#40 帰りのバスは、眠気との戦いである。
あの後俺らは昼食をとってから、帰りのバスに乗っていた。帰りは運の悪いことに、一番後ろの五人席を鈴木たちに取られてしまったので、トランプとかのカードゲームをすることができなかった。なので、横に座っている大田さんと話すことにした。
「あーあテスト帰ってくるの嫌だなー」
「確かにね。でも神里くんは大丈夫じゃない? 国語出来るし」
てか、俺彼女に国語得意だって言ったっけ? 今世では定期考査受けたのこの前が初めてだし。
「俺が国語得意なの知ってた?」
「よく授業中発言してるから」
「なるほどね」
確かに授業をしっかり聞くようにしたから、そう思われていても何もおかしくない。
「まあ、赤点はないと思うけど数学が厳しい」
「私も数学あまり得意じゃないからわかるよ」
俺の苦手と彼女の苦手は別次元なので一緒にされても困る。俺は五十点取れるか取れないかで悩んでいるのに、彼女の場合はおそらく平均点行くか行かないかだろう。
「得意じゃないのベクトルが違うから……。正直理系に進む気ないから英語、国語、歴史取れればいいや」
「まあ私も理系に進む気はあんまりないかな」
この学校は高二から文系理系でクラスが別れる。彼女は前世で同じクラスだったので文系に進んでいた。今回も彼女に心変わりする出来事が起こらなければそのままだろう。
「英語できた?」
「結構できたよ」
「流石だね」
英語ができるようになれば、受験は結構有利になる。俺も頑張らなければならない。もうあんな企業にこき使われるのはごめんだ。
すると突然、昨日の寝不足がたたったのか、あくびが出てきてしまった。
「やばい、眠い」
「昨日、何時まで起きてたの?」
「……二時くらい」
俺のその言葉を聞いて、彼女は目を丸くした。流石に夜更かししすぎだったろうか。
「みんなと夜更かしした感じ?」
「いや、俺は寝ようとしたけど、真斗と石井に無理矢理ゲームに付き合わさられた」
「それは大変だったね……。後の二人は?」
「先に寝られた」
俺も自分がここまで寝不足になるとは思ってもいなかった。あの映画を見ている時は、眠気が来るような話ではなかったので耐えられたが、バスに乗った瞬間に突然睡魔に襲われた。
「じゃあ……。私に寄っかかってきていいよ?」
俺はその言葉の意図が分からなかった。彼女は今、俺にくっつかれてもいいと言ったのか? もしかしたら、俺があまりにも眠そうだからそう言ってくれているのかもしれない。恐らくそうだろう。
「迷惑にならない?」
「全然大丈夫だよ」
彼女の了承を得たので、彼女の肩に頭を寄せる。ただ、彼女から漂う甘い香りや、柔らかい感触によって、逆に眠れそうもなかった。
とりあえず心を無にしようと、平常心でいれるように心掛けてみたが、接触している以上、無理だった。
しかし、肩を借りている以上、眠らないのは失礼だと思ったので、目を瞑って寝ているフリをしてみた。眠いけど、眠れそうにないしな。
「神里くん。寝てる?」
ここはとりあえず無視させてもらおう。寝ようとしている以上、応答しない方がいいだろうし。
「相当お疲れだったんだね。ゆっくり休んで」
大田さんにこのようなおやすみコールをしてもらえるなんて夢のようだけど、男子たちにバレたら、俺はただじゃ済まされないだろう。幸い、席的にバレないとは思うけど。
「なんだか私も眠くなってきちゃった……」
そう言って彼女も俺に寄っかかってきた。その構図が、客観的に見ていろいろとまずい格好なので、なんとかしようと思ったが、俺に寄っかかってきている以上、俺が起きていることがバレてしまうし、もし彼女が既に眠りについていたら悪いので、寝たふりを継続することにした。
「おーい怜遠、しりとりしようぜ」
真斗が俺に話しかけてきた。タイミングが悪すぎる。てか眠そうにしてたのに眠る気ないのかよ……。
この状況見られたら間違いなくヤバいことになる。そう思って何か対策はないかと探していると、窓に着いているカーテンを見つけた。これを俺と大田さんの間に入れれば……。俺はそれを実行した。
「って寝ているのかよ……」
『いや、お前も眠そうにしてただろ』というツッコミは置いといて、彼が俺以外に誰としりとりをするのか気になっていた。そしたら、一輝と鈴木達の班の話し声が聞こえてきたので、一緒にやっていたのだろう。
俺はカーテンを元に戻して、大田さんを一瞥する。
「……寝顔も可愛すぎだろ」
そう言って、彼女を意識しないようにしながら、眠りについた。
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