#31 人からの評価は、言われなければ気が付かない。

 クラスで一番可愛い人と一緒に踊ること。普通の人だったら、こんな経験はないだろう。しかし俺は今、クラスのマドンナに踊ろうと誘われている状況である。誰もがおかしいと思うだろう。クラスで目立つ存在ではない俺と、男子からの人気が高い彼女が踊ろうとしているのだから。


「それってマジで言ってる?」


「・・・・・・うん」


 俺には彼女が冗談を言っているようには見えなかった。正直彼女と踊れるなんて満更でもない。しかしなぜが俺と踊ろうとしている理由が分からなかったのだ。


「とりあえず、理由を聞かせて欲しい」


「私ね。こういう行事は楽しみたいんだ」


 俺もキャンプファイヤー以外は同感である。これに関しては俺には一生縁がないことだと思っていたからな。


「なるほどね。で、なんで俺?」


「私が一番仲の良い男の子が神里くんだから」


 ほら、落ち着け俺。思い上がるな。彼女が俺と踊りたくて誘っているわけではない。まあ、彼女のおかげで俺は助かったようなものなので、彼女のお願いを聞くのが筋だろう。


「わかったよ。でもこういうので一緒に踊ったら噂されない?」


 俺と噂されても彼女は何も良い気分しないだろう。恐らく彼女と釣り合うのは鈴木くらいだと思うけど。


「別に気にしないよ。別に神里くんなら・・・・・・」


「そう。ならいいよ。じゃあどこ集合する?」

 

「キャンプファイヤーの前でいい?」


「いいよ」


「じゃあちょっとお風呂入ってくるね」


 そうして俺は彼女と一緒に部屋を出て、自分の部屋に戻った。鈴木は部屋にいなかったので、恐らく莉果たちと一緒にいるのだろう。


「おい怜遠どこ行ってたんだよ」


「ごめん、ちょっと五十嵐に・・・・・・」


 そうして俺は彼女と踊るということを伏せてそれ以外のことを真斗たちに話した。


「はー? 女子部屋に入らせられた?」


「そんなの酷すぎだろー。でも楽しそう」


「全然楽しくないよ。バレたらたら学校生活終わるよ」


「怜遠、危なかったね」


 マジで俺は彼女のおかげで首の皮一枚繋がったのだ。本当に感謝しかない。


「そういや、真斗たちは踊る人決まったの?」


 そう聞くと、彼らは黙ってしまったので、俺は、まだ相手が決まっていないの察した。余計に、俺が踊ることは隠さないといけなくなったな。


「てか本当に、お前らはいかないのか? オレと石井はもうそろそろ行くぞ?」


「まあ、俺は気が向いたら行くかも」


「僕は行かないよ。あんまりそういうの得意じゃないし」


 とりあえず、真斗たちに先に行かせて、俺も隙を見て太田さんと合流すれば良いだろう。一輝ならそこまで詮索はされなそうだし。


 それから二人は部屋を退出していった。因みに、真斗は他クラスの女子なら踊れそうである。石井はわからないけど、柴田さんとは厳しそうだが、どうなんだろう。


 しばらくして、俺もとりあえず外に出てようと思って、支度をしていると、一輝が本を読むのをやめて話しかけてきた。


「どうしたの一輝?」


「もしかして、怜遠も踊るの?」


「・・・・・・俺に踊る相手がいるわけ」


 俺は少々狼狽えながらも、とぼけた。一輝は昔からこういうところで鋭かったのだ。俺はそこまでなかったものの、真斗がついている嘘はほぼほぼお見通しであったのを覚えている。


「・・・・・・僕は行かないけど、怜遠が帰ってきたら、どんな感じだったのか教えて欲しい」


 俺は首を縦に振って、一輝と約束をした。まあ彼はこういうことに興味あるのは意外だけど、お願いされたからには応えないとな。


 それからとりあえずロビーまで行こうと思って、下に降りたところで、声をかけられた。そっちを見ると、名前の知らない女子がいた。多分他クラスの子だろう。


「君、そこそこかっこいいね。私と踊ってくれない?」


 俺がもし大田さんに誘われていなかったとしたら、この子の誘いを受けていただろうか。自分でもわからない。


「ごめんね。先客がいるんだ・・・・・・。でも、誘ってくれてありがとね」


「あらそう。なら仕方ないわ」


 彼女はそう言ってすんなり引いてくれた。正直無理強いしてこなくてよかった。正直俺は女性慣れしていないので、押されたら、断るのが難しかったかもしれないからだ。


 ロビーで待ちながら携帯を見ていると、部屋班グループで、真斗が『他クラスの子と踊れることになった』と言ってきたので、俺は彼を祝っておいた。石井は何も音沙汰がなかったので、まあ・・・・・・。お察しだろう。


 五分前になっても、大田さんが見えなかったので、何かあったのかと思い、彼女たちの部屋の方に向かった。そしたら道中で、他クラスの男子に何やら言い寄られているみたいだった。彼女も押しに弱いタイプなのだろうか。


「大田さん俺と踊ってよー」


「えっと、ごめんね? 私もう踊る人いるから」


「おれより上のやつなのか? 見て判だん・・・・・・」


「大田さんになんか用?」


「ってまた神里かよ・・・・・・」


 彼は俺を見たら何故か怠そうな顔をしてきた。俺この人と関わったことないのに名前覚えられているのも不可解だし・・・・・・。


「なんで俺のこと知ってるの?」


「・・・・・・お前、おれのクラスで女誑しで有名だぞ」


「は?」


 俺は理解ができなかった。正直、俺は女性慣れしていないし、そういうのとは正反対の人間だと思っていたんだけど・・・・・・。


 前世では、年齢イコール彼女いない歴だったからな。自分で言ってて悲しくなるが。


「まあお前が相手なら勝ち目ねえわじゃーな」


 そう言ってその人は足早に去っていった。


「大丈夫だった? 大田さん」


「うん」


「じゃあ行こうか」


 そう言って俺は彼女と共に歩き出した。俺は暫く、先程の彼の言葉が頭から離れなかった。

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