#26 レクリエーションでやるドッジボールは白熱する
「絶対ドッチボール!」
「いや鬼ごっこだろ」
「バレーボールは?」
今は体育館が使える数分前、クラスのみんなで何をするか話しあっている。その結果、ドッジボール、鬼ごっこ、バスケ、バレーあたりの競技が話題に上がっている。正直、バレー、バスケはコートと人数的に厳しい気がする。鬼ごっこは体育館でやるものではない気がするし、範囲が狭すぎる。
「体育館の広さと人数考えると、ドッジボールが妥当な気がするよ」
「お! 怜遠わかってる〜。お礼に始まったら最初に狙ってやるよ」
「恩を仇で返すなよ」
「えー、ドッジボールかー。まあ女の子にいいところ見せるためにやりますか」
「いいよ。田中クンに負けない!」
「突き指しないように気をつけないと・・・・・・」
俺の提案に一部の男子と女子は賛成したが、運動をあまりしない生徒からしたら、ドッジボールは公開処刑でしかないので、彼らをどう説得するかだな。
「どうするのが正解かな・・・・・・」
「ボクに任せてよ」
そう言って鈴木は乗り気じゃない生徒の方に向かった。そして遠目で何か話してるのがわかった。それから何故かその生徒たちはやる気を見せ始めたので、鈴木のカリスマ性がすごいと俺は素直に思った。
そしてドッジボールをやることになり、チーム分けを行った。これは鈴木が中心となって運動能力的に互角になるように組んだ。
俺のチームが、鈴木、石井、大田さん、柴田さんあたりで、相手チームに、真斗、一輝、莉果、伊藤さんあたりがいた。まあ確かに真斗と鈴木は違うチームだしこれなら互角くらいな気がする。とりあえず動きたくない生徒を仕方ないので元外にして、ボールが来たら内野に回してもらうことにした。逆に、向こうのチームはそこそこ動ける生徒を元外にしていた。一輝も元外にいるし・・・・・・。
正直、別に勝ち負けとか気にしていないが、真斗に煽られるのは嫌だからな。チーム状況次第では、そこそこ本気を出す気もある。まあ、鈴木がチームにいるので、来たボールを逃げたり取ったりして、程々に動いておけばいいだろう。
合図とともに、ジャンプボールが始まった。鈴木と真斗がボーラーとして出た結果、身長的に鈴木が優勢だと思われたが、真斗の読み合いが勝って相手コートにボールが入ってしまった。
そしてボールを取ったのは駒田さんだった。
ボールから目を離さずに構えていると、なんか後ろでザワザワしているのに気づいた。
「柴田さん絶対守るからね」
「うふふ、ありがと〜」
クラスの男子の三人が柴田さんを守るように立っていた。普通に何がしたいのかわからない。三人がかりで守る必要もないし、ダブルキル、ましてやトリプルキルされる可能性高まるのに。
石井は何してるのか気になったが、目立たないところに一人で立っていた。まあ確かにその判断はいいだろう。
そうやって周りを見ているうちに、チームの女子が一人駒田さんによって当てられた。普通に球速いし、彼女は運動もそこそこできるようだ。
「駒田さんナイス!」
「かっけえ」
「別に、ボールが来たから投げただけよ」
返答もクールであった。
すかさず来たボールを俺は拾って鈴木に渡した。
「神里クンは投げなくていいの?」
「鈴木の方が当たるだろうし、大丈夫」
「わかったよ」
俺らの作戦は、とりあえず周りから潰すことだ。ドッジボールは人数を減らすことが結構大事である。強い人を狙っても、基本は脱落しないので、減らす方が確実だ。
鈴木もしっかり一人を確実に当てた。近くにいた人だったので、ボールが戻ってきた。そして俺は、跳ね返ったボールをすぐさま投げた。後ろで話してる女子に当たったので、とりあえず仕事はこなした。
「ナイス神里クン」
「神里〜やるな〜」
「運が良かったんだよ」
五割くらいの力で投げたので、向こうも痛くはないだろう。しかしボールは真斗の手に渡ってしまった。
「さあ、どう料理しようかなー」
真斗は暫く見回した後、柴田さんたちの方を見て、
「君に決ーめた」
彼の手から豪速球が放たれ、柴田さんの親衛隊の一人が倒れた。
「守れたぜ」
「ありがと〜」
柴田さんはお礼こそ言っているものの、本心ではどう思っているのだろうか。
こっちも一人ずつ倒して行ったが、向こうも真斗が中心になって速い球を投げて行ったので、こちらも少しずつ脱落していった。そして柴田親衛隊も全滅した。正直チームの男子が機能しないのは痛い。向こうの男子は機能しているのに。
俺がボールを見ていると、後ろに気配を感じた。
「神里君、守って〜」
柴田さんが次は標的を俺に変えてきた。因みに俺は毛頭守る気などない。普通に自分を守らせるために他の人を犠牲にするなんて害悪としか言いようがないからな。しかも鈴木と石井がいるのに、なんで俺なのだろうか。
とりあえず、気が付かないふりをして俺の方に球が来たら、華麗に避けるか。
「誰にしようかなー」
わざと真斗を煽るような態度をとっていたら、向こうも俺をロックオンしたようで、こっちに向かって球が放たれた。
しかし、さっきの球ほど威力はなかった。これなら、彼女も痛い思いをしないで済むだろう。
俺は取ると見せかけて・・・・・・。避けた。
「イタッ」
大きな音がして、後ろを見てみると、案の定柴田さんにボールが当たっていた。正直このまま内野に残してたら、チームの男子全員脱落といった結果になりかねなかったので、丁度いい。
「ねえ。なんで避けたの〜?」
彼女は表面上では笑ってはいるものの、目が笑ってはいなかった。
「スピード的に避けられそうだったから。後ドッジボールのドッジって避けるって意味だよ」
「守ってって言ったよね」
「ごめん気づかなかった」
まあしっかり認知してたけど。
「まあ、もういいよ。外野でも守ってもらお〜」
どんだけこの人は優越感に浸りたいのだろうか。俺には理解できない。ふと横見ると石井がこちらを睨んでるし・・・・・・。
「神里くん大変だったね」
「大田さん。なんか疲れたわ」
「未来も別に悪気があるわけじゃないと思うよ」
アレが素ならそれはそれで怖いんだが。でもそれにデレデレする男子もいるのだからな。よく分からない。
「一緒に頑張ろうね。神里くん」
「ああ、とりあえずやれることはやるよ」
あざとさがない大田さんなら守ってあげようと思えるかもしれない。
いくらレクリエーションと言っても、楽しむために頑張ることは大切である。
そして鈴木がまた当てて、今の所こちらが優勢になった。
そのボールが莉果の手に渡った。
「結菜。覚悟しなさい」
莉果の目が血走っていた。俺は少し背筋が冷えた。
「大田さん、取れなそうならボールを上にあげて」
「うん。わかった」
するとすぐに莉果がリリースした。大田さん目掛けて飛んできたものの、大田さんは取ることができた。
「やった。取れた」
そして笑いながら俺にハイタッチをしようとしてきた。無邪気で可愛かったので俺は少し見惚れながらもハイタッチを返した。
「大田さん投げる?」
「いやいいよ、鈴木くん。お願い」
「了解」
鈴木の豪速球によって相手の男子が倒され、残りは真斗、一輝、莉果、駒田さん、後男子一人だけになった。
「チッ、本気出すか」
真斗が言ったその言葉を幕開けに、形勢が一気に逆転した。
「おりゃ!」
「ツッ、みんなごめん」
鈴木が脱落したことにより、ほとんど取れる人がいなくなったので、だんだんと倒されて、残ったのは俺と石井と大田さんのみになってしまった。
「まずいな・・・・・・」
もうそろそろ俺も動いた方がいいだろう。そう思ってボールが来るのを待っていたら、ボールが石井の方に行ってしまった。
「わぁ・・・・・・。っと」
石井は目を瞑りながらも、しっかりとキャッチをした。これにはみんな驚いたようで、周りから『おぉ』や『すご』など聞こえてきた。
「うぉぉぉぉー負けてたまるか!!」
しかし彼は女子に褒められたと勘違いしたのか、急にやる気が漲ったらしく、石井から豪速球が放たれた。
「マジ?」
莉果が落として、すぐに横にいた駒田さんが投げてくるが。
「こんぐらい取れるぜ」
石井はすかさずキャッチして、リリースした。
「・・・・・・やるわね」
駒田さんも脱落して、残りは真斗と一輝ともう一人だけになった。俺は石井がモテたいと思った時の力が凄まじいということに気がついた。
「やるな、こいつら」
そう言ってボールを投げてきたが次は俺がキャッチ。ジャンプしながら敵チームの男子に向かって投げる。足に当たったらしく、こっちに跳ね返ってきた。
「石井行け!」
「負けるかぁぁーーー」
石井のボールは俺の七割くらいの力が備わっており、一輝に見事命中。残りは真斗だけとなった。
「痛ッ。ごめん真斗」
「チッ。まあ覚悟しろよ、怜遠」
俺は息を呑んで真斗と対峙していたが、彼の標的は俺ではなくて、大田さんだった。しかも速度は一切容赦がない。
「これでどうだ怜遠」
俺は咄嗟に彼女を守ろうと体が動いたものの、ボールを取ることができずに上に弾いてしまった。まあ彼女に命中しなかったからいいか。
「これで良かったのかな・・・・・・」
「よっと。神里取ったぞ」
なんと俺の弾いたボールを石井がキャッチしてくれたのだ。これでノーダメで済んだ。
「ありがとう神里くん」
「気にしないで、後真斗を倒すだけだから頑張ろ!」
それから石井が俺に目配せをしたので、とりあえず彼から目を離さないようにした。
「覚悟しろ田中」
「そっちこそ。次は当ててやる」
彼は投げるモーションを見せたが、前にいる真斗じゃなくて左にいる俺にパスしてきた。俺はそれをしっかり取って。
「これで終わりだ」
大きな音と共に、真斗はその場に倒れ込んだ。無事、俺たちのチームが勝利を飾った。
一気に疲れが来たのか、俺は体をその場に下ろした。そして。
「レクリエーションって楽しいな」
一人でそう呟いた。
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