第23話 約束の誓い

 相反あいはんする心から生まれた二つの力。


 永遠の歳月を重ねようとも、生まれ変わることのない言魂ことだまの術。【生滅滅已】しょうめつめつい

 地に落ちた魄霊はくれいをも安息の場所へといざなうことができる言魂ことだまの術。【寂滅為楽】じゃくめついらく


 この悪しき魂を滅する力と弱き魂を救う浄化の力。


 憎しみの念では寄り添うことも出来ず、優しさだけでは癒してやることすら叶わない。こうした二つの神気しんきが共鳴することにより、溢れ出る輝きは約束された導きの光となる。


 そんな話を聞いた烏兎うとは、ある出来事を思い出す。それは、校内で浄化した際に魅せた不思議な輝き。黒猫を天へと帰した時も、心に同じ痛みを感じたという。ゆえに、白狐びゃっこのいう通り全ての想いと考えれば辻褄が合うのかも知れない。


 これによって、ある程度の事情を理解すると、互いに見つめ合いゆっくり口を開く……。



「そっかぁ……あの不思議な輝きって、僕の心から溢れ出たものだったとはね……」

「こん。多分、そう考えれば道理に合うわ」


 白狐びゃっこは、光華の力が全ての想いであると推察する。この話を受け入れ納得した様子で頷く烏兎うと。暫く過去を想い馳せていると――、突然にも瞳から一筋の涙が頬を伝い流れ落ちた……。


「こん。どうしたの烏兎うと! どこか具合でも悪いの?」

「ううん。そうじゃない、そうじゃないんだよ」


 烏兎うとは涙の理由を慌てて否定すると、幼い頃に光華の力を初めて使った出来事を振り返る。


「じつはね、あの時の小狐を思い出しちゃてね」

「こん。烏兎うと……辛い過去を思い出させちゃってごめんね」


白狐びゃっこが謝る必要なんてないよ、それにもう大丈夫だから」

「こん。ほんとに……?」


 申し訳なさそうに表情を窺う白狐びゃっこ。そんな姿に烏兎うとは涙を拭いながら微笑みかける。


「うん。思い出せば、少しは悲しいけどね。でも、あの時の出会いがあったからこそ、こうして二つの力を手にすることが出来たんじゃないかな。じゃなきゃ、今でも魄霊はくれいたちは、滅されるだけの存在だったに違いないからね」

「こん。二つの力を……手にした? ということは……もしかして、どちらの力も備わっていなかったってこと?」


 神気しんきとは滅するだけでなく、言霊ことだまによって浄化し導く力でもある。ところが、簡単には操ること叶わず、過去に二つの力を同時に持ちえた存在などいない。そして、三つ目の能力ともいえるものが、約束された導きの光。


 那岐なぎですら滅却の術と、稀に光華のような力しか扱えなかったという。


「そうだよ。僕が初めて神気の力を授かったのはね、小狐を天へと帰した日」

「こん。じゃあ、今までどうしてたの?」


 烏兎うと神気しんきの力に目覚めたのは、ある日を境にしてのこと。つまり、それまでは一度も使ったことがないのだろう。


「今まではね、霊のような存在が見えていただけに過ぎないかな。二つの力が扱えるようになったのは、さっき言った通りだよ。そこからはね、沢山の修行をして始まりの神気しんきを手に入れた。そして不完全ながらも、忘れ去られた神気しんきだって扱えるようになった。これもすべて、あの小狐のおかげかも知れないね」

「こん。私はてっきり、元々備わっていた力だと思っていたわ。烏兎うとにそんな大変な過去があったなんてね」


 話を最後まで聞いていた白狐びゃっこは、神気しんきの力に目覚めた経緯を知り驚く。しかし、同時に小狐との出逢いが烏兎うとにとって大きな転機になったのだと悟る。これらの事から、出会い・能力・由縁。全ての繋がりは、魂魄こんぱくの輝きから始まった一つの物語といえよう。


 従って、光華の力について知ることは出来たものの、まだまだ知らないことが多く謎に包まれていた。


「まあ、色々と大変だったけど、小狐と誓った約束だからね。僕に出来ることは、魄霊はくれいを苦しみから解放してあげること。それが自分に与えられた使命と信じてね」

「こん。その思いやりの心、ほんとに素晴らしいわ」


 熱い想いに心を打たれた白狐びゃっこは、優しい眼差しを向ける。そして、互いの視線が重なり合い自然と笑みがこぼれた。そんな烏兎うとが、亡くなった小狐に与えた言魂ことだま。そして、固く誓い約束した想いとは何か。


 それは、『君のことは絶対に忘れない、一つでも多くの魂を救って見せる』このような気持ちである。こうした心の形があったからこそ、どんな困難であろうとも前を向いてこれたに違いない…………。

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