#19 飯盒炊爨! カレー作り

「さあ、今からカレーを作ります」


 施設の人が飯盒炊爨の説明を始めた。正直、俺は料理は特別得意ではない。一応、前世では大学生の時に、母と柚にやり方を聞いて、簡単なものは作ったものの、上手くはない。誰か料理できる人がいるのなら、その人に任せて、俺は裏方に徹するのが無難だろう。


 一通り説明が終わったので、班のみんなに料理ができるか尋ねてみる。


「まずカレー作ったことがある人?」


「私は一応作ったことあるよ」


「オレもまあ、少しは」


 大田さんと真斗が手をあげた。二人もできる人がいるなら、俺は出しゃばらないほうがいいな。


「なるほど、じゃあ二人が司令塔になって、それ以外の人でできることをやろうか」


「私もできるけど?」


「やめてくれ」


 莉果の発言を俺は間髪入れずに切り裂いた。なぜなら彼女は料理が全くと言っていいほどできないからである。あれは、小学生の時だった。



 俺は学校が終わって、即莉果の家に来ていた。俺の家は、彼女の家と距離があまり離れていなかったので、ほぼ毎日遊びに言っていた覚えがある。


「ねえ怜遠、今日は私がおやつ作ってあげる」


 この時、たまたま彼女が俺に何かお菓子を作ってくれると言ってきた。俺は単純に甘いものが食べたい気分だったので楽しみにして待っていた。彼女が台所にいる時、彼女が楽しそうに料理していた様子を、俺は今も鮮明に覚えている。


「できたよ〜」


 見た目はごく普通のパンケーキだった。美味しそうに見えて俺は油断していた。俺は一切れ切って口に入れる。


「どう? 美味しい?」


 俺は食べた瞬間、それを吐き出してしまった。それもそのはず、それはとてもしょっぱっかったから。実は塩が入っていたのだ。


「え。美味しくなかった?」


 俺は彼女にも一口食べてみるように伝えた。一欠片取って食べると、彼女は塩辛い表情をしていた。


「ごめん。砂糖と塩を間違えたみたい・・・・・・」


 結局、これを捨てるのは悪いと思ったので、砂糖を振りかけて食べた。



「また砂糖と塩を間違えられたら困るからさ」


「いつの話してるのよ! もうしないわよ」


 こうは言っているものの、仮に間違えられたらこの班の全員が被害を被ることになるので、調理には携わらせなかった。明らかに不機嫌そうだったが背に腹はかえられない。少し罪悪感を感じた。


 まず用意されている調理器具を水洗いしてから、用意されている薪を焚き付ける。


「危ないから離れてて」


 火がついてきたので、そう告げる。火の勢いは時間が経つにつれてだんだん強まってくるのがわかった。 


 次にお米の準備だ。時間を考えると、お米とカレーを同時進行で作っていかないといけないので、一輝たちにお米は任せた。量を測ったりするのは彼は得意なので、おそらく大丈夫だろう。


 そして料理できる二人と、俺が手伝う形でカレー作りに取り組み始めた。まずは野菜の皮剥きからだ。にんじんは芯を残さずに、じゃがいもは芽をしっかり残さず取って・・・・・・。玉ねぎは、目に染みてきて痛かった。


「野菜切り終わったよ」


「ありがとう神里くん。次は・・・・・・」


 彼女は的確に次の指示を出した。説明も分かりやすいので、ありがたかった。


「じゃあ真斗、早速肉を・・・・・・」


「すまん怜遠、腹痛いからちょっと抜ける」


 そう言って彼は施設の方まで猛ダッシュして消えていった。


「は? おいちょっと待てよ」


 トイレは生理現象なので、責めることはできないものの、この対応は無神経すぎないか?


 流石にこの作業を彼女一人にやらせるのはキツすぎると思ったので、俺もしっかりやることにした。


「大田さん、俺もやるよ」


「神里くん。ありがとう」


 早速俺は肉を鍋に入れて、炒め始めた。竹べらを使ってかき混ぜながら、次にやることを頭で整理する。肉の色が変わってきたので、すぐに野菜を入れた。ふと大田さんの方をみると、野菜や肉の入っていた袋を片付けていた。雑用を押し付けていたので申し訳ない気持ちになった。


「神里くんって料理できたんだね」


「まあ一人暮らしするためには自炊できないといけないしね」


「一人暮らしするの?」


 危ない危ない。現在進行形で一人暮らししてるみたいな言い方をしてしまった。とりあえず将来一人暮らしするためと伝えておいた。彼女はすぐに納得してくれた。


「もう大丈夫じゃない?」


「おけ。じゃあ水入れるわ」


 彼女が汲んできた水を鍋に流して、蓋をした。ここまで来ればもう大丈夫だろう。米の方も一輝のお陰で上手くいっているぽいし。


「ねえあの二人の息ぴったりじゃない?」


「そうだね。なんか夫婦みたい」


 横の班の女子たちが俺たちを見てとんでもないことを言い出した。彼女の顔を見ると、赤くなっていた。俺まで恥ずかしい気持ちになってきたので、無我夢中で鍋の中に現れたアクを取った。とりあえず何かをしていないと気が済まなかったのである。


「・・・・・・えっと神里くん。多分もう柔らかくなってると思うから、カレールーいれちゃって」


「・・・・・・了解」


「・・・・・・あと、少し水分も取り出しとかないと」


 こんな空気にした彼らを俺は心の中で恨んだ。


 とりあえず、一通り終わった頃に真斗が帰ってきた。


「すまんすまん、腹が言うこと聞かなくてさ」


「おい真斗。俺はいいけど、みんなに迷惑かけてるんだから心から反省しろ。特に大田さんにな」


「ごめんね。大田さん。そしてみんな」


「私はいいよ。神里くんが手伝ってくれたお陰で上手く作れたし」


「お前料理できたんか」


 口が減らない真斗を黙らせて、俺らは食べる準備をした。お皿とスプーンを用意して、ご飯とカレーをお皿に盛り付ける。こっそり俺と大田さんのお皿を多めに盛り付けておいた。流石にみんなには内緒だが。


 食べる挨拶をして、みんなで食べ始める。自分で作ったと言うこともあり、一層美味しく感じた。形自体は俺が切ったのはそこまで綺麗ではなかったものの、やはり二人が切ったやつは俺のやつとは比べ物にならないくらい上手であった。


「やっぱみんなで作ったご飯は最高だな」


「あんたトイレ行ってただけでしょ」


「まあまあ、もし怜遠と大田さんがいなかったら、こんな美味しいカレー食べれなかったんだから二人に感謝しよう?」


「神里君と大田さんすごいね」


 俺は気分が良くなってきて少し誇らしくなった。これもその一つの理由ではあるが、先程、料理ができる男子はかっこいいという噂を聞いたからである。俺はやっぱり単純な人間なのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る