#34 辛味は食べると口が痛くなる。

「うわあ、これ絶対やべぇって」


 そうやって嘆く真斗の前にあるのは、激辛ラーメンである。見ただけで鳥肌が立ってくるくらいの赤さで、恐らく食べたら明日になっても口の中の痛みが消えないだろう。


「イッキイッキ。田中〜」


「ビールじゃないんだからそれは無理だろ」


「殺す気かお前」


「あはは・・・・・・」


「こんなの食べたらやばいよ・・・・・・」


 これなら、一リットルの水でも買ってくるべきだったろうか。いや、逆に辛いものを食べた後に水を飲むと、余計に辛さが出てくるっていうし無意味だっただろう。


「まあ約束は約束だし。オレは男だ。食ってやるよ」


 そして彼が一口食べた途端。


「かれえぇぇぇ!」


 断末魔のような叫びが部屋中に響き渡った。すぐに俺が買ってきた飲み物を口に流し込んでいたが、やはり逆効果だったようで、それ以上に辛そうな顔をしていた。


「田中辛そうだなー!!」


「当たり前だろ。しかも一口目でこれだからやばいよ」


 彼はそう言って再び箸を進めたが、


「水水水〜。余計に辛え〜」


 水に手を伸ばして、辛さが増したらしい。水道の蛇口から水を飲んでいた。外国ではやっていけないことトップだろう。


「田中面白すぎだろ!」


「お前のせいだけどな」


 俺が真斗の立場だったら、どうにかして石井に食べさせたいと思うだろう。そのくらい、人をイラつかせるような顔をしていた。


「あーもうイライラすんな!」


 やっぱり俺の思った通りで、真斗は苛立っていた。そして、再び食べ始めたところで、 


「むむり、トイレ〜」


 彼はそう言ってトイレに駆け込んで行った。何をしていたかはまあ想像しないでおこう。


「じゃあ、田中と同じチームのお前らどっちか残り食べようぜ」


 なんと、彼はとんでもないことを言い出した。俺らは関係ないと思っていたが、チームが関係してくるなんて予想外だった。


「マジか」


「やばい・・・・・・」


 一輝はとても嫌そうな顔をしている。それもそのはず、彼は辛いものが苦手だからだ。中学校の時に、彼が辛いものを食べて、絶望していたのを覚えている。


 まあそんな彼に辛いものを食べさせるほど俺も鬼ではない。しかも彼には俺からしたら大きな借りがあるわけだし。


「俺が食べるよ」


「お! 神里乗り気だな」


「一輝は食べられないだろうし、俺が食べるしかないよ」


 そう言って俺は麺を目の前まで持ってきた。近くにあるだけで辛いのが分かるほどであった。

 

 俺はそれを鼻を摘んで、口の中に入れた。


「うっ・・・・・・」


 辛さがひどくて、何も考えられなくなってきた。『今自分が何をしているか』とか『なぜここにいるか』とか。


 そして俺は、そのまま布団に倒れ込んだ。


「怜遠!」


 なんか叫び声が聞こえたが、俺は今痛みと辛さでいっぱいだったので、反応できなかった。


「い・・・・・・やりすぎ」


「そ・・・・・・」


 その後も喋っていたが、俺はダウンしていたのでよく聞き取れずに、そのまま、意識がなくなった。



 しばらくして、体を起こすと、なぜか石井が口を腫らして横になっていた。みんなにこうなった経緯を聞いたところ、俺が倒れてもなお調子乗っていた石井をどうしようかと一輝と鈴木が悩んでいたところに、真斗が戻ってきて、彼が復讐したという。


「石井はまあ図に乗りすぎたから自業自得だな」


「それな。マジでまだ口痛えよ。許さない」


 まずこんな勝負したお前にも問題はあると言いたかったが、俺もこんな状態なので、口は出さなかった。


 そしたら鈴木が電話きたと言って、部屋を出て行こうとした。


「ちょっと貸して」


「あ! ちょっと」


 真斗が鈴木の携帯を取って、ビデオ通話に切り替えた。そのせいで、画面の向こうから女子部屋の風景が映し出されていた。


「は? なんで田中。最悪なんだけど」


「え? オレのことそんなに嫌なの?」


「当たり前じゃん」


「普通に傷つくからやめて・・・・・・」

 

 真斗は本当に傷ついたようで、俺の目から見ても分かるくらいに意気消沈していた。


 そういえば関根さん、カメラ越しでも分かるくらいにメイクしていたな。『寝る時くらい取ればいいのに』と言うのは野暮か。


「ごめんね。田中クンにスマホ貸しててさ」


「鈴木君〜。わたしと話そ〜?」


「ちょっと未来ー。あたしが話すの」


「まあまあ二人とも。一回落ち着こ?」


 その二人を宥めたのは、大田さんだった。彼女はやっぱりすっぴんのようだった。それでもこの三人の中で一番輝いて見えるのはすごいな。


「よ、大田さん」


「神里くん?! 今髪型酷いから見ないで」


「あれ? 俺嫌われてる?」


「違うよ神里君〜。結菜ちゃんは照れてるの」


「てて照れてないよ!」


 そして鈴木がみんな映るように携帯を持つ。


「あ、森くん」


「森君こんばんは〜」


「こんばんは」


 なんだこの空気。まあ後ろの二人を見たらそうなるか。


 石井はアレ食べて倒れているし、真斗は先ほどの言葉で落ち込んでいるからである。


「えっと、石井くん大丈夫?」


「自業自得だから放っておいて大丈夫だよ」


「確かに因果応報かもね」


「石井君可哀想〜」


 柴田さんはこう言っているが、恐らく本心ではそう思っていないのだろう。


「てか莉果と伊藤さんは?」


「伊藤さんは寝てるよ。で莉果はここに・・・・・・」


「ちょっ、一回黙って」


「莉果。そこにいるのか?」


「うるさい。黙って!」


 なんとすごい剣幕でキレられてしまった。ここまで言われると俺も流石に傷つくぞ。


「俺って、女子から嫌われる体質なのかも・・・・・・」


 なんか疲れたので、今日はしっかり休もうと思う。

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