そらがなる
そらがなる
空が鳴る。
ゴゴゴゴォォォォと低音の唸るような、響く様なそんな音が。
空は分厚い雲に覆われ、飛行機が飛んでいるかどうかも判断が付かない。
ただ真っ暗な、星も見えない夜空から、厚い雲に覆われた夜空から、唸るように空が鳴る。
大地震の前触れか、と男は思いもしたが、いくら待っても地震は起きない。
ただ、物凄い音で空が鳴っている。
男は空を見上げる。
そこには夜なのに星は見えず、厚い雲に覆われ月も絶え絶えにしか見えない、そんな夜の空が見える。
この雲の上を飛行機でも飛んでいるのではないか。
そう思わせるような音が鳴っている。
ただ、男が住んでいる辺りには飛行場などないし、普段飛行機が飛ぶような場所でもない。
それに流石に雲の上に飛んでいる飛行機の音が聞こえてくるにしたらうるさすぎる音だ。
それに飛行機ならすぐに飛び去って行くはずだ。
けれども、その音はずっと鳴っている。
ゴォォォォォォと唸るように、響くように、鳴る響いている。
男はやがて、その音に慣れる。
はじめこそ、なんだなんだと、気にしてはいたが何も起きないとなると、時が経つにつれ気にしなくなる。
それでも帰り道の道すがら、空を見上げる。
この音の正体はなんだと考える。
わからない。
ただ空から、夜空から、分厚い雲の上から聞こえてくるのだ。
もう深夜に近い時間だ。
夜道には誰もいない。
誰も空を気にしている人間はいない。
もしかしたら自分にしか、この音は聞こえてはないのではないだろうか? そんな妄想にも男は囚われる。
そんなことを男がバカバカしいと思いながらも考えていた時だ。
目が合う。
なにと。
空とだ。
空に大きな、大きな顔が、まるでだまし絵のように、夜に浮かぶ雲に隠れる様に、見えたのだ。
その大きな、巨大な顔を目が確かに合った。
男は急に怖くなる。
見てはいけないものを、気づいてはダメなものに、気づいてしまったと。
ただ雲が人の顔に見えるような模様になっていただけかもしれない。
それでも男には、それがとんでもない事のように思えて仕方がなかった。
男は夜空を見上げるのをやめて、視線を落として急いで帰路を急ぐ。
その間も、空に浮かんだ大きな顔は男を見下している。
今度はそんな妄想に捕らえられてしまう。
それ以来、男は空を見上げることが怖くなった。
そして、下を向いて生きるだけの人生が始まってしまった。
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