#37 映画というものは、内容を知っていても興味深い。
「やばい眠い」
「同じく」
「バスで寝よ」
昨日結局夜更かしをしてしまった俺は、寝たのが丑三つ時になって、この有様であった。もちろん真斗たちも全然寝れなかったようで、俺より酷そうだった。
ただ、今日はとある動画を見るらしい。なんか道徳面で役立つものだと言う。流石に遠い記憶過ぎて、どんな動画を見たのか覚えていなかった。そしてそれを見て昼頃にはバスに乗るので、比較的睡眠不足は弊害にはならなそうであった。
流石に道徳面に関係してくる映画を見ながら寝るというのは避けたい。道徳面というくらいだから、いじめとかそういう系だろうか。俺のトラウマが蘇ってきそうで嫌だが、もう逃げないと言った以上そんなこと言ってられないよな。
そしてホールに到着して、班で固まって好きなところに座れと言われた。とりあえず前過ぎず後ろ過ぎない真ん中あたりに座った。両隣は伊藤さんと大田さんだったので、気まずくはない。莉果は莉果で真斗と一輝がいるので大丈夫だろう。
しばらくすると、先生が話を始めた。
「今日見るのは、最近話題になっているある映画だ」
「あ! 『こぼなげ』じゃん」
『こぼなげ』とは『溢れたミルクを嘆いても』といった現代ドラマ作品である。昔、原作を読んでいたので、俺は内容を知っている。感情を持っていないと思っていた主人公が、ある出来事によって感情を持っていることに気づく話である。あんまり感情が揺れない俺でも、これを読んだ時は感動したのを覚えている。
「私も読んだことあるよ」
伊藤さんはまあ小説好きなので、読んだことあってもおかしくない。結末を知っているとは言え、小説と映画じゃまた別なので、もっと楽しめるだろう。
「怜遠これ知ってんの?」
「うん。小説で読んだからね」
「私も名前は聞いたことあるよ」
大田さんはこういう系弱そうな気がする。完全に俺の主観だけど。優しい人は涙腺が緩いイメージがある。彼女もそうだろう。
真斗に『感動する話』だと伝えたが、これを見ても絶対泣かないとか言ってきた。まあ泣かないにしろ感動をすると思うがどうだろうか。
そう言っているうちに、映像がスタートした。まず、主人公が幼少期の頃の話から始まる。彼、
『だって、また新しい出会い見つければいいだけじゃないですか?』
この発言によってみんなは彼に近づかなくなるのである。因みに、彼自身は自分がおかしなことを言った自覚は一切ないので、こうなってしまった理由はわかっていない。しかし、彼と唯一仲良くしてくれた子がいた。
『私が君の感情を一緒に探してあげる』
そう言ってその日からずっと仲良くしてくれたのは
現在、拓也はみんなから感情がない『氷の男』と揶揄われており、冷たい目線を向けられていた。しかも学業成績も乏しかったので先生からの評価も悪かった。しかし、対する寧々は可愛くて人気のある女の子だったので、男子たちからしたら彼は邪魔以外の何者でもなかった。そしてクラスメイトから彼と一緒にいる彼女のことも悪く言われてしまう。
『岡崎さんももしかして『氷の女』なんじゃないの?』
そんな寧々を嘲笑する言葉に憤りを感じた拓也は、言い返そうとするが、寧々に止められる。この時点で、彼は怒りという感情を持っていたのだろう。
授業中、やる気もなく、気だるげにしていた彼は、先生に当てられる。『千六百年に起きた戦い』
つまり、関ヶ原の戦いだ。
「田中これ分からないだろ」
この場面を見て石井がそう真斗を煽った。対する真斗も、答えがわからなかったみたいで、無言で考える素振りを見せた。
「わからねえ。正解は?」
「・・・・・・俺もわからない」
このホール内が笑いに包まれた。俺も少しだけ笑ってしまった。彼らは高校受験をどうやって乗り切ったのだろうか。
『えっと、関ヶ原の戦いです』
「初めて知ったわ」
「まあ、俺は知ってたけど?」
「中学生からやり直してみたら?」
「それがいいと思うよ〜」
女子からも馬鹿にされている二人を見て、俺は少し彼らを可哀想に思ってしまった。
『次はしっかり聞いておいた方がいいよ』
「オレにもこんな幼馴染いたらよかったのに」
そう言ってチラチラ真斗は俺の方を見てきた。莉果には寧々みたいな素直さがないから全然違うと思うのだが・・・・・・。
「自惚れるなよ田中」
「は?」
この二人仲良しだな。少なくともこの行事前まではここまで仲良くなかったぞ。
そして拓也が寧々からご飯をもらうシーンになって、また男子たちが妄想し始めた。
「俺も大田さんからこれされたい」
「柴田さんがやってくれたな〜」
「うーん拓也爆発しろ」
まあここまでの内容ならそういうほのぼの系の映画であるので、そう思うのも理解できる。
そして、拓哉の家に寧々が来るシーンになったので、俺はここらへんで半分は過ぎたと感じた。寧々が、拓也に勉強を教えている。
『わからないところは私が教えてあげるよ』
「誰かオレに勉強教えてくれない?」
「俺にも教えてくれ〜」
「俺と一輝で教えようか?」
「お前に言ってねえよ」
冗談で言っただけなのにガチトーンで否定する必要はないだろ・・・・・・。少し傷つくぞ。
そして彼は彼女の門限の時間が近づいてきたので、帰るように促す。しかし、彼女は帰りたがらずに、まだ居させてほしいと懇願する。それと同時に、上の服を脱いだのだ。
『それでも私は帰りたくない。ダメ?』
「ヤバいエロい」
「まじそれ」
このシーンについては俺も少し懸念していた。その通りになったが。なお、男子たちは、誰も寧々の体にある痣について気がついていない様子だった。
「神里くん見ちゃダメ」
そう言って大田さんは俺の目を塞いできた。俺は内容知ってるからこうなることをわかっているというのにだ。
そして、拓也は寧々を家に帰らせた。男子たちは、『なぜ襲わなかった』とか『チキンすぎ』など言っていたが、拓也のキャラを理解してたらそういう言葉は出ないはずである。
そして拓也は、手が三つ書かれているのをみつける。一つはパー、二つめは親指を折り畳んだやつ。三つ目はグーだ。勘のいい人なら、ここらへんでこの後の展開が読めるだろう。
この後、彼は最大の後悔を味合うことになるのだから。
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