#44 不安とは、ふとした瞬間に思うことが多い。

 午前中の授業が終わったところで、俺は帰ってきたテストの結果を今一度確認していた。英語と歴史の点数が、共に八割超えていたので大満足である。数学、化学と苦手科目も七割を超えていた。まあ、このクラスにはトップスリーがいるので俺はこの点数じゃ目立つことはできないが。


 真斗と一輝は食堂に行ってしまったので、俺は持ってきた弁当を机に広げる。保温機能があるので、まだ温かい。やっぱり温かい方が美味しいからな。


 すると、前に座っている大田さんがこっちを向いてきた。横に莉果もいる。


「神里くん。今日は二人と食べないの?」

 

「二人は今日食堂行ってるからね」


「じゃあ一緒に食べようよ」


「いいの?」


「うん」


 大田さんにそう言われたので、椅子を持って彼女の席まで来た。三人分の弁当が机にあるものの、そこまで一杯ではなかった。


「そういえば二人とも、テスト結果どんな感じ?」


「…‥バカにしてる?」


「してないよ」


 莉果は理系科目やらかしたとテスト当日も言っていたので、結構酷い点数だったのだろう。触れない方がいいな。


「大田さんは?」


「今のところ、全部八割は超えているよ」


 流石大田さんと言ったところか。大方順位的に超えていてもおかしくないが。


「流石だね。文系科目しか競えなそう」


「私、神里くんに国語負けてるし、歴史も同じくらいだったよ?」

 

 肝心の英語で差をつけられているので、国語と歴史が勝っていても特別いい気にはなれない。


「もう二人とも勉強の話はいいから。早く食べよう……。あ、結菜の弁当美味しそう」


 莉果の言うように、大田さんの弁当のおかずは、形もしっかりしているし、彩りも気にしているようだった。飯盒炊爨のときに知ったが、彼女は料理ができるので、何もおかしくはない。


「そう? ありがとう。朝自分で作ってきたんだ」


「莉果も作ってみたらどう?」


「私には厳しいわよ。あんまり得意じゃないし……」


 また砂糖と塩を間違えたら大変だろうし仕方ない。


「だろうね」


「だろうねって何よ!」


 彼女はそう言って顔を膨らませて、俺の腕を掴んできた。普通に彼女の力が強くて痛い。まあ、こんなこと言ったら余計に怒らせることになるので心に留めておくが。


「そういえば、真斗が補習かもって嘆いていたよ」


 赤点を取ると、補習になる可能性が高まる。最悪、期末で挽回できれば大丈夫だが、真斗がしっかりやるとは思えない。


「私は期末しっかりやるから大丈夫だし?」


「おけおけ」


「絶対やるし」


 こんなこと言ってあしらっているが、俺も理系科目は危ういのでしっかりやらないといけない。


「もし、分からないところがあったら、教えてあげるよ」


「ほんとに? 結菜最高大好き〜」


 莉果が大田さんに抱きついている姿は、絵になりそうだった。可愛い子同士の絡みは見てて目の保養になる。


「じゃあ、俺も理系教えてもらおうかな?」


「…‥理系は教えられるほど得意じゃないんだよね」


 まあ仕方がないか。自分でやるしかない。


「私の結菜取らないで怜遠。教えてもらうのは私だけの特権だから」


「はいはいそうだね」


「何その棒読み」


 白けるようなことを言ったのは誰なのかわかっていないようだ。


「てか、この林間学校で他クラスにカップルが続出したらしいよ」


「そうなんだ。すごいね」


「どうせすぐ別れるのにね」


「まあまあ、負け惜しみに聞こえるからやめておいた方が……」


 そこで急に莉果に胸を掴まれた。


「なんか言った?」


「何も言ってないよ」


 別に怖くないけど、怒らせると面倒なので適当にあしらう。彼女の扱いに自然に慣れてきてしまったのが普通に可笑しい。


 ただ、さっきから、少し彼女の俺へのあたりが強いのが感じる。確かにいつも彼女はツンデレだが、それとはまた違うのだ。


 彼女と仲直りできたと思ったのに、何がダメだったのだろうか。


 俺は今一度、自分の行動を振り返ってみようと思った。

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