#16 カラオケにて
「いいね〜。カミザト〜歌ってイコー」
「ふたりともがんばってね〜」
俺は今、何をしているのだろうか。真斗と一輝とカラオケに来ていたはずなのに。隣にはクラスの中心にいる女子がマイクを持って歌う準備をしている。なぜクラスの女子と一緒に歌おうとしているのだろうか。
時は少し前に遡る。
「ネットで見たんだけどここのカラオケ安いらしいよ」
「じゃあここにしよう」
俺は親友の二人とカラオケに来た。正直、カラオケがいつぶりかはわからない。
前世でも最後に行ったのは学生の頃だったと思う。仕事で行く暇も行く人もいなかったから仕方がないけど。
早速受付をして、部屋に入る。部屋はそこそこ明るく、素朴な雰囲気を醸し出していた。自分的にはこっちの方が居心地がいい。むしろ、ゴージャスな雰囲気なのは合わない気がする。
「じゃあまずオレから歌っていい?」
真斗が選んだのは、有名なアニメソングだった。確か俺が社会人になるまで続いている長い作品である。そして、彼の歌声はそこそこだった。音程はそこそこ取れていて、声量はそこそこただ裏声が出ないというような・・・・・・。
「八三点か。そこそこだったわ」
そして俺にマイクを渡してきた。当時流行っていた曲を選んで、予約に追加する。
「センスいいね怜遠、僕もこれ知ってるよ」
一輝は目を輝かしてモニターを眺めている。どうやらいいチョイスだったらしい。
音源が流れ始めると俺は音楽に乗って歌った
歌い終えると拍手が湧いた。俺は夢中になって歌ってしまっていたことに気づいて少し恥ずかしくなった。
「怜遠結構うまくね?」
「いや、そこそこくらいだよ。声量出ないし」
点数は八五点だった。まあ久々に歌ってこの点数なら悪くはないと思う。
「じゃあ次は一輝な」
「うん。何にしようかな・・・・・・」
一輝は少し考えた後、曲を入れた。その曲はこの時流行っていたアイドルの曲だった。
男性が女性の曲を歌うのは一般的に難しくなる。
しかし一輝は一切関係なく、キーも一切変えずに最後まで歌い切った。とても上手だった。それは俺や真斗とは比べ物にならないくらい。
「八九点って、すごすぎるだろ」
「ありがとー」
それから順番に歌い続けて、俺がドリンクバーを注ぎに行った時、見たことある人がいた。
それはクラスメートの関根さんと柴田さんだった。関根さんは、クラスの中心にいる女子で、柴田さんは関根さんと仲のいい女の子だ。ほぼ喋ったことがないので、気づかれないようにしようとしたが、目が合ってしまった。
「あれ、君クラスの・・・・・・」
「神里君だよね〜?」
「そうだけど」
まず関根さんには自分の名前を覚えられてなかった。少し残念ではあったものの、まだ一ヶ月なので、仕方ないと思うことにした。
「二人でカラオケに来たの?」
「そうだよ〜、やっぱりテスト終わった後くらいは息抜きしたいしね〜」
柴田さんは、確か成績が良かった気がする、しかし関根さんは・・・・・・。
「アタシ点数やばい気がするんだよねーマジでどーしよ」
「まあまあまだ最初のテストだしなんとかなるよ」
俺がこの場所にいてはいけない気がしたので、やにわにドリンクを注いで、立ち去ろうとした。
「えっとカミザト? だっけ」
「どうしたの?」
「少しよってかない?」
流石にあまり喋ったことのない人と一緒に歌うのはきつい。どのように断ろうと考えた。
「いやいい・・・・・・」
「行くよ〜」
しかし柴田さんに腕を掴まれて部屋に連れ込まれてしまった。
部屋の雰囲気はさっきの部屋とは違って、俺の苦手な豪勢な感じだった。
「じゃあ早速歌うわよー」
関根さんが入れた曲は、韓流アイドルの曲だった。正直、俺はこういうのには疎くてほとんど分からない。しかし俺の手元にマイクが渡されてしまったので、今更歌えないとは言い出せなかった。まさにのっぴきならない状況だった。
「ふたりともがんばって〜」
柴田さんは俺の心境を知らないので、仕方はないものの、疎ましく感じてしまった。
音源が流れてきたので、キーを見ながらできるだけ調整して歌った。関根さんとのデュエットになったが、どうにか歌い切った。まあ点数は・・・・・・、お察しだった。
「ごめん俺あんまりこういうのわからなくてさ」
「そうだったん? じゃあ次はなんか一人で歌ってみてよ」
無茶振りを断ったら後々面倒なことになりそうだったので仕方なく自分が一番点数を取れそうな曲を選んだトーンがそこまで高くないので、地声で歌えるから結構楽なのだ。
歌い終えると、点数のところに八七と表示されていた。
「え? すごいじゃん」
「すごいね〜」
二人からは驚愕されたようだった。
ふと時計を見る、そして俺は長居しすぎたということに今気づいた。
「ごめん待たせてるから、じゃあね」
そして俺は部屋を出てすぐに部屋まで戻った。そして真斗が俺に問い詰めてくる。俺は次に行った時にトイレに行きたくなったといっておいたが、果たして信じてもらえたのか。
それからしばらく歌っていると、扉が開いた。
「カミザト? ってタナカ・・・・・・」
関根さんは真斗を見ると少し嫌な顔をしたので、真斗は落ち着けない様子でソワソワしていた。
「えっと田中君と森君かな〜?」
「うん。合ってるよ」
「怜遠この二人が来てるの知ってたか?」
「いや知らないけど・・・・・・」
俺はしらを切ったものの、関根さんが全て話してしまったため、水の泡になった。
その後、このことを大田さんと莉果に言うと脅され、俺がどうしたかは言うまでもない。
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