それはそこにいる:03
「いや、そんなこと私に言われても…… 私も怖い話ダメなんだけど?」
千尋は翌日、大学で友人の玲子に相談したが、ただただ嫌がられただけだった。
それももっともな話で玲子は千尋以上に怖がりで、怖い話をするだけで目を瞑って両耳をふさぐタイプだ。
なんでそんな友人に相談したかと言うと、怖い話なら玲子と、千尋の中で怖がる玲子がイメージとして残っていただけかもしれない。
今になっても千尋は冷静だとは言い難いのかもしれない。
「そんなこと言わずに今日泊まりに来てよ。逆に私が玲子のうちに行ってもいいから!」
千尋は必死にそう玲子に頼み込むが、そもそも怖いものが苦手な玲子は、千尋に若干ではあるが引ている。
「それでうちにそれが来たらどうするのよ」
そんなことになったらたまった物ではない。
玲子は友情よりも自分の降りかかる恐怖の方が嫌なのだ。
「薄情者!」
と、千尋は恨めしそうに玲子を睨むが、そもそも人選を間違っている。
「友人と思うなら、そんなことに巻き込まないでよ」
と、困ったように玲子が愚痴る。
「うぅ……」
ただ、千尋も本当にまいっているらしく、玲子としてもほっておくわけにもいかない。
「そんな泣くくらいならお祓いでも行けば?」
なので、冗談のつもりでそんな言葉を口にする。
だが、千尋にとってはそれは冗談と捉えてはなかった。
「お祓い! それだ! いくらくらいかかるものなの? 手持ちで足りるかな」
そう言って、千尋は早速スマホで調べ始めた。
「必死だね…… それほど怖かったのか」
その様子を見ていると玲子もだんだんと千尋に同情してしてしまう。
そして、一泊くらいなら、とも思えて来てしまう。
「五千円から一万円? 思ってたより安い! ど、どの神社がいいのかな? いきなり行ってすぐしてくれるのかな?」
嬉々として調べたことを読み上げ始めた千尋を若干冷めた様子で玲子は見る。
その必死さが真実味を帯びていて、とてもじゃないが今の千尋を自分の部屋に招き入れたくないと思ってしまったからだ。
泊まりに行くのはもってのほかだ。
「千尋…… 必死だね……」
「だっ、だって、昨日見たのヤバイ奴だって、本当にヤバイんだって!」
そう言われると玲子は、改めて泊まりに行くのは無理だと確信する。
自分には何もできない。関わるべきじゃない、と。
こうやってお祓いのことを薦めれたのが自分の役割だったのだと、割り切ることにした。
薄情かもしれないが玲子は怖がりなのだ。
「でも手で目を隠してるんだっけ? しかも、掌が見える様に、だっけ?」
玲子は千尋に説明された、そのヤバイ奴の特徴を思い出してみる。
「そう、不気味でしょう?」
「こんな感じ?」
そう言って、そのポーズを取る。
それだけで、千尋の顔が醜く歪み、恐怖の表情を色濃く浮かび上がらせる。
「や、やめて、それ今は見たくない!」
そうは言われるが、それほど特別なポーズとも玲子には思えない。
ただ夜中にそんなポーズを取っている人物を見れば自分も怖がる自信はある。
ただ、それ以上に、
「うーん?」
玲子には疑問が浮かんできていた。
「な、なに?」
「なんで千尋はこのポーズを見て目を隠しているって思ったの?」
ここには鏡がないのでどんなポーズまでか客観的に見えないが、玲子の想像の中では目を隠しているポーズにはあまり思えなかった。
「え?」
千尋も玲子にそう言われて初めてそれに気づく。
「あんまり目を隠しているポーズには見えないと思うんだけど?」
「そ、そう言えば…… どうして目を隠しているって思えたんだろう……」
千尋が顔を真っ青にして茫然としてしまっているので、
「まあ、それはともかくお祓い行くんでしょう? レビューとかついてる神社かお寺ってないの?」
と、玲子は話しかけた。
「あるの?」
必死な感じでそう言われて、玲子も改めて本当に困っていたんだと再認識する。
「たべログならぬ、おはログ? とか?」
とはいえ、この重い雰囲気は怖がりの玲子には耐えれない。
なので、玲子はそんな冗談を言ってしまう。
「ないよね、そんなの……」
そう言って落ち込む千尋に玲子は自分でもスマホで検索し、
「あ、お祓い、レビューより、お祓い、口コミで検索しなよ、まだ出て来るよ!」
と、教えてやる。
それに千尋が食いつく。
「ほんとだ! 東京でできるお祓い神社十選! この中で一番近いのは……」
今の千尋を家に泊めるのは怖くて無理だが、お祓いに付き合うと言うことくらいはできそうだと、玲子はそう思った。
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