第21話 桜の木の下で…………。

 白狐びゃっこから烏兎うとに伝えた内容。それは、光華こうかの力によって生まれ変わった者達だけが、瑞獣ずいじゅうという存在になれるという衝撃の事実。そんな過去から未来へ紡がれる絆によって生まれるもの。ゆえに、那岐なぎと姉妹達は前世から光の霊糸で結ばれている間柄であった。


「つまり……契約を結ばなくても、信頼という絆で繋がれた関係っていうことだよね」

「こん。そういうことよ、だから……なぜ私達が生まれたのか知りたいの。那岐なぎさまがどんな想いから蘇らせてくれたのか」


 口にした蘇りとは、もしかしたら那岐なぎの想いと深く関係しているに違いない。これにより、白狐びゃっこの言葉に烏兎うとは真意を試みるも、先代はこの世に存在しない人物。従って、その想いを知る術はない。


「事情を知りたいのは分かるけど、先代は扱い方を知らないんでしょ」

「こん。そうなんだけど…………」


「じゃあ、残念だけど仕方ないよ」

「こん。でもね、あの表情は何かを隠しているの」


 先代の傍でずっと一緒だった姉妹達。那岐なぎは偶然といいつつ、光華こうかの力を幾度も使っていたという。そのため、何か特別な理由があるのではないかと白狐びゃっこ勘繰かんぐる。


「隠している?」

「こん。そうよ、哀しそうな顔で呟いているのを聞いた事があるの」


 それは那岐なぎと一緒に桜の花を眺めていた時のこと。白狐びゃっこは過去の記憶を思い出し、烏兎うとに当時の状況を話す。


「それって、光華こうかについてのこと?」

「こん。確かなことは言えないけどね。多分、そうだと思うわ」


「その話、もし白狐びゃっこが嫌じゃなければ、聞かせてもらってもいい?」

「こん。ええ、大丈夫よ」


 光華こうかについて何か知っているような素振りを見せる白狐びゃっこ。それは、那岐なぎが想い馳せ口にした言葉。



『愛する人と共に生きたいと願う。けれど……寄り添い合えば、儚い命と光を奪ってしまう。ではどうすれば、私達は幸せになれると言うのだ。この力、この光。本来ならば、君のものだというのに…………』



 桜の木の下で、那岐なぎはそっと呟いた。その切なくも悲しい言葉は、光華こうかの力について語っているように聞こえた。だとすれば、口にした言葉から察するに、先代が能力を故意的に使っていたのは間違いない。しかし、それが何を意味するのかまでは分からなかった。


「なんか深い事情がありそうだね」

「こん。そうなの、その後に真意を問いかけてみたけど、何度聞いても教えてはくれなかったわ」


 当時のことを思い返す白狐びゃっこは、悲しそうな表情を浮かべながら掌を握りしめる。


「ということは、白狐びゃっこ達に言いたくないか、何か訳があって言えないか。このどちらかの理由なんだろうか?」

「こん。分からないけど、あの言葉がなんなのか読み解ければ、那岐なぎさまの気配も説明がつくと思うのよ」


 烏兎うとは真意を探るように口ずさむ。すると――、白狐びゃっこが口にしたものは意味深な言葉。


「気配って、先代は亡くなったんじゃないの?」

「こん。そう、亡くなったはず……じゃないと今の主と契約は出来ないわ」


「だったら何故?」

「こん。私に聞かれても……けど懐かしい温もりを感じるの。那岐なぎさまと結ばれていた霊糸の光を……」


 烏兎うと白狐びゃっこが口にした言葉から、ある疑問を抱く。それは光華こうかの力についてではなく、霊糸の繋がりについてである。


「ということは……どこかで生きてるってこと?」

「こん。さっきも言った通り、二重の契約はできないわ。だから残念だけど、生きている可能性は低いと思う」


 瑞獣ずいじゅうは、霊力を共有することで生きながらえる。しかし、従う相手が亡くなれば、供給が途絶え消滅してしまう。よって、こうならない為にも、他の主を探し出し契約を結ぶ必要があった。


 こうした事情を聞かされていた烏兎うとは、悩みながら困惑する表情を浮かべた…………。

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