#33 俯瞰的な視点を持つことは重要である。

 後半戦が始まったが、俺は踊りながら莉果の事を考えていた。何故彼女は、俺のことを見ただけで、怒って帰っていってしまったのか。俺が彼女に謝らずに、学校行事を楽しんでいたからだろうか・・・・・・。


「神里くん。楽しめてる?」


「うん。来て良かったって思っているよ」


「それなら良かった」


 彼女と踊っているという楽しさと、さっきの気掛かりなことが頭の中で交錯して、変な感覚になる。


「どうしたの神里くん?」


 そんな俺が気になったのか、彼女も不思議そうな目でこちらを見つめてくる。踊っている最中に他の事を頭に思い浮かべるのは良くなかっただろう。


「ごめん。ちょっと雑念があった」


「もしかして、莉果のこと?」


 この子はもしかしてエスパーなのかもしれない。なぜ俺が悩んでいることがわかったのだろうか。


「どうしてそう思ったの?」


「莉果とのことがあってから上の空だから・・・・・・」


 それだけで俺が莉果のことで悩んでいるって理解したのか・・・・・・。素直にすごい。


「私も、二人が仲直りできるように協力するよ。友達が喧嘩しているのなんか嫌だし」


「大田さん・・・・・・。マジ聖女」


「それ恥ずかしいからやめてよー」


 そう言って頬を膨らませている彼女も可愛らしかった。


 そしてキャンプファイヤーは終わりを迎えたが。俺たちは余韻に浸りながら、暫くこの場に止まっていた。


「聞いてよ怜遠。連絡先ゲットしたぜ」


「それは良かったね」


「柴田さんと踊れたのマジで最高」


「あはは。まあそこそこ楽しめたかな」


 踊った人たちはだいたい楽しめているようだ。まあそれはそうだろう。そういうタイプの人しかここにはいないのだから。


「さあ、一輝にどんな感じだったか教えてあげますか」


「何を教えるん?」


「ああ、こっちの話」


 一応このことは秘密にしておいた方がいいだろう。


「なんだよ〜気になるだろー?」


「まあいいや。それより、今日は夜更かししようぜ」


 ある程度の夜ふかしならまだしも、オールしようとかなったら翌朝の体調が終わってしまうので、それだけは避けたい。


「そうだな〜。田中は激辛カップ麺食べないといけないしな」

 

「それまだ覚えていたのかよ・・・・・・」


 あの真斗が辛そうな顔をするのは滅多にないので、少し興味が湧いてくる。このイベントは、もしかしたら結構印象に残るかもしれない。


「ねえ、神里くん」


「どうしたの? 大田さん」

 

「とりあえず私が莉果を説得してみるから。何かあったら連絡するね」


「オッケー。ありがとう」


 彼女は本当に情に深い。俺もここまで人に優しくできればな・・・・・・。そう考えていると、真斗が俺の肩に腕を置いてきた。


「なあ怜遠。お前大田さんといい感じじゃね?」


「いや別に・・・・・・。そんなことないよ」


「うん。私たちは別にそういう関係じゃないよ」


 はっきり言われるのはそれはそれで傷つくんだが。まあ俺も普通に否定したから言える立場ではないけれど。


「えーそんなこと言って息ぴったりだったじゃんか〜」


「とりあえず石井は黙ろうか」


「なんか俺にだけあたり強くない!?」


「あはは・・・・・・」


 石井はもうこういうキャラが定着しているので、いじるのもなんとも思わない。いじられた本人もこう言ってるけど満更でもなさそうだし。


「まあまあ、本人たちは否定しているんだしそういうのはやめようよ」


 鈴木は本当に性格がいい。これも俺たちを思ってのことなんだろう。女子からの人気が高いのはこの性格も関係しているだろうな。実際、真斗も顔はいいけど、女の子大好きで色々な子を口説こうとしたりするのが一部の女子から引かれているっぽいし。よく真斗は『鈴木がモテてオレがモテないのは何故』と言っているが、いつもの行動が物語っていると思う。


「助かったよ鈴木」


「いいよ、気にしないで」


 受け答えもこれである。こういう人間が将来成功するんだろうなと思う。


 それから部屋に戻ったものの、俺は飲み物を買い忘れたことに気づき、一階のちょっとしたくつろぐスペースにある自販機まで飲み物を買いに行くことにした。ついでにみんなの分もお願いされたので、仕方なく買うことに決めた。


 自販機までつくと、先客がいた。それは自分のクラスの担任の宮﨑先生だった。彼女の目線は、横のお酒の自販機であった。因みに俺は転生前に飲んだことがあるので味を知っている。


「宮﨑先生。こんばんは」


「え? ああ、神里か」


 お酒に興味が向いているのが恥ずかしかったのか、少し慌てた様子であった。


「ユウヒスーパーウエットですか。確か度数はあまり高くないですよね」


「別に買う気ないぞ。修学旅行ならまだしも、林間学校だしな。てかなんで度数なんて知っているんだ?」


 何も考えずに発言したものの、確かに自分は今、体は未成年である。お酒について詳しいのは、怪訝に思うだろう。


「親父が酒豪なので、よく自分も話題に付き合わされるんですよ」


「そうなのか」


 とりあえず誤魔化せたみたいなので、よしとしよう。こんなことで疑われて学校生活が脅かされるなんて笑い事ではない。


「まあ自分自身も成人したらお酒を飲むつもりです」


「あまり飲みすぎない方がいいぞ」


「ですよね。もちろん飲む日と飲む量はしっかり決めるつもりですけど」


 自分の精神年齢が上がっているせいか、先生にもあまり気を遣わずに普通に話せるな。


「そうか。てか、神里ってなんか大人っぽいよな」


「大人っぽい・・・・・・。ですか?」


 俺が言葉の意味を考えていると、先生が続いて口を開く。


「言葉をよく知っているし、敬語もしっかり使えるし、冷静に物事を判断できる」


 この言葉を聞いて、先生はやっぱり生徒のことをよく見ているんだなと気がついた。自分はそういう面をあからさまに出してる気はなかったものの、勘づかれていたのだから。


「買い被りすぎですよ。自分はそんなことないですよ。それにコミュニケーション能力皆無ですし・・・・・・」


「それって本当に言ってるのか?」


「はい?」


「私から見て、男子なら田中、森、鈴木、石井あたり。女子なら大田、野村あたりと仲良いようにみえるけど」


「真斗と一輝はまあ中学校が一緒なので。他の人たちは班とかが一緒で自然と仲良くなったって感じですね」


「少なくとも、私は君がコミュニケーション能力がないとは思ったことはない」


「それはありがとうございます。少し自信がつきました」


「もしなんか相談があったら、いつでも乗るからな」


「はい。おやすみなさい」


 俺はそのまま飲み物を購入して、部屋に向かって歩き出した。これからは、自分について俯瞰的に見た方がいいのかもしれない。

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