#18 林間学校! オリエンテーリング
窓から朝の光が差し込む中、俺は体を起こした。随分長く眠った感覚があり、眠気が完全に覚めていた。それもそのはず、昨日は早く寝たのだから。
今日は待ちに待った林間学校。前世と違って女子達とも仲良くできているので、楽しいものになるはずだ。
下に降りると、柚がもう起きていて、ソファに腰をかけながら携帯をいじっていた。
「おはよう、お兄ちゃん」
「ああ、おはよう」
「林間学校。楽しんできて。そして、お土産話聞かせてね」
妹のためにも楽しい思い出を作ろうと今一度誓った。
朝食をとり、用意されている弁当をカバンに入れて、家族に挨拶を言って、家を出た。
駅に着くと、二人はもうすでに到着していた。ふたりともリュックを背負っており、荷物は重そうだった。
「よお怜遠、早いな」
「それお前が言うか?」
「おはよう、怜遠」
真斗の私服はいかにも女子ウケを狙っているような感じだった。因みに、俺も真斗のことを言えない。なぜなら、今日着てきた服は、大田さんと出かけた時買ったやつだからだ。
対照的に、一輝の服は中学生が着ていそうな服だった。俺が前世で一切服装に気を遣っていなかった時に来ていたような感じの服装である。
そのまま電車が駅に到着するまで、俺たちは雑談をしながら過ごした。林間学校でどのレクが楽しみだとか、夜女子部屋に行こうだとか・・・・・・。まあ最後の話題には触れないでおいたが。
電車の接近アナウンスが鳴り、電車に乗り込む準備をしていたら、誰かに目を塞がれた。
「だ〜れだ?」
「この声は・・・・・・。大田さん?」
「正解、よくわかったね」
正体は、大田さんだった。彼女ってこんなことするキャラだっけ・・・・・・?。
しかも、この前俺が選んであげた白いワンピースを着ていて少し意識してしまう。
「その服って・・・・・・」
「神里くんが選んでくれてやつだよ。どう? 変じゃない?」
「似合ってるよ」
「ありがとう」
俺らが二人の世界に入りかけていたので、真斗が間に入って止める。実際に周りが見えてなかった俺が悪いので、平謝りをする。
電車に乗ると、大田さんを交えて四人で会話する。みんながスケジュールを知りたいと言ったので、しおりを今一度確認する。
まず初日は、昼食をとってからオリエンテーリング、夕方にカレーを作って、肝試しで終了。二日目はハイキングを行い、夕方にバーベキュー、夜にキャンプファイヤーといった流れであった。確か、この前とスケジュールも一緒だった覚えがある。
隣の駅に着くと、莉果が電車に乗ってきた。
「おはよー結菜。あれ? 三人もいるの?」
「別にいいだろ〜同じ班なんだし」
莉果の塩対応にもめげずに真斗は絡んでいく。真斗ぐらいメンタルが強くなりたいと願った。
学校に着くと、大体の人はみんな到着していた。班ごとに集合と言われたので、伊藤さんを待っていた。
「なあ伊藤さんまだか〜?」
「まあまだ出発時間まで十分くらいあるから焦らなくていいよ」
しばらく待っていると、なんやら男子達がザワザワしているのが感じられた。どこかからか『可愛い』とか『こんな可愛い子クラスにいた?』などのさまざまな疑問が飛び散っている。
俺も気になって、ざわめきが起きている方に向かった。
そこいたのは、伊藤さんだった。しかし、髪型もしっかり切りそろえられていて、眼鏡もしていなかった。いつもの芋っぽさはなくて、少し見惚れてしまった。
「えっと・・・・・・神里君」
「伊藤さん、変わったね」
「神里君のおかげだよ。私が変われたのは」
この対話を聞いて、クラスのみんなは伊藤さんだと気付いたようで、驚愕していた。男子に至っては、急に掌を返すように親密になろうとしている奴らもいた。
俺はそっと彼女を班まで連れて行こうと、手を取った。
「は?」
「なんであいつばっかり・・・・・・」
俺に対して聞こえよがしに悪口を言ってくる奴らもいるが、正直気にするつもりなんてない。急に掌を返すような人間に言われた言葉なんてどうでもいいからだ。
班のみんなも彼女の変わりようにびっくりしており、真斗も一気に態度を変えていた。俺は真斗を黙らせながら、伊藤さんと話した。
彼女はこの前俺達と別れた後、垢抜けるために必要なものを買って、週末で試したという。そして美容院に行って、髪型を変え、コンタクトに変えたらしい。実際俺は自信を持って欲しいと彼女に伝えたが、外見から変えてくるのは予想外だった。
「伊藤さんだったんだ。とっても可愛いよ!」
「ありがとう、大田さん」
大田さんのこの発言はおそらく本心のはずだ。心根の優しい彼女は嘘はつけないだろう。
それから今日のスケジュールの説明があり、バスに乗り込んだ。真っ先に後ろの席を取ってくれた真斗には感謝しかない。なお莉果の隣になりたいと騒いでいたが。
席は結局、後ろは取れたものの、五人席なので一人が余ってしまう。いくら俺でも、美少女三人と同じ班である以上、余り席で甘んじる気は毛頭なかった。結局じゃんけんで決めることになった。
「ジャンケン」
「ポン!」
結果、席取りをしてくれた真斗が一人席になってしまったのだ。これは流石に気の毒だと思った。
並び順は、莉果、大田さん、俺、伊藤さん、一輝だ。女子に囲まれることなんて今までの俺の学生生活なら考えられないことだったので嬉しく感じてくる。
目的地までの所要時間はそこまで長くはなく、長時間のバス移動などはないので、正直楽ではある。ずっと座りっぱなしなのは意外と疲れるし、退屈だからである。
移動中は、一個前の席にいる真斗が持ってきたトランプで大富豪をやっていた。手札を置くところがないので、仕方なく俺の膝の上にみんなが置くハメになっていた。
「よし一を二枚! みんな出せないよね? これでオレの勝ちは決まり••••••」
「はい二とジョーカー。そして五で上がり」
「何でだよ〜。マジで勝てねえよ」
「神里くん強いね、全然勝てないよ」
「怜遠に負けるのなんかムカつくんですけど」
なんと三回連続で勝ち進んでしまって、ちょっと場の雰囲気が悪くなっている。六人でやっているので、勿論俺のところに強いカードばかりは来ない。ただ、二枚や三枚のカードを保持しておいて、後々に無双する作戦が上手く行きすぎているだけである。状況が状況なので、革命とかの追加ルールは入れてないのも勝てている要因の一つだろう。
「神里君どうしてそんなに強いの?」
「怜遠は心理戦とかこういうの得意なんだよ伊藤さん」
「そうなんだ。ありがとう森君」
なんやかんやこの二人は性格が似ているのもあって、そこそこ仲良くなれている気がする。
「じゃあババ抜きやる?」
「あ? 勝ち逃げか? 許されないぞ」
「うるさい田中。怜遠には絶対負けないわよ!」
なんでこいつらはトランプでここまで本気になっているのか••••••。俺にはよく分からない。
「おーい寝てる人もいるんだから静かにしろ、田中、野村」
「すみませんでした」
二人の声が響き渡り、彼らは俺を睨みつけた。この時二人を宥めてくれた大田さんには感謝しかない。
それからトランプをやめて、各々自分のしたいことに取り掛かった。
真斗は莉果に語りかけ、一輝と伊藤さんは小説の話題で盛り上がっていた。
俺は大田さんに話しかけた。
「ねぇ大田さん。さっきも言ったかもしれないけど、その服似合ってるよ」
「ありがとう。神里くん。神里くんも似合ってると思うよ?」
「まあ大田さんのお墨付きだしね」
「でもあのとき評価したのは私だけど、選んだのは神里くんだったよ?」
「そうだっけ?」
あれ? 完全に彼女が選んでくれたものだと思い込んでいた。俺は少し恥ずかしくなってくる。
彼女と白色のワンピースは清楚な雰囲気とマッチしており、ずっと見ていられるほどだ。臨海学校だったらどんなに良かったことかという妄想は心に留めておく。
「大田さんは、なんのイベントが一番楽しみ?」
「私は••••••。レクリエーションと
「いいね。因みに俺は肝試しかな?」
「神里くん怖いのいけるの?」
「幽霊とか信じてなきゃ怖くないしね」
多分俺は女の子と一緒にお化け屋敷行っても、『ここら辺で出てくるよ』とか言って空気を読めないタイプだろう。実際、こういうものに対しての恐怖心がないので仕方ない。
「私は得意ではないかなー」
「えまじ? 怜遠チャンスじゃん」
急に会話に混じってきた真斗。本人の前で言ってしまうところが流石真斗と言った感じだ。まず男子でこういうの苦手なのは正直ダサいと思ってしまう。吊り橋効果の意味がなくなってしまうからだ。
バスは宿泊施設に到着した。ここには宿泊施設だけでなく野外炊事場や、ハイキングコースや、森も隣接しているので、ここで全部味わうことができるという。
入館式を終え、各自班で昼食の時間となったので、屋外で場所を探していると、真斗が声を上げた。
「なぁ、この山の一番高いところに屋根つきの建物あるらしいぜ」
「施設紹介のパンフレットに書いてあったよな、丘の上の東屋だっけ?」
「そこで食わない?」
「確かにそこで食べた方がもっと美味しく感じそうだね」
「みんな、そこでいい?」
俺が尋ねると、みんな首を縦に振った。
やっぱりこういう行事は、周りに女子がいるだけで楽しさが変わっていくるものだと俺は改めて感じた。しかも、三人とも美少女である。他の男子からの視線が痛いものの、可愛い子達と過ごせるってことを考えると決して悪くはない。俺はもう一度学生時代をやり直せたことにとても感謝した。
頂上に着くと、東屋が見えてきた。外観は決して新しくはなかったが、風流な感じがした。早速みんなで座って弁当を食べることにした。全員で挨拶をして、箸を進める。真斗がマシンガントークで、莉果が突っ込んでそれをみんなが聞いているような感じだった。
食べ終えても、時間がまだあって、みんな暇を持て余していた。そこで俺はあるものを取り出した。それはウノだ。これは修学旅行の時にやるカードゲームの中で一番人気と言っても過言ではないだろう。しかもプラス二を連続でハメた時の快感がたまらないのである。
「ウノじゃん、今度こそ負けないから」
俺に対して何らかの対抗心を燃やしているのか、彼女はこちらを睨んできた。さっき連続で勝った事を根に思っているのだろうか・・・・・・。まあ次も負けないように頑張るか。
ウノに関しては、カード次第ということあって、なかなか色が合わなくて俺は苦戦していた。そうこうしてるうちに、みんなが上がり始めて、俺と莉果の一騎打ちになってしまったのだ。目の前には、余裕ぶっている彼女がいた。
「怜遠には絶対負けないから」
「ああ、そう」
「もっとなんか言ってよ、はいウノ!」
「ごめんねプラス二」
カードがちょうど相手をイラつかせるものばっかりきたので、仕方なく出しておいた。彼女は俺が出せば出すほど、きつい表情になっていったが、ゲームなので仕方がない。そのままウノをしていると、集合時間まで後三十分になっていたので、東家を離れた。夢中になって遊んでいたので、時間が過ぎるのが早く感じた。
集合場所に到着すると、オリエンテーリングの説明が始まった。班でこの森の中を探索して、謎解きをし、最初に戻ってきたチームが勝ちだという。前は、確か真斗が暴走して、全然チームがまとまらなかったんだよな・・・・・・。
早速、近くから散策することにした。
「優勝チームには何か景品とかあるのかな」
「確か、僕が見た限りだと、ジュースが段ボールに入ってたから、景品は飲み物じゃない?」
「なんだよ、もっといいのないのかよ」
「学校の行事に品質を求めるなよ」
真斗は景品でやる気が変わったようだ。まあ、俺は景品関係なく、行事を楽しむと決めているので一応全力でやるつもりである。いろいろなところを回っていると、一つ目の謎解きを見つけた。謎解きは穴埋め問題で、『〇〇ばば』『こ〇〇』『〇〇ぜ』と書いてあった。この三つに共通してある言葉を入れるらしい。
「これはそこそこ簡単な気がする。みんなはわかった?」
「オレわからんよこれ」
「私も・・・・・・さっぱり」
この二人はまあ・・・・・・お察しだった。他の三人に聞いても、首を横に振っていたので、仕方なく解説をしようと、口を開いた。
「多分『ねこ』だろ。『ねこばば』『こねこ』『ねこぜ』これで意味が通るからな」
「確かにそうだね。私もわかったよ」
「ねこばばってなに?」
「真斗が被害を受けそうなこと」
「・・・・・・っておい、今意味調べたけど馬鹿にしてるよな?」
チームの仲はいいのか悪いのかわからないものの、これで一つ目の問題は解くことができた。仮に俺がわからなくても、一輝や大田さんがいればなんとかなりそうな気がする。
俺たちは次々と、謎解きをしていった。穴埋めやなぞなぞは、俺はそこそこわかったものの、数学の問題は一切歯が立たなかったので、一輝に丸投げした。仕方がないや、数学は苦手だから。そういえば、数学のテストの点数はどれぐらい取れているだろうか。とりあえず平均点は取りたいが、問題自体が難しかったので不安になってくる。
「よし五問目だぜ、やっぱ俺がこのチームにいてよかったな!」
「あんた何もしてなくない?」
「それをいうなら君もでしょ」
「ああもういいから。えっと『〇〇てんがい』?」
「・・・・・・あと、『〇〇はんのう』『〇〇ほんのう』って書いてあるよ」
「なんか、一気に難しくなってきてない?」
確かに急激に難易度が上がった気がする。これは、組む人次第ではゴールまで辿り着けないこともあり得るだろう。しばらく考えると、答えが思い浮かんできた。一つが分かれば、そのほかも全部わかるからである。
「まあ俺は大体理解したけどみんなは?」
「えっと、神里くん。私、一つわかったかも・・・・・・・」
「流石だね・・・・・・って、ど、どうしたの?」
彼女はなぜか顔が赤くなっていた。この時期に寒いなんてことはないだろうし、どうしたのだろうか。
「なんでもないよ。ただ、これを言うのはちょっと恥ずかしいかも・・・・・・」
「多分この言葉に恥ずかしい意味は無いと思うよだから言ってみて」
恥ずかしそうにしながら彼女は口を開く。
「・・・・・・きすほんのう」
「え? きすほんのうって何?」
俺が疑問を問いかける前に、一輝が問いかける。彼でもわからない言葉が、俺らに分かるはずがない。
「えっと、確か動物が、迷っても元々暮らしてる場所に戻れるって・・・・・・」
「
この指摘を受けて、彼女の顔がだんだんと赤くなっていくのがわかった。照れている顔も、可愛らしいので、何も問題はないと思うが。
「ごめんね、忘れて」
「流石にこれは忘れられないかも」
「本当に恥ずかしいから・・・・・・」
この時の彼女の表情は、俺の脳裏に残り続けるだろう。
謎解きを全部クリアして、ゴールに向かうと、俺らが一番乗りだった。景品はやはり飲み物らしい。ずっと歩いていたので、普通にありがたかった。
それからゴールの広場で待っていると、だんだんと他のグループもゴールに辿り着いてきた。他クラスの人もいて、その人たちの視線は大田さんに釘付けであった。
「あれが大田さんか。可愛い」
「彼氏とかいるのかな?」
「あの横にいるやつと仲良いらしいけど、付き合ってるのかは知らん」
俺は心の中で、『俺らは付き合ってないよ』と叫んでおいた。ただの自己満足だが。
「てかあのグループ他の二人も可愛いじゃん。男もそこそこだし」
「俺らにはつけ入る隙がなさそうだね」
彼らは何故か勝手に憧れて、勝手に諦めていった。果たして何がしたかったのか・・・・・・。
俺は自分が今どういう状況なのか、考えた方がいいのかなと思った。
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