#17 班決め、そして心の弱さとは

 林間学校、それは学生が一度は経験するイベントである。キャンプファイヤーをしたり、カレーを作ったり、肝試しをしたり••••••。俺はこういうイベントに対して積極的に取り組んだことが今までなかった。そして、修学旅行に関しては行かないという有様であった。林間学校は、来週の月曜から水曜までの二泊三日で行われるらしく、今はその班決めを行っている。班は、男女関係なく六人班を作れと言われた。


「なあ怜遠、一輝。大田さんと野村さんでいいよな?」

 

 俺もあの二人と組みたい気分だったので、静かに首を縦に振る。


「ねえ大田さん。良かったら一緒に組まない?」


「いいよ。莉果も誘ってもいい?」 


「真斗曰くむしろ大歓迎だって」


 横を見ると真斗が俺に向かって強い眼差しを向けていた。本当のことを言っただけなので、何もおかしくはない。


 その後、あとの一人を誰にしようか迷っていた。ふと鈴木の席を見てみると、女子の大半が取り囲んでいた。鈴木が誰と組むのか気になって見ていると、関根さんの『権力』という物やらで、他の女子達は戦意喪失していた。俺はギャルは怖いと改めて感じた。結局鈴木は、彼と仲のいい石井と、関根さんと柴田さん達と組んでいた。


 そして俺は、まだ誰とも組んでいなかった伊藤さんに声をかけた。


「・・・・・・私でいいの?」


「うん、まだ組んでなさそうだったし。その中で喋れそうなの君しかいなかったから。みんないいよね?」


「私は全然いいよ。よろしくね、伊藤さん」


「まあ結菜がいいって言うなら」


「伊藤さん、よろしくね」


 みんな納得して温かい言葉で迎えてくれていたので、俺はそっと胸を撫で下ろした。


 しかし、真斗だけは反応が違った。


「お前、もしかして・・・・・・」


 真斗は俺を腫れ物を見るような目で見てきていた。


「お前の考えているようなことはないから安心しろ」


 俺は真斗を宥めた。なんか不満そうな顔をしていたが気にしないでおこう。


 その後部屋決めも行った。先生の説明によると、部屋は男子は二部屋、女子は四部屋らしい。とりあえず真斗と一輝と一緒に組む人を探していたら、鈴木と石井と組むことになった。

 

 ふと大田さんたちは誰と組んだか見てみると、莉果と伊藤さん、そして、関根さんと柴田さんと組んでいた。思いがけないメンツで少し驚いた。

 

 そして学校が終わり、みんなで林間学校で必要なものを買いに行こうと言うことになった。

 

 しかし、今日は図書委員があるので、みんなには少し待っていてもらうことになった。林間学校を楽しみにしている自分がいることに驚いている。実際この前は林間学校も別に楽しみではなかったし、修学旅行に関しては勉強を理由に休んでいる。結局家で本を読んだりゲームをしていただけだったが。もしかして、俺は今、学校生活を楽しめているのかもしれない。

 

 横を見ると、伊藤さんが本を移動させているのが見えた。彼女は、林間学校のことをどう思っているのだろうか。


「伊藤さん、来週楽しみだね」


「・・・・・・ありがとね、神里君。私を入れてくれて」


「いや全然いいよ。てかむしろ入ってくれて助かったよ」

 

 彼女は自分を低く見ているのか、いつも自分を下げる発言をする。俺も自嘲的な発言をすることはあるものの、彼女はそれが顕著に現れている。ここまで自分を卑下するのは良くないことだと今の俺ならわかる。


「ねえ、伊藤さん。君さ、よく自虐するよね」


「••••••私には何も誇れることないから」


 彼女は自分に自信がないのか、声が震えている。


「そんなことないと思うよ。俺は最近、君が頑張っているのがよくわかるよ」


 少しずつだが、彼女は人とコミュニケーションを取ろうとしていた。授業中も発言しようとしていたり、ずっと下を向いているわけでもないし••••••。


「••••••慰めなんていらないよ」


「慰めなんかじゃないよ。これは俺の本心。しかも、君は魅力的だと思うよ」


「そんなわけない!」


 彼女は本棚を叩きながら、辛気を孕んだ声を出す。それは彼女が今まで出したことがない、強圧的な声だった。


 その刹那、彼女の上の本棚から、一冊の本が落ちてきた。


「ッ、伊藤さん危ない!」


 俺は覆い被さるように、彼女を本から守った。咄嗟に守ったものの、距離がとても近くて、胸の鼓動が早くなっているのが感じられる。


「••••••ありがとう。神里君」


 しかし俺には彼女の言葉は届いてなかった。なぜなら、どうしたら彼女に自信を持ってもらうかしか考えてなかったから。俺は彼女の眼鏡を取る。


「••••••あ、ちょっと返して」

 

「ほら、可愛いじゃん」

 

 俺はスマホのカメラで、彼女を写してみせた。そこには、可愛らしい少女が一人写っていた。


「もっと自信を持ってもいいんだよ。俺が保証する」  


「神里君••••••」


「少なくとも、自分を卑下しないで欲しい。君に足りないものは自信なんだ。ただ、それだけなんだ」


 なぜ俺はこんな恥ずかしいセリフを言えたのか。言った後になって羞恥心が体を包んでくる。


「ありがとう。なんか、気分が楽になった気がする」


「じゃあ、早く終わらせようか。それから、この後買い物に行くんだけどくる?」


「いいの? ありがとう」


 少し明るくなった彼女は、いつもと違うような雰囲気がした。



「ごめん、遅くなった。伊藤さんも一緒に行くことになったから」


 俺は伊藤さんを連れて、みんなが待っているところまで合流した。


「全然大丈夫、じゃあ早く行こ? そういえば私、伊藤さんのこともっと知りたいな」


 大田さんが伊藤さんに話しかけている中、俺は一輝と話す。


「林間学校って何必要なんだっけ?」


「とりあえず、服とか下着はあった方がいいと思うよ。あとティッシュとかハンカチ、雨具あたりもね」


「まあ服はあるし、そこら辺の消耗品は買っておくか」


 駅前のショッピングモールに着くと早速、俺は必要なものを買いに行った。まずは消耗品を購入した。


 そして各々必要なものを買い終えて、服売り場にやってきた。男子は全員服を買う人がいなかったので、女性物の服屋に到着した。


「じゃあ私たちは服買ってくるから、ここで待ってて」


「なんで? オレも一緒に選んであげようか?」


 なぜ待たせようとしているのか理解していない真斗は、純粋についていこうとする。


「真斗、察しろ」


「何が? ねえ野村さん」


「下着買うから。し た ぎ!」


 莉果は顔を赤くして店の中に入っていった。真斗は意味がわかったのか、焦っていた。


「じゃあ私たちも買ってくるから、待っててね」


「うん。真斗を抑えとくねー」


 大田さんは苦笑いすると、伊藤さんを連れて店の奥に消えていった。


 三人で雑談していると、真斗が三人の下着の種類を想像し始めた。俺は全て聞き流そうとしたが、意識がそっちに向き始めて、無理だった。


「真斗流石にやめようぜそういうの」


「え? どうしてそうなるの?」


 一人純粋すぎて何の話してるのかわからない人もいるし。

 

 とりあえず俺は、林間学校で楽しい思い出を作ろうと誓った

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