#32 悪事はすぐバレる。そして一つの決意
俺達が集合場所に向かうと、参加者は大体到着しており、その中には真斗達がいた。彼らは俺を見るなり、こちらに近づいてきた。
「怜遠やっぱきたか」
「神里踊る人いるのか?」
「まあ、いるけど」
どうせ始まったらバレるんだし、隠す理由はない。誰と踊るのか聞かれてもしっかり答えようと思う。
「てかなんで大田さんと一緒に来たんだ?」
「もしかして、一緒に踊るとか?」
「その通り」
石井はそのまま崩れ落ちた。ごめんな石井。先に踊る人見つけちゃって。
そしたら、俺たちのところに鈴木が来た。
「二人とも、さっきぶりだね」
「鈴木。そうだな」
「そうだね」
鈴木は俺達を一瞥した後、悩むような素振りを見せて、
「もしかして、君達で踊るの?」
「うん。私が誘ったらのってくれたんだ」
「まあ、そういうことだね」
「なるほどね・・・・・・」
そして彼は関根さんのところへ戻っていった。ただこれが聞きたかっただけだろうか。
とりあえず大田さんと雑談して待っていると、石井が飛び跳ねながらこっちに向かってきた。
「なあ、聞いてくれよ神里、大田。俺なんと柴田さんと踊ることになったぞ〜」
俺は目を丸くしながらも、素直に柴田さんと踊れるくらいまで仲良くなった彼のことを見事だと思った。
「良かったじゃん」
「石井くんおめでとう」
「おう。ありがとうなー」
流石はこのコミュ力と言ったところか。普通にコミュ力がない俺からしたら羨ましいレベルである。
暫くすると、俺を女子部屋に閉じ込めた張本人の五十嵐が彼の友達と共にこの場所に来て、石井の方に向かっていった。
「おーい、石井が柴田さんとなんて釣り合わないだろアハハ」
「は? 黙れよー」
「事実だって。だってお前、背低いじゃん」
人の身体的特徴で馬鹿にするのは流石にダメだと思う。しかも肥満とかならまだしも、身長に関しては改善とかしようないし・・・・・・。俺は気がついたら五十嵐の肩を掴んでいた。
「言っとくが、石井はお前とは違っていい奴だけどな」
「は? お前誰だよ・・・・・・。って神里!?」
何故か俺を見た途端、彼は慌てていた。それもそのはず、嵌めた相手がこの場にいたのだから。
「なんでお前がこんなところに・・・・・・」
「さあね。まあそんなことどうでもいいだろ」
「まあそうだな。どうせお前は踊る相手いないんだろ?」
「いや、神里くんは私と踊るよ?」
そこに大田さんが入ってきて、それが五十嵐を余計に苛立たせたようで、ずっと俺の方を睨んできていた。
「は? こいつ女子部屋に忍び込むような奴だぞ!?」
「・・・・・・なんでその事を五十嵐くんが知っているの? 私と神里くんしか知らないはずだよ」
五十嵐は自分で墓穴を掘ったようで、下をずっと向いていた。少なくともその程度の演技で、俺を騙せると思わない方がいい。
「えっと・・・・・・」
「五十嵐くん。もしこれで神里くんが本当に疑われて、心に傷を負ったらどうするつもりだったの?」
「・・・・・・」
「私は、そういうことする人、好きになれないかな」
「・・・・・・ごめんなさい」
大田さんの怒り方は、怖さはあまりないものの、淡々と言っているため、心に直接くるタイプだろう。まあ俺は彼女のおかげで助かったので、五十嵐を罵倒する気も、何かする気も一切ない。とりあえず次やったら何か制裁加えるかもしれないけれど。
「まあ俺は許すよ。だけど次はもうやるなよ?」
「はい・・・・・・」
そう言って五十嵐は帰っていった。結局、このやりとりはこの場の人たちに聞かれてしまったので、火のように噂として広がっていってしまった。ただ、俺に直接何か弊害があるわけではないので、良かったけれど。
そして暫くすると、キャンプファイヤーが始まったので、音源に合わせて踊りをしようと思った。
「じゃあ行くよ、大田さん」
「エスコートしてね。神里くん」
踊り初心者であった俺だったが、彼女が上手く合わせてくれたので、いい感じに踊ることができていた。この時間は、夢みたいなものだろう。可愛い女の子と、こういうことができるなんて、今までの俺なら考えられなかったからな。
ただそれと同時に、俺がこんなにいい思いをしてもいいのかという疑念も浮かんがでくる。少なくとも、一輝を見捨てた俺が、こんな事をして許されるとは思えない。せめて、彼を救うことができてからだと思う。
そして俺は、彼を救うことができるまでは、絶対に恋愛はしないと誓った。
しかし、学校行事を楽しむことはまた別なので、自分でしっかりとメリハリをつけていきたいと思う。
暫くして、周りを見回すと、石井と柴田さんが一緒に踊っていた。柴田さんは恐らく心の中では楽しんでいないと思うが、石井は満更でもなさそうだった。
鈴木は、関根さんと一緒に踊っていた。身長差が結構気になったものの、幼馴染ということもあって、息はぴったりであった。
真斗に関しては、一人でキレキレのダンス踊って一緒に踊っている女子がついていけていなかった。彼はやっぱり、人に合わせるという事を知らないようだ。
「神里くん。意外とうまいね」
「大田さんこそ。俺に合わせてくれているじゃん」
「別に合わせているわけじゃないよ」
彼女はそう言っているものの、俺からしたら、自分に合わせられているのが丸わかりであった。
「それならいいけど・・・・・・」
さっきから我慢していたが、彼女の髪からいい匂いがするし、身体が俺にあたっていて意識してしまう。彼女にはそういう気が一切ないのに俺がこんなに興奮していたら、軽蔑されてしまうだろう。
音楽の前半部分が終わったのか、一回音源が止まったので、踊りを中断した。そしてふと施設の方に目にやると、一人の女子がこちらを見てきていた。暗かったものの、すぐに俺は莉果だと理解した。
「あ・・・・・・」
「バカ・・・・・・」
莉果はそう言って施設の方に戻っていってしまった。俺は何が起きたのか理解できず、呆然と立ち尽くしてしまった。
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