#22 恋バナ

 消灯時間を過ぎたので、俺らは布団に入る。ただもちろん寝る気はないようだった。真斗と石井が恋バナ大会とか言って話し始めたからだ。前もこうやって話していたのを思い出す。まああの時は俺は女子と縁がなかったので、俺の番は回ってこなかった。自分で言ってて悲しい気分になってくる。


「おい鈴木〜、お前はモテモテじゃんかよ〜」


「そうだぞ〜、柴田ちゃんと仲良くしちゃってさー」


 二人のだる絡みを苦々しく笑いながら、誤魔化そうとしている鈴木だったが、二人には通用していなそうだった。まあこのまま鈴木の方に意識を向けさせれば、俺の方に話題が来ないので、好都合ではある。


「ボクは別に柴田さんとはそういう関係ではないよ。それに今はサッカーに集中したいしね」


「ほんとか〜?」


 鈴木の返答にふざけて返す石井。この二人はやっぱり仲がいいなとつくづく思う。


「てか、田中クンってサッカー上手いよね。サッカー部入る気はなかったの?」


「正直サッカーは小学校の時極めてたしもういいかなって思ったんだよな」


「真斗が続けてたら、すごい選手になってたかもしれないよ?」


 真斗はスポーツ万能だった。スポーツは基本なんでもできて、中学校では野球をやっていた。その前にも、小学校の時にサッカーのクラブチームに入っており、県大会で優勝したのだ。彼はフォワードとして、ゴールを決めまくって優勝に貢献したらしい。彼の家にお邪魔させてもらったとき、県大会優勝のメダルが飾られていたのを覚えている。


 しかし、彼は飽き性なのである。一つのスポーツをやっていると、自分が満足するところまでやると、一気に熱が冷めてしまうという。それは高校で野球を続けなかったことが物語っている。


「そうなんだね・・・・・・。まあ考えは人それぞれだしね」


 鈴木も上手く会話を逸らしたな。俺も寝たいしちょうどいい。そう思って目を閉じていると、真斗が俺の布団に乗っかってきた。真斗の体重の重さで痛みを覚える。


「じゃあ次はお前の番だぜ怜遠」


 鈴木がせっかく話題を変えてくれたのに・・・・・・。意味がなかったようだ。


「俺みたいな非リアの恋バナ聞くより、鈴木から詳しく聞いたほうがいいよ」


「クラスのマドンナや、幼馴染と仲が良いお前が非リアとかしばくよ?」


 真斗は目が笑っていない。石井もこっちを睨んできている。俺は鈴木に助けを求めたが、すぐに体を布団に埋めて寝たふりをされた。自分は助かったからって寝たふりをするのは良くないと思った。


「それより、石井。お前だって柴田さんと良い感じじゃん」


「べべ別にそんなことないぞ〜」


「お前も裏切り者だったのか?」


「は? それをいうならお前だって野村さんと」


 うまい感じに矛先を向けることができたので、体を横にする。横を見ると、一輝がもうすでに眠っていた。寝顔が可愛かったので、少しびっくりしてしまった。そういえば、前に一輝が女子から可愛いと言われていたのを思い出す。中学生の時彼が女子と仲が良くなれた理由がわかる。

 

 そのまま俺も目を閉じた。



 俺は翌朝、スマホのバイブによって目を覚ました。時計を見てみると、針は六時を指していた。トイレに行きたい気分だったので、他の人を起こさないように体を起こして移動する。昨日は結局あの二人は何時まで恋バナを続けたのだろうか。二人ともスマホを持って寝落ちしたような感じである。


「とりあえず、まだ寝させてあげるか」


 起床時間は七時なので、まだ時間はある。俺はトイレを済ませて、布団の中でスマホをいじる。ネットはつながっているものの、回線が弱いので、少しして見るのをやめた。


 しばらく窓の外を眺めていると、俺の横に誰かが来た。


「おはよう、神里クン」


 鈴木も目を覚ましたみたいで、俺に話しかけてきた。会釈をして、再び窓に目をやる。


「昨日の夜は大変だったね」


「うん、まあ寝たフリのおかげで難は逃れたけど」


「ボクあのまま寝れなくてさ、しばらく二人の会話を聞いていたんだけどさ、ずっと話し続けてたよ」


 二人で恋バナなんてそんな盛り上がるものなのだろうか? 俺はよくわからない。


「石井クンは柴田さんが好きらしいね」


 鈴木がこう言う話題に興味を持つのが意外だと思った。彼はこういうことは気にならないタイプだと思っていたけど、人は見かけによらないということがわかった。


「まあ結構わかりやすいけどな」


 まあ昨日のことは見なかったことにしておこう。


「鈴木はどうなんだ?」


「え? ボク?」


「関根さんといい感じじゃない?」

 

 彼はしばらく黙った後、口を開いた。


「七海とは、そういう感じじゃないよ」


 七海? 関根さんのことか。男女で名前で呼び合ってる時点で、結構深い関係だと思うんだが。しかも昨日は七海って言ってなかった気がするんだけど・・・・・・。


「七海? 昨日は関根さんって・・・・・・」


 そう言うと彼は下を向いて黙った。俺はなんか地雷を踏んでしまったのかもしれない。


「たまたまだよ」


「男女で名前呼びって時点で結構深い関係な気がするけど」


「キミと野村さんも条件一緒だよ?」


 言われて気づいた。つまり関根さんと彼は幼馴染ってことだろうか?


「関根さんと鈴木って幼馴染?」


「そうだよ。中学は違ったけど」

 

 クラス一緒だったのに全然気づかなかった。まああの頃の俺は他人に興味なかったので知らなくても仕方がなかった。


「そうだったのか」


「うん。てかキミは大田さんと仲がいいよね」


「そうかな? てか彼女みんなに優しいと思うけど」


「でもキミは他の人の対応とは違う気がするよ」


 席が近くて最近喋るからじゃないのだろうか。実際彼女はみんなに優しい。男女ともに人気ある生徒だと思う。


「正直、うら・・・・・・。いやなんでもないよ」


 何か言い掛けていたが、詮索はよそう。

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