ゆうやけ

ゆうやけ

 空が真っ赤に燃える。

 夕焼けの時間。

 昼と夜の間の時間。


 境界の時間。


 なにかが入り込む時間。

 逢魔が時。

 黄昏時。

 そんな境界の時間。


 空はまだ焼けたように赤いのに、地は暗く何者も闇で覆い隠す時間に、それは現れる。


 誰もそれの名を知らない。

 知ってはいけない。

 それは男にも女にも見える。

 優しき隣人であり、遠くで伝え聞くような悪人でもある。

 人の形をしているが、獣でもある。

 人を攫い食い殺すが、気まぐれで人を助けもする。


 そんな存在が、大昔からいる。


 夕焼けの空が焼ける時間に現れる。

 空だけが赤く、地だけが暗く閉ざされた時間に、黄昏時に、逢魔が時に、そんな境界の時間に、それは現れる。

 あなたが独りでいるときに、友人と居るときに、皆と居るときに、それは現れる。


 誰も知らない異邦人であり、誰もが知る有名人でもある。

 声を掛けられたら終わり、答えても終わり、無視しても終わり、対処法など存在しない。

 いや、唯一の対処法は運が良い、という事だ。

 それは気まぐれで人を助けるし、運が良ければ見逃してもくれる。


 気まぐれなのだ。

 曖昧なのだ。

 

 ああ、対処法はないとは言ったが、一つだけある。

 気づかないことだ。

 認知しないことだ。


 そうすれば、あれもこちらに気づかない。


 気づかないフリはダメだ。

 むこうもフリをするだけだ。

 これを対処法と言っていいのかどうかはわからないが。


 世の中には知らないほうが良い事はある。

 特になにかとなにかの境界の間にはいろんなものが入り込んで来る。





 

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