#38 映画は、色々と考えさせられるものだ。

「拓也ウザいから寧々に嫌われてほしい」


「マジそれ」


 見たことない生徒たちがいろいろ言っているものの、この後の展開を知っている俺は、この映画を見ながら、周りの反応も楽しむことにした。おおかた、この後の展開を読めている人は少ないっぽいし。


「ちょっとは黙ったら?」


 駒田さんが喋っている男子たちに注意をした。彼女に睨みながら言われるのは堪えたみたいで、黙ってしまった。しかし、五十嵐は、それに苛立ちを覚えたようで、彼女を睨み返した。


「は? 別にいいだろ細えな」


「みんなはわからないけど、少なくとも私は迷惑してるのよ。女子部屋忍び込みの五十嵐君?」


「黙れよ・・・・・・。しかも忍び込んだのは俺じゃ・・・・・・」


「アナタが忍び込ませたようなものじゃない」


 すっかり彼が俺を嵌めたことがみんなに知れ渡ったようで、人と関わりを取りたがらない駒田さんにもそう見下されていた。


「五十嵐。最低だよね」


「神里君可哀想」


 もちろん、そんな彼に味方する人はいない。彼の友達の二人ですら彼を宥めることしかしていなかった。


 そのまま映画の続きを見ていると、拓也が朝一人で登校するところまできた。この日は何故か一緒に登校していた寧々が現れなかったのである。


「なんで寧々ちゃんいないんだ?」


「愛想尽かされたんじゃない?」


 それだけならまだよかったと思う。対処法があるのだから。そして学校に着いた彼は担任から驚くことを伝えられる。


『岡崎寧々は、昨日の夜、病院に運ばれた』


「は?」


「なんで?」


 各々から、驚愕の声が飛び交ってくる。そりゃ、展開が読めてないならこうなるのは理解できないだろう。


 そして拓也は先生から彼女の居場所を聞いて、一目散に向かった。向かってる途中に彼の母親から電話がくる。


『は? 虐待?』


「うーわ最低」


「可哀想・・・・・・」


 ここで彼女が昨日おかしかった理由が明かされた。帰りたくないと言ったのは、匿って欲しかったため。服を脱ごうとしたのは、痣に気がついてもらうため。そして、彼女描いていた絵は、『助けて』というサインだったのである。拓也は、それに何一つ気づくことができなかったので、自責の念に駆られていた。


 病室について、寧々が目を覚ますのを待っていると、彼のクラスメイトたちが来て、彼に謝罪をした。彼の態度を見て、見直したという。


 夜まで寧々の手を握り続けて、彼女は、夜に目を覚ました。


 しかし、彼女はしっかり喋ることができずに、声を出すのがやっとだった。


『ごめん、俺、お前のサインに気づけなかった。俺が、間接的に君を・・・・・・』


『違う・・・・・・よ。悪いのは・・・・・・私。ごめんね』


 横を見ると、伊藤さんが目を赤くしていて、ハンカチを持っていた。確かに俺も少しうるっと来ていた。そして、周りにはところどころ泣いてる人もいる感じであった。


『・・・・・・泣かないで、私も涙が出てきちゃう』


 小説で感動した言葉を声優さんありで聞くと、一層感動するものである。


「寧々ちゃん・・・・・・」


 大田さんも涙ぐんでいた。しかし、ハンカチやティッシュを出す様子が見られなかったので、俺がこっそりハンカチを渡した。


「・・・・・・神里くんありがとう」


「気にしないで」


 泣いている時にハンカチがないのは、なかなかのピンチなので、仕方がない。


『でも・・・・・・拓也くん。涙、出たんだね。良かった』


 彼女は、なんと自分の体の心配じゃなくて、彼の感情についでの方を重要視していた。彼が涙を流したのは、これが初めてであった。つまり、幼馴染との別れが、彼の感情を動かした要因であったのだ。

 

 拓也は、彼女に元気になってと言うが、彼女は首を横に振る。彼女は、もう自分の体の状態をわかっていたのだろう。


『私は・・・・・・君の感情を探せた。それで満足だよ』


『でも俺は、君に何も返せてない』


『あなたと過ごして・・・・・・私は楽しかったよ』


 ここら辺になると、みんなの鼻を啜る音や、泣く声が響いていた。さっきまでうるさかった真斗と石井もじっとして見ていた。


『これからも、君と一緒に過ごしたい』


 このようなセリフが言えたら、どんなにかっこいいだろうか。まあ俺には、そのような相手はできないだろうけど。


『私も・・・・・・でもごめんね。無理そう。拓也くん、溢れた・・・・・・ミルクを嘆いても仕方ないんだよ。だから・・・・・・私のことは忘れて幸せになって』


 題名にもなったあのセリフがここで登場した。少しだけ興奮してしまった。


「これ、伏線回収ってやつ?」


「そうだと思うよ」


『寧々・・・・・・。大好きだ』


 ここで拓也の今までの思いが込められた言葉が放たれる。自分と今まで仲良くしてくれたこと、感情を見つけてくれたことに対する感謝と、彼女を助けることの出来なかった後悔でいっぱいだろう。


『拓也くん・・・・・・。私も大好きでした』


 二人が思いを告げあったところで、エンドロールに入った。原作にしろ、寧々がこの後どうなったかは明かされてはいない。まあ、おおかたハッピーエンドではないと思うが。因みに、終盤から俺の視界がぼやけていたことは言うまでもない。

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