いだ。顔から火が出そうである。


「神里君どうかしましたか?」


「すみません。ちょっと分からない問題が分かったので興奮してしまいました」


 俺の出した最適解はこれであった。


「そうですか。じゃあ『おさなし』の単語の意味分かりますか?」


「『小さい』とか『幼少』とかでしたっけ……」


「正解です。流石この前のテスト一位ですね」


「ははは……。ありがとうございます」


 とりあえず名誉挽回できただろう。ふと莉果の方を見てみると、授業中に化粧を塗り直していた。真面目に聞く気はなさそうだ……。 


 そういえば、『勉強を教える』という名目で莉果に話しかけるのもありかもしれない。いや、『結菜に教えてもらうから』と断られるのがオチだろう。


 それから、前の席の大田さんがこちらを向いてきた。


「神里くん。どの問題を悩んでいたの?」


「助動詞」


 とりあえず次の範囲を言っておくのが無難だろう。


「私も助動詞特別得意じゃないんだよね」


「用言を覚えていないと覚えるのが尚更大変だよね」


 彼女は恐らく用言を理解しているので、活用はそこそこ簡単に覚えられると思う。まあ訳し方に関しては難しいだろうが。俺もあんまり理解していないし。


 授業が終わって、ホームルームの最中、どうやって話しかけようか考えていた。とりあえず無難に、『話あるから来て』か、『時間ある?』が良さそうだ。変に取り繕わない方がいい気がするし。これらしかない。


 挨拶とほぼ同時に、莉果に話しかける。しかし、彼女は俺に反応することなく、教室を出て行ってしまった。


「莉果……」


「神里くん? 莉果となんかあったの?」


「いや、少し話そうと思って……」


 俺がそう言うと、大田さんは間髪入れてから、


「体育館行ったら会えるよ」


 体育館? なんで莉果と体育館が関係しているんだ。彼女は特別アウトドア系ではないし、学校終わったらみんなと遊びに行くタイプだろう。


「どういうこと?」


「あれ? 聞かされてなかった? 莉果、バスケをもう一度始めるらしいよ」


 俺は、彼女が言っていることが本当だと気づくのに、時間がかかった。

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