だれのて

だれのて

 少年は薄暗い部屋で昼寝をしてた。

 昼寝と言ってももう夕方に差し掛かるような時間だ。

 夕方というにはまだ早くお昼というには遅すぎる、そんな時間。

 少年は惰眠をまさにむさぼっていた。

 薄暗い部屋の中で。


 少年が目を覚まし目を開くとぼやけた視界の中で、自分の頭に手が置かれているのが見えた。

 はじめは自分の手かと少年は思った。

 だが、その手は自分の頭のてっぺんの方から、顔にかけておかれている。

 自分でもできなくはないが寝ながらにしては少し無理がある。

 そう考えていると、覆いかぶさっていた手が自分の意志とは無関係に動いた。

 音もなく、触られている感覚もなく、それはすぅと視界から消えていった。

 それを少年は寝ぼけた頭でただ見ていた。

 そして気づく。


 自分の手は普通に両手ともお腹の上に乗せていると。

 扇風機をつけていたので、おなかだけは冷やさないようにと昼寝をする前に自分の両手を乗っけていた。

 そして、自分の両手はそのまま、お腹の上に組むように置かれていた。


 では、先ほどあった手は誰の手なのだろうか?

 少年がそれを考え始めた瞬間、少年の背筋に寒気が走る。

 全身がびくっとする様な強烈な寒気だ。

 それで少年の目が完全に覚める。

 同時に体がまるで言うことを効かなくなる。

 もう眼は覚めているのに、体がまるで動かない。

 いや、動いている。

 ぶるぶると震えている。

 今はまだ寒い時期ではない、どちらかというとまだ暑い時期だ。

 だから扇風機を付けたまま昼寝をしていた。

 なのに今は寒気を感じる。


 いや、これが寒気からくる震えなのか、恐怖からくる震えなのか、少年には理解できなかった。

 わかっているのは自分の頭の方に、枕元に何かがいる、ということだけだ。

 先ほどまで自分の顔に手を置いていた存在がいると言うことだけだ。

 頭の方から、妙な冷気と視線を感じる。

 それはまだそこにいる。

 手をどかしはしたが、それはそこにいる。

 それがゆっくりと立ち上がるのを少年は感じる。

 そして、ゆったりとした動作でそれは少年の左側に回り込んだ。

 少年は目を開けていられなかった。

 恐怖からだ。

 今、目を開けてしまったら、見てはいけないものを見てしまうと思ったからだ。

 少年は必死に目を瞑り、どっかに行け、どっかに行け、どっかに行け、と念いていた。

 ひんやりとした空気が扇風機の風で押し出されてくる。

 それはまた、少年の顔に手を置いた。

 冷たい、ひんやりとした手だ。

 なぜこんなものを置かれて、自分は呑気に寝れていたのだと少年は思うほどだ。


 視線を感じる。

 何者かに見られている。

 じっ、と見つめられている。

 少年は居ても立っても居られずにとうとう目を開けてしまう。

 

 今度はその手をしっかり見れる。

 やはり手だ。

 細く、節くれだった手だ。

 骨と皮だけの、そんなような手だ。

 それが自分の顔に乗せられている。

 その指と指の間から、少年はその手の主を見る。


 少年はその手の主を見て気を失った。

 それは男か女かもわからなかった。

 全身が骨と皮だけの、そんな存在だった。

 目には瞳もなくただ黒い闇だけがあり、口はあるが歯もなく鼻ない。ボサボサの髪をした骨と皮だけの、何かとかしか言えなかった。

 服を着ていたのか、裸だったのか、そんなことを気にしている間はなかった。

 そんな間もなく少年は気を失っていたのだから。


 少年が目を覚ますと既に日が暮れた時間となっていた。

 晩御飯の準備をする音と気配がする、そんな時間だった。



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