第24話 残された最後の言葉

 小狐との出逢いが、どのような影響を与えていたのか。それは、本人でなければ詳しい事情は白狐びゃっこでも分からない。だが一つだけ言えるのは、この出逢いがなければ今の烏兎うとは存在していなかっただろう。


 つまり、得ることができたものは一つや二つではなく、運命をも左右する大切なもの。ゆえに、光華の輝きによって繋がれた想いは、今後の人生を過ごす上で大きな助けになるに違いない。白狐びゃっこ烏兎うとの話を聞き、改めてその事実を理解するのであった……。



「こん。やっぱり那岐なぎさまは、私達のことを愛してくれていたのね。これでようやく分かったわ、光華の意味と心の形というものがね」

「心の形?」


「こん。ええ、居なくなる前に教えてくれた最後の言葉……」


 那岐なぎが最期に残した言葉を思い出す白狐びゃっこは、感慨深く過去の情景をゆっくりと烏兎うとに伝えた。それはまるで、未来を先読みしたかのような想い。


『この先、悲しいことや辛いことが沢山あるかも知れない。それでも、諦めず前を向いてさえいれば、いずれ報われる時がやって来るに違いない。さすれば、いつの日か分かち合える者が現れるであろう。だから焦らずに、ゆっくりと心の形を見つけなさい』


 こうした心の形について、那岐なぎの想いを伝える白狐びゃっこ。どこか寂しくもあるが、瞳に映る輝きは希望に満ち溢れていた。その表情には迷いがなく、全てを受け入れているような面持ちである。


「こん。あの言葉の意味。那岐なぎさまが言っていたのは、烏兎うとのことだったのかも知れないわね」

「僕のこと?」


 白狐びゃっこ烏兎うとの瞳を真っ直ぐに見つめ静かに頷くと、優しく微笑みながら再び口を開く。


「こん。そうよ、心の形とは人間が見せる様々な感情。分かち合える者というのは、想いを共感できる友達のような存在。私は烏兎うとと出逢い、色々なことを教わったわ。だからね、本当にありがとう」

「別にいいよ。そんなに感謝されることなんてしていないからね」


 姉妹たちの想いを聞いた烏兎うとは、照れ臭そうに頭をいた。そんな姿を見た白狐びゃっこは、柔らかな眼差しで話を続ける。そこから窺えたのは、過去を懐かしむかのような口調。


「こん。謙遜しなくてもいいわ、烏兎うとには本当に感謝しているのよ。だってね、こんなにも楽しい日々が送れるのは、全て貴方のおかげだもの」

「そんな風に言われると、なんか照れるよね」


 面と向かって感謝された烏兎うとは、顔を赤らめながら視線を逸らした。すると突然にも、白狐びゃっこがそっと頬に触れながら優しい声色で囁きかける。


「こん。だからね、もう烏兎うとは一人じゃない。辛い時や悲しい時は、いつでも頼ってくれたらいいの。勿論、さっき言ってた、彼女と揉めた話でも大歓迎よ」

「いっ、いや、さっき話したのは彼女じゃなくて、友達だからね!」


 白狐びゃっこの言葉に、烏兎うとは慌てた様子で訂正した。その反応が面白かったのか、くすっと笑う姉妹たち。どうやら冗談で言ったらしく、狼狽うろたえた反応を見て楽しんでいるようだ。


「こん。烏兎うとって、ほんとからかい甲斐があるわね」

「ちょっ……もう勘弁してよ」


 烏兎うとは姉妹たちによって冷やかされたことに、頬を膨らませながら不満を吐露とろする。しかし、この仕草がまた面白かったのか、白狐びゃっこたちは口元に掌を当て笑い続けた。こうして楽しい時間を過ごしていると、いつしか神社周辺の景色は夕暮れ時。


 これにより、琵琶湖の湖面は陽の光に照らされ、何とも趣ある幻想的な雰囲気に包まれた。そんな中、会話も少し落ち着いたようなので、烏兎うとは他の内容へと話題を変えてみる。


「そういえばさ、君たちには仲間がいるって言ってたけど、その後はどうしてるの?」

「こん。そうね、そういえば……あれ以来、連絡は途絶えたままだったわ。この感じからだと、残っているのは私達を含めてあと数人……」


 烏兎うとの質問に対し、白狐びゃっこは寂しげな表情で答える。どうやら数は減っているらしく、現状では五人しか残っていないという。また、霊気で感じることが出来るはずなのに、仲間たちの居場所もよく分からないらしい。


 この謎について尋ねると、意外な答えが返ってきたのである…………。

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