ブラッドチョコを召し上がれ♪

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

ブラッドチョコを召し上がれ♪

 ヤバイ。

 マジで好き。

 十六年生きてきて、こんなにガチ恋したことなんて、あたし今までなかった。

 本当に、ヤバイくらい好きすぎてどうにかなっちゃいそう。

 どんなワルイコトだってできちゃいそうなくらいに。


 彼はね、同じクラスでね、見た目は地味なの。色白でヒョロっとして前髪長くて陰気くさくて、いっつもすみっこで本読んでるか眠そうにしてるの。

 でもね、いざってときはね、力がね、すっごい強いの。腕ほっそいのにさ。どっからそんな力出るのってくらい。

 それがきっかけだったんだけどさ、あたしがちょっとバカやってさ、階段から落ちそうになってさ。彼がね、あたしに、手を伸ばしてさ、グイッと。


 はああ。好き。彼のことしか考えらんない。

 だからさ、アプローチしてるよ。これでもいろいろとさ。

 でもなびいてくれないの。全然あたしのこと見てくれないの。

 仕方ないよねえ。態度とメイクでごまかしてるけどさ、それなくした素のあたしって、別にかわいくないし。分かってるんだよ。

 はああ。鬱。


 だからさ、一発逆転、狙おうとか思うじゃん。

 そのタイミングなんだよ。バレンタインデー。

 手作りのチョコ作ってさ、渡してさ、そういうアピールタイムじゃん。

 でも普通に作ったってさ、きっと無理じゃん。どうせなびいてくれないじゃん。


 だからさ。やったよ。おまじない。

 チョコの中にさ。混ぜた。秘密の隠し味。

 あたしの、ケツエキ。


 ああ。届くかなあ。あたしの愛。届いてくれるかなあ。楽しみ。

 チョコは渡せたよ。渡せた。それは大丈夫。

 でも食べてくれなかったらどうしよう。

 鬱鬱鬱。




 それで、寝てた。

 それでさ。ベッドで。風をね。感じてさ。目が覚めた。

 風。カーテンが揺れてた。窓、開いてる?


「あのさあ」


 声が聞こえて、心臓が跳ね上がった。

 なんで? のギモンフが、口からぼろぼろこぼれそうだった。


 あたしの、上。

 ベッドに乗っかって、両手をあたしの頭の横について、見下ろしてくる、彼。

 彼、だった。暗くても見間違えるはずがない。声だって。

 だから、ギモンフが止まらない。

 なんでここに? 窓から入ってきたの? なんで? どうして? そんな当たり前の疑問、だけじゃなくて。


 彼、翼が生えてる。

 天使の羽みたいな白くてふぁさってしてるヤツじゃなくて、黒くて、傘みたいに膜が張って、つまりコウモリみたいな羽。

 長い前髪からのぞく目が、赤く光ってる。

 それでむすっとした口から、牙。牙が、ちらっと見えてる。


「チョコ、何入れたの。ずっと隠して、血を吸ったりもしないようにして人の生活にまぎれてたのにさあ」


 むすっとした顔を、近づけてくる。

 息がかかりそう。


「どうしてくれるのさ。完全に本性が出ちゃって、これじゃ明日学校いけないじゃん。どう責任とってくれるの」


 間近で、むすりとした口が動いて、牙がちらちらと見える。

 刃物を見せられてるみたい。

 あたしは。


「おかわりいる?」


 彼は、むすっとしたまま。


「ぶっちゃけすげーウマかった」


 それで。


 あ。

 しまったなあ。

 スキンケア、もっとちゃんとやっとくんだった……♪

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