くろいひとかげ

くろいひとかげ

 少年は学校の用事で帰りが遅くなっていた。

 空は夕日で赤く染まり、地は影で黒く染められている。

 そんな時間の話だ。


 少年が帰路についていると、途中の小さな雑木林の中に少年と同じくらいの背丈の人影が見える。

 その人影は声も発せずに、少年に手を振る。

 凄い勢いで手を振る。


 少年はそれを見た瞬間、何とも言えない不気味さを感じたのだという。

 その人影は西日の逆光で真っ黒に見える。

 影に染まった大地と一体化しているようにすら思える。


 それに振っている手が妙に長い気がする。

 振るごとに伸びているような、そんな気さえする。

 

 その場から逃げ出そうかと、少年は思う。

 きっとそれが正しいのだろう。

 けれども、もし友人の誰かだったら、と思うと迷いが生じる。


 そうしているうちに、西日も落ち始める。

 日が落ち始める。


 そうすると、その真っ黒な人影も、夕日に追われて影が伸びる様に、伸び始めたのだ。

 少年と同じくらいの背丈だったのに、今は雑木林に生える木々と同じほどの背丈となっている。

 それを見た少年は急いで駆け出す。

 黒い人影に背を向けて走り出した。


 走り出した後、少年は何度も後ろを振り返ってしまう。

 そこには日に追われる影のように伸びた黒い人影が体をうねらせながら追ってくるのが見えた。


 少年は何とか家にたどり着き、家の玄関に鍵をかけ自分の部屋に駆け込んだ。

 そして、窓からそっと外の様子を伺う。

 外には何もいない。


 少年がホッと胸を撫でおろすと、ちょうど太陽が完全に沈んだ。

 辺りが影に、闇に、黒に覆われる。


 完全に闇に覆われた瞬間だ。

 ガラス窓にバンッと大きな音を立てて、真っ黒な手が打ち付けられた。

 少年はすぐにカーテンを閉じて自分の部屋からも逃げ出す。

 そして、家中の電気を着けて回った。


 それ以来、少年は暗闇を極端に恐れる様になった。

 黒くうねりながら伸びる人影が見えるからだ。




 

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