#20 肝試し! そして女子とは

「部屋そこそこ広いな」


 飯盒炊爨を終えて、宿初施設に戻ってきた俺たち。今日はあと肝試しだけやって終わりである。今の時刻は午後六時。肝試しが八時からなので、二時間も時間がある。お風呂は肝試しの後に入るので、まだ入れない。シャワールームが部屋についているものの、大浴場があるのにわざわざ部屋の風呂など使いたくない。


 早速荷物を置いて、部屋のどこに何があるかを確認する。一回来たことがある場所なので、なんだか懐かしい気持ちになってくる。俺の部屋班は、真斗と一輝、鈴木と石井の五人なので、そこそこ楽しい夜になりそうだ。どうせなら、石井とも仲良くなりたい。


 部屋で少しくつろいでいると、真斗が俺の肩に手を乗せてきた。


「なあ、女子部屋行かね?」


 だと思った。確かに宿泊合宿といえば女子部屋に行くのも醍醐味の一つだろう。実際、俺も少し行ってみたい気持ちがある。今回ばかりは、彼の思惑に乗ることにしよう。


「他のみんなは行く?」


 全員行きたいといってきたので、みんなで仲良く行くことになった。部屋の鍵はなぜか俺が管理することになった。つまり、室長は問答無用で俺ということだろう。これになると、夜の室長会議に強制参加となるので、結構面倒くさい。ただ、やりたくないと言う気もなかったので、仕方なく引き受けた。


 男子の部屋と女子の部屋は階が違う。一緒の階だと行き来がしやすくて危ないからだろうか。上の階に上って、女子の部屋を探す。


「もちろん行くところはみんなわかっているよな?」


 まあクラスで人気のある女子たちが集まっているのは一つしかないので、一斉に頷く。早速彼女たちがいるであろう部屋をノックする。


「はーい・・・・・・。神里くん?」


「暇だから遊びに来ちゃった。迷惑だったかな?」


「私たちも暇してたから大丈夫だよ」


 部屋を見ると、しっかり整えられていた。俺らの部屋とは比べ物にならないくらいに。中にいた四人もこちらに気づいて、話しかけてきた。見た感じ、関根さんたちは鈴木しか目に見えてなさそうであり、鈴木はただ関係なく話しにきた感じだった。石井は、柴田さんにアタックしているのがわかった。この関係複雑すぎて俺にはわからない。


 結局班のみんなと話すことになった。女子たちもまだ風呂には入っていないらしく、暇だねと話していたとのこと。流石にホテルではないので、部屋にテレビがついてない。それもあって喋るくらいしかやることがなかったのだろう。『また大富豪でもする?』と提案したが、俺の独壇場になるからと言われ、断られた。たまたまだって言ってみたものの、意味がなかった。


「てか、今日の肝試しって何するんだっけ?」


「一輝知らないのか? 班の中でペアになって夜の森を懐中電灯一個で進んで、ゴールまで行くんだってさ。しかも男女混合班は男女ペアにしてくれるらしいぞ」


 つまり俺は、大田さんか伊藤さんか莉果の誰かとは一緒に回れると言うことか。なら前回よりは楽しくなりそうだ。前は真斗と二人で回ることになったからな。ムードも楽しさも一切ない。


「ねえ、ペアって自由に決めれるの?」


「オレもそこまでは知らない。もしかして野村さんオレと一緒に・・・・・・」


「別にそう言うわけじゃない」


「ドンマイ真斗。安心して僕もフリーだから」


「おい、オレをそう言う目で見ないでくれよ」


 俺は真斗が恥ずかしがっているのとは対照的に、肝試しが楽しみで仕方がなかった。やっぱりこういう行事は、女子がいるだけで変わるものである。


「神里くんは、幽霊得意なんでしょ?」


「ああ、そうだよ」


「もしペアになったら、私安心できそう」


 上目遣いでこちらを見てくる大田さん。自分の動悸が激しくなるのが感じられた。俺は、このようなストロベリームースみたいな甘酸っぱい青春を味わって見たかったのだろう。


「神里君、私も幽霊苦手だな・・・・・・」


 俺の服の裾を掴んで、伊藤さんはそう告げてきた。もしかして俺に青春でもきたのか? いや、勘違いかもしれないからやめておこう。


「ふん。幽霊なんて怖くないんだから」


 こう言うタイプは絶対苦手なパターンだろう。


 石井が俺の肩を叩いてきた。


「神里お前モテモテで羨ましいぞ!」


「石井もアタック頑張れ」


「他人事みたいに言うなよ〜」


 石井は先ほどから柴田さんにアタックを続けているようだが、当の本人は鈴木に夢中のようだ。石井の恋の成就を心の中で願っておいた。


 肝試しの時間が近づいてきたので、俺たちは集合場所まで向かった。その途中に、真斗が何やら先生と話していたので、気になって話しかけてみた。


「なあ先生と何話してたんだ?」


「肝試しで脅かし役やらないかって言われたんだ」


「勿論断ったよな?」


「いや、引き受けたぜ」


「なぜ?」


「普通に最初に俺らから回った後、そのまま持ち場についてくれればいいらしいからな」


「なるほどね。って俺ら?」


「二人でって言われたから、オレとお前でやることになった」


「了解・・・・・・・っては?」


 なんと俺まで面倒なものに付き合わされることになってしまったのだ。ただでさえ風呂に入れてないのに、周り終わった後も残らないといけないのは普通に大変である。


「一輝は?」


「あいつが脅かす役で怖いと思う?」


 多分。可愛いで終わるだろう。そのくらい一輝は美形である。女装したら学校で人気が出るレベルで。


「安心しろ、お前の楽しむ時間を無くす訳じゃない。しかもその上、女子の怖がる姿見れるぞ」


「別に見たくないんだけど・・・・・・」


「もし大田さん達が怖がってたら、助けに行けるぞ」


「仕方ない、やりますか」


 俺は決して釣られた訳じゃないぞ。ただ、脅かす役がいないと盛り上がらないのもあるから仕方がない。


 俺たちが回る時は、先生が脅かす役をやってくれるらしい。そのまま継続してくれればいいのだが、見回りとかの人員を考えると、人手不足になってしまうという。


「流石に俺らのクラスだけだよな?」


「もしかして他クラスの女子の怖がってる姿も・・・・・・」


「お前だけだよ」


 幸い俺達は最初に行う組であるので、終わったらすぐに戻ることができる。俺は安堵した。


 集合場所に着いた。それは明日、ハイキングで行く山の手前にある森であった。静寂に包まれていて、肝試しに使用するには最適の場所だと感じた。


 俺らが脅かす役をやらされる影響からか、俺たちの班は最初に周る班となっていた。まあ今は脅かすことは忘れて、肝試しを楽しむことにしよう。


 施設の人が説明が終わって質問タイムに入ると、大田さんが手を挙げた。


「すみません、ペアって自由ですか?」


「揉めると大変だから、クジだね」


 クジか。まあ俺的には誰となってもいい。まあ莉果とはいい雰囲気ではないので、できれば避けたいところだが・・・・・・。しかも真斗に悪い。ただ、変更するのは無しと言われたので、引いたらそれが確定という。


 自分の分のクジを引いて、中身を見ずに待っていると、真斗が俺に嘆いてきた。


「やべ、どうしよ怜遠。伊藤さんとは気まずいんだけど」


「うん、頑張れ」


「お前は誰とだったんだよ」


「まだわからない」


「怜遠〜。僕は大田さんとだった。あんまり喋れてなかったから仲良くなろっと」


 ってことはつまり・・・・・・。


「なーんだ、怜遠とか」


「なんだとはなんだよ、悪かったな」


「別にいいわよ。ただ、途中で怖がったりしないでよね」


「しないよそんなこと。てかさっきの話聞いてた?」


 俺が幽霊を怖がるわけないのに、何を言ってるのかわからなかった。まあ強がっているだけだと思うことにしておいた。


「そっちこそ怖がるなよ」


「当たり前じゃん」


 しかし、中に入ってしばらく経つと、彼女は俺の肩にしがみついていた。


「ねえ、もう少し遅く歩いてよ」


「怖くないんじゃないの?」


「歩くスピードが速いって言ってるの」


 未だに強がっているものの、声が震えている。我慢をしているのだろう。俺はこれをどこかで崩してやろうと考えた。この子は昔から暗いところがダメだった。いつものように俺が助けてあげていたのを覚えている。森の暗さがピークになった場所で、俺は作戦を実行した。


「この森ってね、毎年行方不明者が出てるらしいよ。しかも、若い女性ばっかり・・・・・・」


「え?」


「この森を入ったら最後、その女性たちの幽霊によってこの森から出られなくなるらしい・・・・・・。ほら後ろにいる!」


「いやぁぁぁ!」


 怪鳥のような悲鳴が上がると同時に、俺は何かに抱きつかれた。流石にここまでの反応は考えていなかったので、焦りが生じる。


「・・・・・・くっつきすぎじゃね」


「もう怜遠のバカ。怖がらせた責任とって!」


 俺はどうやら、調子に乗りすぎたみたいだ。彼女は涙目になりながらこちらを見つめている。しかも手を離そうとしなかった。俺は流石に反省をした。


 俺が懐中電灯を照らして、莉果は俺に抱きつきながら歩き続ける。どうにかして無言の時間を無くしたかったので、会話を試みる。


「やっぱり、怖がりなのは昔から変わらないな」


「・・・・・・うるさい」


「懐かしいな。お前が迷子になって泣いていたのを思い出した」


「・・・・・・恥ずかしいからやめて」


 小学生の頃、こっそり二人で夜の街に行こうとした時、彼女とはぐれてしまったことがあった。その時、俺は目立つところで待っていたら、泣いていた彼女を見つけたのだ。あの頃の彼女は素直で可愛かったとは口が裂けても言えない。


「あの時は素直でかわ・・・・・・。なんでもない」


「なんか言った?」


「いや」


「素直じゃなくて悪かったわね」


 バッチリ聞こえてるのかよ・・・・・・。なら知らないふりをしないで欲しかった。てかもうそろそろ離してほしいんだが・・・・・・。先生に見られるからだ。


「熱いわね〜」


 担任の宮﨑先生に揶揄われてしまった。だから離れてほしいと思ったのだが、もう遅い。


「違う。ただこいつがあんなことやこんなこと言うから」


「おい、誤解されるような言い方やめて」


 先生は脅かすための仮装をしていたのだが、俺らが密着しすぎていたので、自分の役割を忘れて話しかけてしまったらしい。そこまで俺らがラブラブに見えたと考えると、顔から火が出そうな思いになってくる。


 ゴールに近づいてきたところで、急に莉果が声を欠けてきた。


「ねえ怜遠」


「何?」


「あのね、私と・・・・・・」


 彼女は顔を赤くしながら、何かを伝えようとしていた。俺も恥ずかしくなって目を合わせられなかった。


「ううん、なんでもない」


 何が伝えたかったのか、俺には分からない。


 彼女と別れて、早速脅かすために持ち場にやってきた。なんやかんや面倒くさいと思っていたものの、いざやろうとした時に、胸が高鳴っている自分に嫌気がさす。


 待機場所にいた先生に自分が脅かし役をすることを伝えた。そしたらなんか白いパーカーと、白い仮面をもらった。この仮面は、よく顔を隠すときに使われるやつで、髭のおじさんが笑ったような表情をしている。


 まずこれらを身につけて、人が来るのを待機していると、真斗と伊藤さんがきた。二人はただ黙々と進んでいるだけだった。お互いの心に壁ができており気まずそうだった。俺が脅かすと、伊藤さんが驚いてくれたので、まあ成功と言ってもいいだろう。


 しばらくすると、真斗が一人で戻ってきた。


「お前、様になってるじゃん。いいね」


「誰のせいでこうなってると思ってるの?」


 ごめんごめんと笑いながら変装して、スタンバイする。彼の仮装はピエロだった。ピエロも怖いイメージがあるので丁度いいだろう。


 二人で人が来るまで雑談していると、ターゲットがやってきた。その二人のことを脅かそうとしたが、俺には脅かそうと思えなかった。それもそのはず。そこにいたのは一輝と大田さんで。


「暗いよー怖いよー」


「向こうから音が聞こえた・・・・・・。こわいよ・・・・・・」


 二人ともすでに限界を迎えていて、俺らが脅かしたら失神しそうなくらいであったから。そして、二人はくっついていた。合法的に大田さんとくっつけて羨ましい。でもやっぱ許せない。


「二人とも大丈夫?」


「え誰?」


「誰ですか?」


「えっと私はアノニマスです」


 何言ってるんだ俺。まあバレない方が都合がいい気がしてきた。とりあえず二人をはがして、ゴールまで連れて行った。まあ正体が発覚しなかったのでよしとしよう。


「嫉妬深いなお前」


「黙れ」


「まあまあ怒るなって」


「次の人来るかもしれんからさ」


 次に来たのは、石井と柴田さんだった。良かったな石井。


「きゃーこわーい。助けて石井君〜」


「大丈夫? 俺が助けるからね柴・・・・・・。未来ちゃん」


 いかにもわざとらしい演技だと思ったが、石井が満更でもなさそうだったので気にしないでおいた。


「多分大丈夫だよ〜。てかもうここら辺明るくなってきたし、ちょっと先歩いてて〜。勿論懐中電灯は貸してね〜」


「わかった。先行ってるね」


 そこは一緒に待っててあげるもんだろ。まあ彼女には無意味な気がするが。

 

 石井が見えなくなってから、彼女が顔を上げると、けだるそうにしていた。


「はーうざ。何が『守るからね』よ。イケメンにしか似合わない言葉言ってるのオモロ」


 今までの穏やかさは影を潜めて、息をするように愚痴を言っていた。石井は別に顔悪くはないと俺は思うけど・・・・・・。なんか彼女には裏がありそうとは思ったものの、ここまでだとは思わなかった。


「鈴木君とも一緒になれなかったし。まあ七海に彼を落とすのは無理だろうから安心だけどね」


 彼女はそう言って立ち去った。結局、この言葉に気を取られて脅かす余裕はなかった。まあこのタイミングで脅かしたら、愚痴を聞いてたのがバレバレなのである意味良かったかもしれない。


「柴田さんって・・・・・・。あんな感じなのか?」


「知らん。でも少し驚いたわ。やっぱ女子って怖いね」


「性格いい天使ちゃんはいないのかね」


「さあ」


「そこは大田さんって言えよ」

 

 真斗のネタには乗らずに、自分の役割に集中する。この後、やっと脅かせそうな人が来た。


「怖いわ」


「大丈夫? ボクがついてるからね」


「ありがとナオト〜」


 『ボクがついてるからね』なんてイケメンにしか言えないセリフであろう。俺には絶対に言えない言葉だ。関根さんは柴田さんを見た後のせいで、本当に怖いのか分からなかった。


「わぁーー」


 驚くような大きな声をあげた俺達だったが、二人は特別驚いていなかった。


「えっと、神里クンと田中クン?」


「なんでわかったの?」


「勘?」


「すげぇなお前」


 何故かすぐにバレてしまった。そんなにわかりやすかっただろうか?


 しかし、その後も脅かし続けたが、他に俺らだと分かる人はいなかった。ただ彼の勘が冴えていただけだろう。俺は脅かすことの楽しさに目覚めてしまったかもしれない。

 

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