#5 係決め
入学式を終えて初の登校日となる今日。俺は昨日早めに眠りについたので、早く起きてしまった。そのまま下に降りると、母さんが不思議そうな目でこちらを見つめてくる。
「あれ? 今日は早起き? 柚もまだ起きていないよ」
前まで俺が結構ギリギリまで寝ていた影響か、少し驚いたようだ。
「昨日早く寝たから、起きれたんだよ。折角だし早く学校に行くわ」
そのまま朝食をとって支度をして、家を出た。二人には『悪いけど先にいく』と伝えておいたので大丈夫だろう。
学校への道のりは昨日も通ったのにまだ実感がわかなくて、不思議な気持ちになる。駅に着いて定期を通してホームに到着している電車に乗り込む。
電車はガラガラと響く音と共に、風をきって進みだす。俺は着くまでの暇時間を読書に充てた。勿論ライトノベルだけど。柚が読んでいて俺が読んだことのないものがいくつかあったから昨日借りたのだ。内容は、主人公が戻って人生をやり直す話だ。なんか既視感がある気もするが、気にしないでおこう。
最寄駅に着いたので、降りて通学路を通って校舎内へ。
誰もまだきていないだろうと思い、そのまま教室に入ると、昨日話した大田さんが既に来ていた。
「あ神里くん、おはよう」
「おはよう、大田さん。早起きだな」
「うん、今日はちょっと早く起きちゃったんだよね」
彼女はそう言いながら、伸びをしていた。不覚にも可愛いと思ってしまった。
「眠そうだけど?」
「今ので眠気取れたかな」
「そうなのか」
俺は、頷いた。そして、彼女がいじっているものに目を向ける。
「携帯で何やってるの?」
「このアプリを最近友達に入れたほうがいいって言われたから入れてみたんだけど、使い方がわからないの。神里くん分かる?」
このアプリは『写真や動画を投稿する』『他人の写真や動画を見る』ことをメインとするSNSだ。恐らく彼女は半ば強制的に入れられたと言う感じか?
「少し見せてくれ」
俺がそう伝えると彼女は携帯を渡した。名前と画像の入れ方が分からなかったようだった。俺はとりあえずこのアプリの使い方を一通り教えてあげた。昔使っていたから懐かしさを覚える。
「これで一通り使えると思うよ」
「ありがとう。神里君優しいね」
「いやいや、そんなことはないよ」
人に感謝されるのはやっぱり気持ちがいいな。
「そうだ、折角だし連絡先交換しない?」
「いいよ」
そのまま連絡先を交換して雑談してると、徐々に人が到着し始めた。そして二人も学校に着いた。
「よお怜遠、先行きやがってよお。まあいいけど」
「おはよう怜遠、大田さん」
「すまん、少し早く起きれたからさ」
「田中くん、森くん、おはよう」
真斗がもう少しなんか言ってくるかと思ったが、取り越し苦労だったようだ。
「早く行ったのは大田さんと話すためか?」
前言撤回、そんなことなかった
「たまたまだよ、な大田さん?」
「うん」
「本当か? まあそれならいいけど」
真斗は俺が女子と話しているのが気に入らないっぽい。俺に彼女ができるわけないのにな。
「結菜、おはよー」
「あ莉果。おはよう」
話していると遅刻ギリギリに莉果が来た。急いできたのか息切れしている。
「メイクに時間かかっちゃったのよ」
「そうだったんだ。大変だね」
「結菜は化粧しないの?」
「そんなにしないかな」
化粧しないでこの可愛さはなかなかだな。すごい。
「はいみんな座れ、ホームルームを始める」
宮﨑先生が教壇に立ち、号令をかける。
「今日やることは、学校の行事の説明と係決めだ。しっかり聞けよ。まずはこの学校は、三学期制で定期考査は五
回、大きな行事としては五月には林間学校、六月には球技大会、十月には体育祭、十一月には文化祭がある。勉強だけじゃなくて、行事もしっかり楽しんでくれ」
今回は少しは学業に力を入れないといけない。せめて全部七割は取るくらいには頑張るつもりだ。
そういや、筋トレをすると言っても何を何セットやってとか決めないといけないな、明確な目標を決めてやらないと意味のないものになってしまう可能性大だしな。どうしようか……。
「じゃあ次は係決めに入る。まずは放送……」
ここで係決めに入った。これは恐らく一輝は風紀委員に入ろうとするはず。ならば、俺も彼と一緒に風紀委員になって彼を守るべきだろう。あの出来事が起こるのは秋だから、それまでに体を鍛えればなんとかなる気がするし。人数は……二人か。他に手を挙げる人がいないといいけど……。
そしてやっと風紀委員を決める時間になったので、俺はすかさず手を挙げた。しかし、俺と一輝以外に、横山という男子と柴田という女子が手を挙げてしまった。男女は関係なしで、じゃんけんを行うことになってしまった。
理想は、俺と一輝で風紀委員をやることだ。俺は一輝を守ることができるし、一輝も成長できる。まだ、俺だけ受かるか、二人とも落ちるのもアリだ。
最悪なのは、俺だけ落ちて、一輝だけが風紀委員になることだ。そうなってしまったら、助けるのが困難になってしまう。何故なら、彼の周りの変化に気づくのが、遅れてしまうからだ。
立候補した男女ともに、俺は前世で一回も喋ったこともない生徒であった。彼らと仲良くなって情報共有してもらうのは、俺のコミュ力じゃ厳しいだろう。
先生に今決めろと言われたので、みんなで準備をする。俺の負けられない戦いが今、始まった。
「ジャンケーン」
「ポン」
あいこになったので、もう一回タイミングを合わせて、手を出す。
「ポン!」
「やった!」
なんと、一輝の一人勝ちだった。これで、第二の選択肢は消えてしまった。つまり、俺が勝つ以外の方法は無くなったのだ。
「絶対に負けられない」
「怜遠何本気になってんだよ!」
何も知らない真斗はそう言うが、俺には運命がかかっているのだ。気楽に考えることなどできない。というか、考える資格などない。
「ジャンケーン」
「ポン!」
俺と横山は、パーを出して、柴田さんがチョキを出した。つまり、俺の負けは確定してしまった。
「やった! 森君。よろしくね〜」
「うん。よろしくね」
俺は放心状態になってしまった。彼と同じ委員会になれなかったので、どうやって情報を得るべきだろうか。柴田さんと仲良くなるなんて厳しいし、まずこういうあざとい系女子苦手だし……。
「じゃあ最後に余った図書委員だが、まだ決まっていない神里と伊藤でいいな」
ん? 今なんて? 図書委員って放課後駆り出されて面倒なものだ。
しかも話したことのない人だし……。これだけは避けないといけない。
「待ってください。なんで僕がこの委員に……」
「もうこれ以外の委員会と係は決まった上、まだ決まっていないのは君たち二人だけだ」
「まじですか……」
「諦めろ神里。第二第四週の金曜日に図書館にちゃんと行きなさい」
「面倒だ……」
決まったものは仕方ない、精一杯やりますか。
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