かえるさま

かえるさま

 少年がまだ子供の頃の話だ。

 少年には学校の帰り道、必ず寄ってから帰る場所があった。

 四辻の道に並んで設置されている地蔵様だ。

 ただ少年の目的は地蔵様ではない。

 その地蔵の横にいる大きな、大きな蛙だ。

 少年は、その蛙を蛙様と呼ぶ。


 なぜそう呼ぶのか。

 蛙がそう名乗ったからだ。

 その大きな蛙は人の言葉を喋るのだ。


 少年が友人を連れて行くと、蛙様はいない。

 少年が一人で四辻の地蔵様まで行かなければ、蛙様は現れない。

 蛙様が少年になにを話してくれるのか。


 特にない。

 とりとめのないことを一言二言話すだけだ。

 蛙様の機嫌が良い時は、明日の天気くらい教えてくれるかもしれない。

 それくらいの物だ。


 特に少年に有益なことを教えてくれるわけではない。

 それでも少年は毎日蛙様に会いに行った。


 物珍しかった。


 大きな喋る蛙だ。

 それと関われる非日常自体を少年は楽しんでいいたのだ。


 だが、ある日、蛙様は少年に言った。

 しばらく、ここへは来るな、と。

 せめて梅雨の時期が終わるまで、ここには来るなと、蛙様は言うのだ。

 少年がなぜ、と聞くと、蛙様は良くないものが近づいてきている、あれは子供を攫う、と少年に告げた。


 少年は蛙様の言いつけ通り、一人で四辻にはいかなくなった。

 そして、梅雨の時期がやってくる。

 酷い大雨の日だ。

 少年は蛙様の言いつけを守り四辻には近づかなかった。

 だが、少年はたまに遠くから四辻を見る。


 その時見たのだ。

 大きな大きな、人影が四辻を通り過ぎるのを。

 少年は、あれが蛙様の言っていた良くないものだと理解する。


 梅雨の時期が終わった後、少年は四辻の地蔵前に行く。

 いくつかのお地蔵様が壊されていた。


 それ以降、蛙様が現れることもなくなった。


 少年は自然とその四辻を避けるようになった。

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る