#41 自分で行動することの大切さに気づくのは厳しい。

 それから、目を開けると、班のみんなが俺らの周りを立ってこちらを見てきていた。なぜか、真斗は怒っている顔をしているし、莉果はゴミを見るような目で見てきており、一輝と伊藤さんは苦笑いしている。


 そこで俺は今の自分の状況をもう一度考えた。俺はただ寝ていただけで、何も変なことはしていないはず……。は? 


 そこで俺は一つ、気がついてしまった。俺が頭を乗せていたのが、大田さんの体だということに。


「ヒャ……。神里くん?!」


「これは、深い訳が……」


「怜遠最低!」


「じゃあ大田さんに聞いてみてよ。俺が白だってわかるから……」


「この期に及んで言い訳するの?」


「怜遠。それはないわ」


「お前には言われたくない」


 この後、思い出した大田さんが弁明してくれたものの、結局、解散式が終わるまで莉果は目も合わせてくれなくなった。ただでさえ険悪だったのにこうなってしまうとは弱り目に祟り目だ。


「じゃあ帰ろうぜ怜遠」


「……」


「怜遠」


 この二人と帰りたい気持ちはあるけど、今は最優先のことがある。


「ごめん、先帰ってて」


「あ、おい……」


 二人には悪いけど、俺にはやらないといけないことがある。


 俺は、大田さんの優しさに甘えていた。本来なら、不可抗力とはいえ、原因を作ってしまった俺が一人で解決しないといけない問題だ。なぜ、こんな簡単なこともわからなかったのだろう……。


 俺の駆けている足音がこだましている。周りの音は何も聞こえないくらいに大きく。


 しばらく走り続けていると、莉果と大田さんが前を歩いているのが見えた。俺はすかさず声を出す。


「待ってくれ〜」


 俺の言葉を聞いて、二人は振り返る。大田さんは俺を見るなり察したのか、俺に目配せをして、


「ごめんね莉果。ちょっと忘れ物しちゃったから戻るね」


「え? ちょっと……」


「…‥神里くん。頑張って」


「ありがとう、大田さん」


 彼女は俺の耳元で、エールを送ってくれた。俺が自分の気持ちに気がつくことができたのは彼女のお陰でもあるので、感謝しかない。


「なあ、莉果」


「…‥何よ」


 彼女はやっぱりまだ怒っているみたいで、俺と目も合わせてくれない。ただ、こうなってしまったのは俺のせいなので、無論責任転嫁するつもりはない。


「少し話さない?」


「……」


 返事はなかったが、俺が横を歩いても一切歩数を変える様子はなかったので、大丈夫ということだろう。


 学校から駅までの道は、いつも通るので見慣れた風景だが、私服のことはまずないので、なんだか新鮮な気持ちになってくる。


 こういう時のほうが話は打ち明けやすい気がするので、俺は口を開く。


「ごめんな、莉果」


「……え?」


「あのバスケの時から気まずくなって謝れなかった。不安にさせてたんだんだよな。ごめん」


 俺の謝罪の意図が理解できなかったのか、彼女は目をパチクリさせていた。少々伝え方が悪かったかもしれない。


「少なくとも、俺はお前と前みたいに仲良くしたい。小学校時代、俺の生活に光をくれたのは莉果なんだから」


 実際、彼女がいなかったら、小学校は楽しめなかっただろうし、俺の人生はもっと酷いものになっていただろう。前世で三十年近く生きた今だからこそわかる。


「ごめん……」


 つまり、彼女は、俺とはもう仲良くはしたくないということだろう。そうなら仕方ない。しつこいのは嫌われるし、こっちから距離を置いたほうがいいだろう。


 そうして一人で先歩こうとすると、腕を掴まれた。


「待って、話はまだ終わってない」


 彼女は俺の方を見ながら、顔を赤くして、


「こっちこそ、ごめん……。私も、怜遠と仲良くしたい……。このまま、疎遠になるなんてイヤ」


 なるほど。そういうことだったのか……。それなら良かったと俺は胸を撫で下ろした。


「良かった。これからも幼馴染としてよろしく」


「……うん」


 なんか少し暗かったような気がするけど、まあ仲直りできたし気にしないでおこう。


 結局あの後三人と駅のホームで会ったので、みんなで帰った。帰りはずっと真斗がテストが帰ってくると喚いていたのが頭にずっと残っている。


 家に帰ると、柚が出迎えてくれた。


「お兄ちゃんおかえり〜」


「柚ただいま」


「お兄ちゃんいないとやっぱり寂しかった」


「俺もだよ」


 本当に可愛いなこの子は。目に入れても痛くない。


「柚にお土産話いっぱい聞かせてあげるよ。それからこれお土産ね」


 俺が出したのはヘアピンだ。マークは柚のイニシャルのワイである。売店を見た時に、たまたまあったから購入したのである。


「可愛い。お兄ちゃんありがとう。大好き」


「喜んでくれて良かった。買ってきた甲斐があったね」


 柚の笑顔も俺が守りたい。今の俺はそう思っていた。そのためにも、ああいうことにならないように気をつけないといけない。


 幸いなことに、今のところ彼の身には何もないし、俺は俺でいい学校生活を送ることができている。莉果とも仲直りできたし、友達もできた。このまま、みんなでハッピーエンドを迎えられるように俺は頑張りたいと思う。


 そう、俺はもう一度、心に誓った。


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